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【赤木智弘の眼光紙背】国というシステムから、個人は逃れられない

赤木智弘の眼光紙背:第277回

小型のヨットで太平洋横断にチャレンジしていた、全盲のセーラー、岩本光弘さんと、ニュースキャスターとしてテレビなどでも知られる辛坊治郎さんが、宮城沖1200キロの地点で遭難。自衛隊の救難飛行艇に救助されたそうだ。(*1)

2人に怪我などは無く、元気だということで何よりである。
しかし、テレビなどで自己責任論を声高に主張してきた辛坊治郎が、遭難して救助を要請したということで、ネットでの風当たりは強い。まぁ、愛国とか言っている連中はもちろんだが、普段は自己責任論を厳しく批判する左派の人たちですら「自己責任だろうww」と、彼を揶揄している。

そうした批判の中で、僕が特に気になったのは「自己責任なんだから、救助の費用を支払えww」という批判である。それに対して僕は「じゃあ、本当に辛坊氏がその救助にかかった相当の費用分を、どこかに寄付などしたら、それは「自己責任を果たした」ということになるのか?」と思う。

逆に言えば、そのようにして自己責任が果たせる人なら、お金さえ支払えばいくら遭難しても助けてもらって当然で、辛坊氏ほどお金を持たない人たちは、お金を払えないことで自己責任だと批判されてもいいのか?

そもそも、何らかの問題が発生した個人を、国が助けるのは当然の「社会責任」である。今回の事故で辛坊氏を助けた自衛隊を「カッコイイ」などと翼賛する人たちもいるが、それは国として当然の仕事であって、自衛隊などが主体的に辛坊氏を助けに行ったわけではない。当然の仕事を遂行することをカッコイイと思うのは勝手だが、憧憬と政治的発言の区別はつけるべきだろう。

そして、最も重要なこととしては、国の社会責任から、私たちは自由になることはできないということだ。つまり、個人の自己責任論をもって、個人が国の社会責任の傘に含まれているそのことから逃れることはできない。

僕は自己責任論は甘えだと思う。
自己責任論とはつまるところ、お金の力を持ってすれば、僕達個人が寄り合って生活するこの「社会」というしがらみから、逃避できると信じる人たちの、自分勝手な妄想だろう。

しかし現実は、私たちは国がなければ生きていくことはできない。そして国の下で、私たちは金持ちであろうと貧乏人であろうと等しく「管理」される。国とは私たちを包み込む主体的存在ではなく、私たちを管理するシステムに過ぎない。だから国は個人を区別しない。

いくら自己責任論で粋がろうと、国は遭難者を救わないという選択肢を持たない。またある種の人達がいくら自衛隊をいくら批判しようとも、国の一部である自衛隊は、批判する国民を助けないという選択肢を持たない。そして我々は、その国の中で、同じ生活圏内の他者とのすり合わせを要求されながら、しがらみの中で生活していくしかないのである。そのなかで、私たちはいつでも大なり小なり、他人に負担をかけたり、かけられたりしながら生活をしている。そうした社会責任から、僕たちは金を払って逃れることはできないのだ。

いくら「アイツらがイラクで拉致されたのは自己責任だ!」などと他人を非難し、国に対して「あんな連中助けるな」などと言っても、それは当然のように通用しない。それは今回の辛坊氏の遭難についても、全く同じである。そして辛坊氏が金を払ったとしても、遭難したことはチャラになどならないのである。

今回の経験を通して、自己責任論をがなりたてる辛坊氏が「国」というシステムに対して、まっとうな意識を取り戻してくれることを願う。また、辛坊氏を責め立てる左派は目を覚ませ。愛国とか言ってる連中は……美味しいプリンでも召し上がれ。

*1:<太平洋横断>辛坊さんら2人救助宮城沖1200キロ(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130621-00000087-mai-soci

プロフィール
赤木智弘赤木智弘(あかぎ・ともひろ)
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

@T_akagi - Twitter


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