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生活保護の水際作戦事例を検証する 大西連 / 自立生活サポートセンター・もやい

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生活保護法の一部を改正する法律案(以下、改正法案)が、来週にも今国会で可決されようとしている。改正法案は非常に多くの問題点を含んでいる。

生活保護法改正法案、その問題点/大西連  http://synodos.jp/welfare/3984

とくにもっとも大きな危険性として考えられるのが「水際作戦」の強化である。

「水際作戦」とは、生活保護申請の唯一の窓口である福祉事務所が、本来保障されているわたしたち一人ひとりが制度にアクセスするための「申請権」を無視して、違法・不当に申請を受け付けなかったり、阻止しようとすることである。

本稿では、実際に生活保護申請の窓口でおこっている「水際作戦事例」を紹介したい。

事例を集めるにあたって、もやいを始め、生活保護問題対策全国会議、全国の生活保護支援法律家ネットワーク、日弁連全国一斉生活保護110番、全正連、民医連、ホームレス総合相談ネットワーク、POSSE、DPI日本会議、その他全国のホームレス支援団体や生活困窮者支援団体のみなさまにご協力いただいた。

また、ここに登場する事例は、判例等をのぞいて、本人の許可を得たうえで個人情報に配慮し、一部を改変したり複数の事例を組みあわせて作成している。ご了承いただきたい。

「まだ働けるからダメです」

生活保護制度は、年齢や世帯構成にかかわらず、収入や資産の状況が生活保護基準を下回っていれば利用することができる。年齢的に、または体調的に「働ける」状態であったとしても、そのとき仕事がなかったり、お金がなくて生活困窮していれば、生活保護の利用は可能だ。しかし、実際には、「まだ働ける」ということを理由に、窓口で申請を断られてしまうような場合が非常に多い。

もっともポピュラーな「水際作戦」の方法といえる。以下にいくつか事例を紹介する。

事例1 Aさん 30代男性 失業しネットカフェ生活

正社員として建築関係の寮付きの仕事に就職。しかし、会社が倒産して住まいも失い、ネットカフェ生活になる。日雇いの派遣などで食いつなぎ不安定な日々を過ごすが、仕事自体が減ってしまい生活困窮してしまう。

しかし、役所に行ったら「若いから探せば仕事はある」「努力が足りない」と追い返され、「このままだとホームレスになってしまう」といったら「いままで怠けてきたあなたが悪い」と言われた。

事例2 Bさん 50代女性 精神疾患あり 80代の母と同居(2人世帯)

Bさんは母の介護のために仕事をやめたが、先の見えない状況と介護のつらさから精神疾患になり、日々の生活もままならなくなる。貯金がつきて役所に相談に行くも、「まだ働ける年齢だからあなたが働いて何とかしなさい」「医者はすぐに精神疾患の診断を出すが世のなかそんなに甘くない」「親の面倒をみるのは当たり前だ」と取りあってもらえない。家に帰って無理心中を考えるが思いきれずに知人に相談。知人から支援団体を紹介され、支援団体の人に同行してもらい生活保護申請し、受理される。

事例3 新宿七夕訴訟 Cさん 50代男性 路上生活

2008年、路上生活をしていたAさんが新宿区に生活保護申請をしたところ、「稼働能力の不活用」ということで、数回にわたって生活保護申請を却下された。

これにたいして、却下決定を出した新宿区を被告として「申請保護却下の取り消し」を求める裁判がおこなわれた(新宿七夕訴訟)。

2011年11月、一審では、「法は不可能を強いることはできない」として「(原告は)『稼働能力の活用』の要件は充たしている」と判断。却下処分は違法であり、却下処分の取り消しと生活保護開始決定の義務付けを命じる判決を言い渡し、4年以上にわたった裁判が終結した(2012年7月18日、東京高等裁判所は新宿区の控訴を棄却)。※この事例はいわゆる「水際作戦」とは違うものの、稼働能力があることを理由に保護しないことが違法であると認定された裁判例としてここに記載した。

参照:ホームレス総合相談ネットワーク

http://lluvia.tea-nifty.com/homelesssogosodan/2012/09/post-ca76-1.html

ここで見てきたように、「働ける」という言葉は非常によく使われる「水際ワード」と言える。生活困窮におちいる人は多くの場合、さまざまな「きっかけ」により安定した雇用からこぼれてしまい、不安定な雇用に就かざるをえなかったり、体調を崩してしまったりと、より困難な状況にいたってしまう。

ほかにも「働ける」を理由とした水際例を列挙する。

・北海道 50代 女性

 姉が生活保護申請をしたら「いまはまだ受けられない」と言われた。

・関東 40代 男性

 60代の義父が、仕事を失い市営住宅の家賃が払えず立ち退きを迫られ、生活保護申請に行ったら窓口で「まだ働ける」と言われて断られた。

・関東 30代 男性

 統合失調症があり働けないが「年齢的に働けるので受理できない」と言われた。

・中部 60代 夫婦

 夫婦で生活困窮。役所では「65歳まではダメな決まりなんです」と言われた。

・北陸 30代 夫婦と子ども2人

 妊娠中の妻と子どもを抱えて失業。家族に頼れず生活保護申請に行くも「働ける」「本気で仕事を探していない」「そんな状態で子どもを産むな」と説教され受理してもらえず。

・近畿 30代 女性

 精神障害者手帳をもっている。仕事を探すが見つからず、役所に相談に行ったら生活保護の申請書を書かせてもらえない。

・近畿 40代 女性

 仕事がなく公営住宅の滞納がかさみ、立ち退きを求められる。困って役所に行ったが、生活保護申請の申請書を書かせてもらえない。申請書は誰でももらえるとテレビで言っていたが実際は「あなたはまだ早い」と言われた。

・九州 30代 男性

 先月まで仕事をしていたが不安神経症になり仕事に行けなくなった。生活保護の申請にいったら「まだ若い」「がんばりが足りない」と追い返された。

・九州 40代 男性

 自営業をしていたが現在自己破産手続中。田舎のため新しい仕事をしようにもみつからない。役所に行ったら「自己破産して恥ずかしくないのか」「死ぬ気でがんばれ」と言われて断られた。

・九州 50代 女性

 糖尿病があるが意思の診断書に就労可能と書かれていたため、役所にいったら「まだダメ」と言われた。その後体調が悪化し1カ月入院。生活保護にはなったがいまはヘルパーさんを利用しないと日常生活が難しくなってしまった。

これらは氷山の一角である。「あなたはまだ働ける」「死ぬ気で頑張れ」というのは簡単だ。しかし、実際に仕事を用意するわけでも、彼ら・彼女らの頑張りや経験について真摯に見てきたわけでもない。

福祉事務所の窓口の担当者は、ある意味「生殺与奪」の権限をもっている。

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