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- 2010年05月24日 13:15
電子書籍はフォーマットとアプリを制したものが勝つ
というのが、私の現在の仮説だ。特に、電子書籍に出遅れた感のある日本の出版社が、どうやって電子書籍業界の趨勢を帰られるか、と考えると、フォーマットとアプリを押さえ、圧倒的な機能を持たせて、ユーザのベースを奪うことが鍵、と私は思っている。ちょっと大胆な仮説だし、これだけではイミフメイなので、ちゃんと解説するデス。
1. 電子書籍では、「本」はコンテンツ、フォーマット、アプリ、デバイスの4層に「モジュール化」。今までのようにコンテンツと流通を押さえても、勝てなくなった。
そもそも、電子書籍化で何が一番大きな事件だったか。
それは、今まで、一つの物理的実体として垂直統合されていた「本」が、コンテンツ(本の中身)、フォーマット(.pdfとか.azw)と、それを読むためのアプリ、デバイスの4層に「モジュール化」されたことで、競争環境が全く変わってしまったことである。この「モジュール化」によって、人々はこの4層から好きな組み合わせを選んで、読めるようになった。(実際にはこれに電子本屋が加わった5層のスタックが新たな競争環境となった)例えば、今までは、文庫本を読むとしたら、570円とかで売ってる本を買ってきて、読むしかなかった。電子書籍では、同じ内容(コンテンツ)を読むのに、例えばタダで手に入るpdfのフォーマットで、iPad、またはPCを使い、その上で一番使いやすいアプリを使って読む、というように、各層でユーザが「選ぶ」ことが可能になった。(註: 一部のフォーマットやアプリ、デバイスが垂直統合してるので、完全なモジュール化ではない)

では何が問題かと言うと、こうなることで、出版業界で「勝つ」ための条件が変わってきたのが、おおごとなのである。「本」に垂直統合されてた時代は、「コンテンツ」とその流通を押さえていれば、勝てた。
しかし、モジュール化−つまり水平分業されてしまったあとは、コンテンツだけ押さえても、価値がスルスルっと他のモジュールに抜けやすくなってしまったのだ。
例えば、コンテンツを持っている出版社が、強いデバイスを持つAppleと不利な条件で交渉し、Appleに価値が流れていってしまったりする。コンテンツは重要だが、それだけ持っていても、垂直統合されていた時代ほどの価値を持たないのだ。
デバイスメーカーも、仮にデバイスだけ押さえても、MP3プレーヤーの時のように、韓国や台湾の安価なメーカーが出てきて、コモディティ化を免れないだろう。
2. コンテンツプロバイダーが評価する堅牢性の高いフォーマットと、ユーザが評価するユーザビリティの高いアプリを有するのが、電子書籍業界を牛耳る鍵になる
このように「モジュール化」した市場で勝つためには、一般的に1) ボトルネックになるモジュールを押さえる2) 全体のモジュール構造を支配するための統合ルール(Design Rule)を押さえるの二つが、鍵になる、と私は考えている。
(ということを、いくつかの製造業で精細に示して一般化したのが、私の修士論文。でも非製造業である電子書籍では論文では全く議論してないので、この議論は応用編になります)
ボトルネック、というのは「全体のシステムの中でそのモジュールの機能を上げると、全体の価値が上がる」ようなもののことである。そこを押さえて、爆発的に発達させるのが、モジュール化した業界では業界全体に力を持つための鍵になるわけだ。
で、電子書籍業界においては、ボトルネックであり、統合ルールにもなりうるのが、フォーマットとアプリケーションである、と私は主張しているわけである。
例えば、今電子書籍の業界でのボトルネックの一つは、著作権問題であるが、これはフォーマットで解決しうる。つまりフォーマットは、出版社にとってのボトルネックモジュールになるのだ。例えば、「5回までしかコピーできない」とか「一つのデバイスで使ってる間は他のデバイスで使えない」などのコピーライトに関する制御をフォーマットに埋め込むことで、問題解決が出来る。あるいは、B&NのNookが提供しているような、「貸本機能」も、フォーマットに埋め込んで提供することが出来る。そうすれば、著作権問題だけでなく、ユーザにとっても圧倒的に使いやすくなる。
また、フォーマットには、業界全体を牛耳って、お金が落ちる仕組みを埋め込むことも出来る。例えば、既にClosedなフォーマット戦略でそれを狙ってるのがAmazonだ。
Amazonは独自のフォーマット.azwを使うことで、自社デバイスKindleを使ってるユーザは確実にAmazonで買った本しか読めないように囲い込みをしている。更に、2009年にはiPhoneやブラックベリーなどの端末で動くKindleアプリを出しており、デバイスにはこだわらず、どんなデバイスを持っている人でも、Kindleアプリを使えば、Amazon.comから本を買えるようになった。つまり、それぞれのデバイスが持つ広範なユーザベースを利用しつつも、フォーマットを押さえることで確実に、Amazon.comというマーケットプレイスにお金が落ちるようにしてるわけである。
Amazonのように確実にお金を取りもらさないようにするにはClosedなフォーマットは重要だが、日本の出版社が今から超Closedにしても、ガラパゴスになって終わるだけなので、最初はオープンにして攻めるのが戦術的には恐らく正しい。
このように、出版社にとってもユーザにとっても今までより価値のあるフォーマットを確立するのが、出遅れた出版業界が、電子書籍業界での影響力を高めるのに重要だと思う。出遅れてるので、ユーザベースを獲得するためにある程度オープンにする必要があるし、まずは日本語というニッチなところで攻めるなど、戦術としては色々あるが、大枠の戦略として、フォーマットを抑える、というのが重要だと思うのだ。
もう一つのボトルネックモジュールでもあり、業界を牛耳る鍵にもなるのが、電子ブックアプリだと思う。ユーザがデバイス上で実際に電子ブックを読むためのソフトウェアのことだ。このソフトウェアの機能やユーザビリティは、今以上に圧倒的に上げることが出来る、と思っている。
iPadのiBookという電子ブックアプリは素晴らしく、本を読んでるみたいにページをめくる機能や、検索機能、ハイライト機能、書き込み機能など色々付いていて、読むのには便利だ。しかし、これが電子書籍のあるべき姿か、といわれると、私はもっともっと上があると思う。例えば、本に書き込むだけでなくTweetしたりして、他の人と書き込みを共有したり、過去に読んだ人の書き込みを参照できたり、写真や絵をリンクしたり、他の本をリンクしたり、今思いつくだけでも、もっと色んな機能がついていてもおかしくない、と思っている。
だから、E-bookのアプリは、今後もっと機能やユーザビリティを上げることで、電子書籍全体のユーザエクスペリエンスを上げられると言う意味で、ボトルネックモジュールなのだ。圧倒的な機能やユーザビリティを持つアプリを有することで、ユーザを引き寄せ、今決まりかけている電子書籍の趨勢を、変えることが出来る力を持っている、と思っている。と、同時に、こういう機能を業界標準に推し進めていくことで、業界全体への影響力を持たせることも出来る。
3. このアプリ・フォーマットを、金が儲かるその他の要素にロックインするのが成功の鍵
で、このアプリとフォーマット抑えて、今は無い圧倒的な機能で出版社とユーザを引き寄せるだけで成功するか、というとそうでもない。
アプリとフォーマットは、出版社とユーザをひきつけるための重要な役割を担うが、余りお金にはならない部分だからだ。
お金に直結できるのは、コンテンツ、マーケットプレイス(本屋)、デバイスだけであり、この3つの機能にちゃんと結びつけることで、確実にお金が落ちる仕組みを作ることが鍵である。
日本の出版社連合がやる場合は、著作権問題をクリアした独自のオープンフォーマットで、iPadやPC、Sony LibrieやNookなど、Kindle以外の主要デバイスに対応したアプリケーションを頒布し、Amazon以外の全ての電子書店で流通させる形を取るのが理想的だろう。そのうちAmazonで流通させてやっても良いが、圧倒的なユーザベースを獲得し、Amazonが.azwではないこのフォーマットを扱っても良い、と言い出すまでは、Amazonは八分とするのが良い。こうすることで、コンテンツから確実にお金を得られるようにするのだ。
このオープンフォーマットは、現在流通しているEPUBより圧倒的に優れている必要がある。例えばEPUBが現在対処できないコミックや図表の多い本も対応できたり、「5回までコピーOK」のような、少し複雑なDRM(著作権コントロール)に対処出来ることが要件である。
もう一つ、手でスキャンしてPDF化を進めてるようなユーザを敵と思うのでなく、彼等を取り込むようなフォーマットを形成することが鍵だ。ユーザが自分で取り込んだPDFをこのフォーマットに簡単に変換することで、DRMを付けられるが、色んなアプリの機能を使えるようになる、とかね。
出遅れた日本のデバイスメーカーが、どうやって巻き返すか、という問いは考え中。AppleのiPadと正面衝突すると負けるので、別の方法を考えないとならない気がする。一つはiPadのようなマルチな機能を持つデバイスではなく、電子書籍にフォーカスし、上に書いたような圧倒的なアプリケーションで巻き返しを図ることだが、コンテンツの品揃えがそろわないと結局負けてしまうので、出版業界を儲けさせられるようなフォーマットとともに提供するのは手だろう。
そんなわけで、出遅れた日本の企業たちが、電子書籍業界で巻き返しを図る鍵になるのは、アプリとフォーマット−それも圧倒的に優れたやつでユーザを味方につけること−しかない、と思ってます。
1. 電子書籍では、「本」はコンテンツ、フォーマット、アプリ、デバイスの4層に「モジュール化」。今までのようにコンテンツと流通を押さえても、勝てなくなった。
そもそも、電子書籍化で何が一番大きな事件だったか。
それは、今まで、一つの物理的実体として垂直統合されていた「本」が、コンテンツ(本の中身)、フォーマット(.pdfとか.azw)と、それを読むためのアプリ、デバイスの4層に「モジュール化」されたことで、競争環境が全く変わってしまったことである。この「モジュール化」によって、人々はこの4層から好きな組み合わせを選んで、読めるようになった。(実際にはこれに電子本屋が加わった5層のスタックが新たな競争環境となった)例えば、今までは、文庫本を読むとしたら、570円とかで売ってる本を買ってきて、読むしかなかった。電子書籍では、同じ内容(コンテンツ)を読むのに、例えばタダで手に入るpdfのフォーマットで、iPad、またはPCを使い、その上で一番使いやすいアプリを使って読む、というように、各層でユーザが「選ぶ」ことが可能になった。(註: 一部のフォーマットやアプリ、デバイスが垂直統合してるので、完全なモジュール化ではない)

では何が問題かと言うと、こうなることで、出版業界で「勝つ」ための条件が変わってきたのが、おおごとなのである。「本」に垂直統合されてた時代は、「コンテンツ」とその流通を押さえていれば、勝てた。
しかし、モジュール化−つまり水平分業されてしまったあとは、コンテンツだけ押さえても、価値がスルスルっと他のモジュールに抜けやすくなってしまったのだ。
例えば、コンテンツを持っている出版社が、強いデバイスを持つAppleと不利な条件で交渉し、Appleに価値が流れていってしまったりする。コンテンツは重要だが、それだけ持っていても、垂直統合されていた時代ほどの価値を持たないのだ。
デバイスメーカーも、仮にデバイスだけ押さえても、MP3プレーヤーの時のように、韓国や台湾の安価なメーカーが出てきて、コモディティ化を免れないだろう。
2. コンテンツプロバイダーが評価する堅牢性の高いフォーマットと、ユーザが評価するユーザビリティの高いアプリを有するのが、電子書籍業界を牛耳る鍵になる
このように「モジュール化」した市場で勝つためには、一般的に1) ボトルネックになるモジュールを押さえる2) 全体のモジュール構造を支配するための統合ルール(Design Rule)を押さえるの二つが、鍵になる、と私は考えている。
(ということを、いくつかの製造業で精細に示して一般化したのが、私の修士論文。でも非製造業である電子書籍では論文では全く議論してないので、この議論は応用編になります)
ボトルネック、というのは「全体のシステムの中でそのモジュールの機能を上げると、全体の価値が上がる」ようなもののことである。そこを押さえて、爆発的に発達させるのが、モジュール化した業界では業界全体に力を持つための鍵になるわけだ。
で、電子書籍業界においては、ボトルネックであり、統合ルールにもなりうるのが、フォーマットとアプリケーションである、と私は主張しているわけである。
例えば、今電子書籍の業界でのボトルネックの一つは、著作権問題であるが、これはフォーマットで解決しうる。つまりフォーマットは、出版社にとってのボトルネックモジュールになるのだ。例えば、「5回までしかコピーできない」とか「一つのデバイスで使ってる間は他のデバイスで使えない」などのコピーライトに関する制御をフォーマットに埋め込むことで、問題解決が出来る。あるいは、B&NのNookが提供しているような、「貸本機能」も、フォーマットに埋め込んで提供することが出来る。そうすれば、著作権問題だけでなく、ユーザにとっても圧倒的に使いやすくなる。
また、フォーマットには、業界全体を牛耳って、お金が落ちる仕組みを埋め込むことも出来る。例えば、既にClosedなフォーマット戦略でそれを狙ってるのがAmazonだ。
Amazonは独自のフォーマット.azwを使うことで、自社デバイスKindleを使ってるユーザは確実にAmazonで買った本しか読めないように囲い込みをしている。更に、2009年にはiPhoneやブラックベリーなどの端末で動くKindleアプリを出しており、デバイスにはこだわらず、どんなデバイスを持っている人でも、Kindleアプリを使えば、Amazon.comから本を買えるようになった。つまり、それぞれのデバイスが持つ広範なユーザベースを利用しつつも、フォーマットを押さえることで確実に、Amazon.comというマーケットプレイスにお金が落ちるようにしてるわけである。
Amazonのように確実にお金を取りもらさないようにするにはClosedなフォーマットは重要だが、日本の出版社が今から超Closedにしても、ガラパゴスになって終わるだけなので、最初はオープンにして攻めるのが戦術的には恐らく正しい。
このように、出版社にとってもユーザにとっても今までより価値のあるフォーマットを確立するのが、出遅れた出版業界が、電子書籍業界での影響力を高めるのに重要だと思う。出遅れてるので、ユーザベースを獲得するためにある程度オープンにする必要があるし、まずは日本語というニッチなところで攻めるなど、戦術としては色々あるが、大枠の戦略として、フォーマットを抑える、というのが重要だと思うのだ。
もう一つのボトルネックモジュールでもあり、業界を牛耳る鍵にもなるのが、電子ブックアプリだと思う。ユーザがデバイス上で実際に電子ブックを読むためのソフトウェアのことだ。このソフトウェアの機能やユーザビリティは、今以上に圧倒的に上げることが出来る、と思っている。
iPadのiBookという電子ブックアプリは素晴らしく、本を読んでるみたいにページをめくる機能や、検索機能、ハイライト機能、書き込み機能など色々付いていて、読むのには便利だ。しかし、これが電子書籍のあるべき姿か、といわれると、私はもっともっと上があると思う。例えば、本に書き込むだけでなくTweetしたりして、他の人と書き込みを共有したり、過去に読んだ人の書き込みを参照できたり、写真や絵をリンクしたり、他の本をリンクしたり、今思いつくだけでも、もっと色んな機能がついていてもおかしくない、と思っている。
だから、E-bookのアプリは、今後もっと機能やユーザビリティを上げることで、電子書籍全体のユーザエクスペリエンスを上げられると言う意味で、ボトルネックモジュールなのだ。圧倒的な機能やユーザビリティを持つアプリを有することで、ユーザを引き寄せ、今決まりかけている電子書籍の趨勢を、変えることが出来る力を持っている、と思っている。と、同時に、こういう機能を業界標準に推し進めていくことで、業界全体への影響力を持たせることも出来る。
3. このアプリ・フォーマットを、金が儲かるその他の要素にロックインするのが成功の鍵
で、このアプリとフォーマット抑えて、今は無い圧倒的な機能で出版社とユーザを引き寄せるだけで成功するか、というとそうでもない。
アプリとフォーマットは、出版社とユーザをひきつけるための重要な役割を担うが、余りお金にはならない部分だからだ。
お金に直結できるのは、コンテンツ、マーケットプレイス(本屋)、デバイスだけであり、この3つの機能にちゃんと結びつけることで、確実にお金が落ちる仕組みを作ることが鍵である。
日本の出版社連合がやる場合は、著作権問題をクリアした独自のオープンフォーマットで、iPadやPC、Sony LibrieやNookなど、Kindle以外の主要デバイスに対応したアプリケーションを頒布し、Amazon以外の全ての電子書店で流通させる形を取るのが理想的だろう。そのうちAmazonで流通させてやっても良いが、圧倒的なユーザベースを獲得し、Amazonが.azwではないこのフォーマットを扱っても良い、と言い出すまでは、Amazonは八分とするのが良い。こうすることで、コンテンツから確実にお金を得られるようにするのだ。
このオープンフォーマットは、現在流通しているEPUBより圧倒的に優れている必要がある。例えばEPUBが現在対処できないコミックや図表の多い本も対応できたり、「5回までコピーOK」のような、少し複雑なDRM(著作権コントロール)に対処出来ることが要件である。
もう一つ、手でスキャンしてPDF化を進めてるようなユーザを敵と思うのでなく、彼等を取り込むようなフォーマットを形成することが鍵だ。ユーザが自分で取り込んだPDFをこのフォーマットに簡単に変換することで、DRMを付けられるが、色んなアプリの機能を使えるようになる、とかね。
出遅れた日本のデバイスメーカーが、どうやって巻き返すか、という問いは考え中。AppleのiPadと正面衝突すると負けるので、別の方法を考えないとならない気がする。一つはiPadのようなマルチな機能を持つデバイスではなく、電子書籍にフォーカスし、上に書いたような圧倒的なアプリケーションで巻き返しを図ることだが、コンテンツの品揃えがそろわないと結局負けてしまうので、出版業界を儲けさせられるようなフォーマットとともに提供するのは手だろう。
そんなわけで、出遅れた日本の企業たちが、電子書籍業界で巻き返しを図る鍵になるのは、アプリとフォーマット−それも圧倒的に優れたやつでユーザを味方につけること−しかない、と思ってます。



