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食品表示から考える「奇跡のリンゴ」

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映画「奇跡のリンゴ」が公開されました。以前、NHKのプロフェッショナルに取り上げられ、大きな反響をうけたことことから、その後も関連本などが多数出版されてきました。今回の映画はその流れにあるものと理解しています。一方で、その農法について疑問の声もあがっていました。映画化を機に、あらためて「奇跡のリンゴ」をどう評価するかについて議論が巻き起こっています。そこで、このブログでは食品表示や消費者への情報提供の面から、「奇跡のリンゴ」を考えてみたいと思います。

なお、本エントリの引用部分における強調はブログ主によるものです。

一般的な農産物の表示

まず、農産物について、どのような情報提供が行われているか考えてみたいと思います。通常、われわれが農産物を購入するスーパーなど、販売する場所と生産地(製造や飼育・と畜・水揚げなども含む)が離れている場合には食品表示が行われています。この食品表示が、消費者に対する最低限義務化された情報提供事項となります。

りんごなど、生鮮食品の表示は生鮮食品品質表示基準に基づいて行われます。農産物に関する表示事項は、「名称」と「原産地」です。「名称」は「りんご」や「トマト」など、その物が何であるか。「原産地」はそれがどこで生産されたかであり、農産物については都道府県単位で表示することが基本になります。生鮮食品品質表示基準には表示すべきことと同時に「禁止事項」についての記載もあります。そこでは、「実際のものより著しく優良または有利であると誤認させる用語」(第6条(1))や「製品の品質を誤認させるような文字、絵、写真その他の表示」(第6条(3))などの表示が禁止事項としてあげられています。さて、今回考えていきたいのは、「無農薬」や「自然」あるいは「天然」といった表示を行うことの是非です。

参考 生鮮食品品質表示基準

有機農産物

いわゆる「化学物質」に頼らない農産物の認証には有機JAS制度があります。これは、国が一定の基準を設け、その基準をクリアしたもののみに有機JASマークと「有機」「オーガニック」の名称の使用をみとめるものです。

農林水産省 有機食品の検査認証制度 より

有機JASマークは、太陽と雲と植物をイメージしたマークです。農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないで、自然界の力で生産された食品を表しており、農産物、加工食品、飼料及び畜産物に付けられています。

リンク先を見る 有機食品のJAS規格に適合した生産が行われていることを登録認定機関が検査し、その結果、認定された事業者のみが有機JASマークを貼ることができます。 この「有機JASマーク」がない農産物と農産物加工食品に、「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されています

有機認証の取得には、それなりに手間とコストがかかります。そのことを嫌い、あえて認証を取得しない生産者もいます。

いわゆる「無農薬栽培」

有機農産物の認証をとっていなくても、いわゆる「化学物質」に頼らない農産物を生産している農家がいます。そうした有機以外の「無農薬」「減農薬」で生産された農産物を表示することはできないのでしょうか?その要求に応えるのが「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」です。

農林水産省 特別栽培農産物に係る表示ガイドライン より

その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物です。

リンク先を見る節減対象農薬と化学肥料双方の節減が必要です。なお、節減対象農薬を使用しなかった場合、「節減対象農薬:栽培期間中不使用」との表示になります。

いままで、特別栽培という名称を知らなかった方もいるかもしれません。「無農薬」「減農薬」の方が消費者にとってもわかりやすい気もしますが、何故わざわざ「特別栽培」という制度ができたのでしょうか?Q&Aを読むと、その経緯などが理解できます。

参考 農林水産省 特別栽培農産物に係る表示ガイドライン Q&A

もともと、農薬や化学肥料を節減して栽培した農産物は生産者の独自の基準に基づき、多様な表示で供給されていました。そこで、流通事業者や消費者が、一定の基準によって判断できるようなガイドラインが作成されました。しかし、ガイドラインは、あくまでガイドラインであるため、法令によって義務づけられているわけではありません。(Q1)

このガイドラインでは「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」の語を表示してはならないとされています。それは生産者と消費者が受け取るイメージに差があるため、優良誤認を招くケースがあったためです。

「無農薬」の表示を例にすると

生産者「当該農産物の生産過程等において農薬を使用しない栽培方法により生産された農産物」を指す表示
表示から消費者が受け取るイメージ「土壌に残留した農薬や周辺ほ場から飛散した農薬を含め、一切の残留農薬を含まない農産物

となります。これは「無化学肥料」についても同様です。(Q6)

また、消費者の多くが、「無農薬」は、より厳しい基準と認証基づく「有機」「オーガニック」よりも優良であると誤認しているということも明らかになりました。

そうした誤解を防ぐために、このガイドラインでは農薬を使用していない農産物には「農薬:栽培期間中不使用」「節減対象農薬:栽培期間中不使用」(節減対象農薬を使用していない農産物に対して)と表示します。また、節減対象農薬を節減した農産物には「節減対象農薬:当地比○割減」「節減対象農薬:○ ○地域比○割減」と節減割合もあわせて表示を行います。

ただし、こうした表示を確実に行っている場合には、「農薬未使用」、「農薬無散布」「農薬を使ってません」「農薬節減」「農薬節約栽培」といった消費者に誤解を与えず、特別な栽培方法を正確に消費者に伝えることができる内容の表示を行うこともできるとされています。しかし、あくまで決められた表示を行っていることが前提です。

また、禁止事項もあります。ガイドラインでは、消費者を誤認させるような用語・文字・絵等を、一括表示欄やその枠外に表示することは禁止されています。(Q7)Q&Aから引用します。

  1. 一括表示の枠内に、ガイドラインに規定されている表示事項以外の事項を表示すること。
  2. 特別栽培農産物の表示をした場合の「天然栽培」、「自然栽培」等の紛らわしい用語(ただし、従来からの明確な基準による農法で自然等の表示を冠するもので一括表示の枠外に表示した場合を除く。)
  3. 実際のものより著しく優良又は有利であると誤認させる用語
  4. 通常の栽培方法により栽培された農産物より著しく優良又は有利であると誤認させる用語
  5. ガイドラインの表示事項の内容と矛盾する用語
  6. 当該特別栽培農産物の栽培方法、品質等を誤認させる文字、絵、写真その他の表示
  7. 「無農薬栽培農産物」、「無化学肥料栽培農産物」、「減農薬栽培農産物」及び「減化学肥料栽培農産物」等の用語

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