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【読書感想】キャリアポルノは人生の無駄だ

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「みんな同じ」でなければならないという圧力がかかるのは、常に他人と比べてしまう習性の裏返し。

比べなければ、同じである必要もないのだから。


ただ、この本は全体的に、ちょっと「粗い」のではないかと思うところも多かったのです。

著者のサービス精神が暴走してしまっているというか……


この本の前半では、自己啓発書が批判されているのですが、なかには、ウォルター・アイザックソンさんの『スティーブ・ジョブズ』なんかも含まれているわけです。

えっ、あれって「自己啓発書」なのだろうか……

僕はアイザックソンさんの『スティーブ・ジョブズ』は、「伝記」だと思います。

偉い人、成功した人が書いた本、あるいは、そういう人たちについて書かれた本は、みんな「自己啓発書」で「キャリアポルノ」っていうのは、さすがに乱暴なのではないかと。

それなら、『史記』とかヘロドトスの『歴史』も、キャリアポルノ、なのだろうか……


著者が「キャリアポルノ」のなかに含めている稲森和夫さんの『生き方』とか僕も読みましたが、「まあ、社畜養成ギブスみたいなものだけれども、こういう考え方で仕事をやる人を全否定することもできないよなあ」と感じたんですよね。

これはちょっと行きすぎ、と思うところもあるけれど、参考になるところも少なくありません。

矢沢永吉さんの『成りあがり』は、うーん、あれは「キャリアポルノ」なのだろうか……エンターテインメントとして消化している人が多いのではないかなあ……


もちろん、『金持ち父さん貧乏父さん』とか、与沢翼さんの『秒速で1億円稼ぐ条件』みたいな、「これはまさに『キャリアポルノ』だよね」としか言いようがない本のタイトルも多数紹介されているのですが。


「『キャリアポルノ』というジャンルがあるのはわかるけれど、著者の『キャリアポルノ』は、ちょっと範囲が広すぎる」と僕は感じました。


実は、著者が本当に言いたいことは、「キャリアポルノの悪口」ではなくて、「働く人たちにゴールのない競争を強いて、しかもそのレースの参加者たちに、効果がないと知りながら『自己啓発書』まで売りつける連中のあざとさ」なんですよね。

そして、「自分の生き方を、自分自身で考え直さなければ、いいように使い捨てられるだけだよ」ということ。

これは、著者が一貫して言い続けていることでもあります。


 なにせ自己啓発書では何が何でも「絶対」「完全」「秒速」「成功」なのです。表紙の時点で完璧にうまくいくことが確約されているようなものです。ラッシャー木村氏にマイクパフォーマンスで侮辱されようが、マツコ・デラックスさんに「あんたなんてチンカスだわ」などとなじられてもゾンビのように立ち上がってくる力がみなぎっています。

 自己啓発書はそもそも字を読むのが嫌いで努力も嫌いな人向けなので、難しい字や言葉は使っていません。そもそも、「一分間」で大金持ちになりたい人が読む本なので、辞書で調べないと意味がわからないような言い回しや言葉は使っていないのです。言語のレベルはだいたい中堅の高校に通う高校生くぐらいのレベルです。

 売れ筋の本になればなるほど字が大きく、行間の余白が大きいのも特徴です。これはなぜかというと、字が大きくて余白が大きければ早く読み終わるので「俺はこんなに速く本が読める。よし、この調子で大金持ちになる」というやる気を持ってもらうためです。著者は書くのも楽だし、編集も校正も他の本に比べたら楽なのです。まさに、売る方にも買うほうにもWin-Winのソリューション、それが自己啓発書なのです。


しかしながら、この本を読んでいてインパクトがあるのは、前半の著者が自己啓発書とその読者たちを「めった斬り」にするところ。

でも、そこが面白すぎて、読み誤られてしまうのではないかと心配になるのです。

「キャリアポルノを読んでいるだけで、自分が偉くなったような気分になる連中」を、「キャリアポルノを読んでいる連中をバカにするだけで、自分が『わかっている人間』だと錯覚する人々」が嘲笑する、という、ハイパーネガティブスパイラル優越感ゲームの引き金になってしまいそうなんですよ、この新書。


これを読んでいて、朝井リョウさんの直木賞受賞作『何者』の最後のところを思いだしてしまいました。

「意識高い系」の知人をSNSなどで、ハンドルネームを使って物陰から嘲笑する主人公、しかし、「意識高い系」も、追いつめられ、もがいているのです。

自分では何もしないで、ただ、「あの人、『意識高い系』だよね」とバカにしているだけの人は、『意識高い系』よりも「賢い」のか?


この新書のなかで、著者自身も、キャリアのなかで「意識高い系」だった時期があったことを告白しています。

「車をぶつけてみないと、車幅感覚はわからない」なんて言われますが、そういう「自己啓発しようとした経験と挫折」があればこそ、辿りついた「生き方」が、この本の読者に、どのくらい伝わるものなのだろうか。


著者は「働き方、努力の方向性、自分にとって大事なものを、もう一度考えてみたほうがいいですよ」って言っています。

「自己啓発書マニアになって、何者かになったような気分になる」ことは、時間の無駄だ、と。

まあ、競馬の予想家みたいなものですよね。本当に確実に儲かるのなら、他人に教えずに、自分でやればいいのだから。

この本のなかでは、自己啓発書の著者たちの「どうしようもない人生の推移」も、たくさん紹介されていますし。


 仕事でこんな実績を上げた、こんなふうに昇進した、こんなふうに給料があがった、同僚に勝った、偉くなった、ということだけが人生ではないのです。仕事は仕事、人生のほんのひとつの側面にすぎず、自分を表すことのほんの少しのことでしかないのです。


「私とあの人は同じでなければならない」

「あの人が私より評価されるのは許せない」

「あの人は私よりお金があるのに、なぜ私にはないのか」

「私は学歴も仕事も優れているのに、なぜあの人と同じように有名にならないのか」

「あの人は私より不細工なのに、なぜ美男子の彼氏がいるんだろう」

「なぜあの人にできて私いはできないの?」

「あの人は楽しそうだが私は楽しくない、許せない」


 こんな考え方に心当たりはないでしょうか? ネットで、一度も会ったことがない人を執拗に攻撃したり、職場でうまくいっている人の陰口を叩いたり、学校で気に入らない人を虐めている人の心の中にあるのはこのような「私とあの人は同じでなければならない」という思い込みです。その思い込みが、嫉妬の感情に繋がるのです。


 仕事って、大事なんですよやっぱり。

 僕は、そう思う。

 仕事がなかったら、人生は長過ぎるんじゃないか、とも感じます。

(その一方で、仕事ばっかりしていると、人生は短くなりすぎるよね……)


 でも、だからこそ、「仕事だけが人生じゃない」ことを、もう一度考えてみるべきなのでしょう。

 「仕事をすること」が悪いんじゃない。

 他の人が決めた価値観を疑うこともなく流されて、「みんなと同じであるために、仕事は終わったのに職場でダラダラしていたり、行きたくもない飲み会に付き合ったりするような働き方」をするのが、人生の無駄遣いなのです。


 「本当に仕事が好きで、楽しいから、仕事をする」そういう人は、それで良いと思う。

 大事なのは、「自分が本当に何をやりたいのか、やるべきなのか」を、自分自身で考えてみること、なのでしょう。


 ……とまあ、こんな話を「明日仕事行きたくないなあ、今夜も呼び出されないといいけどなあ……」などと思いつつ、僕も書いているわけです。

 「普通の人生」って、そんなものなんだろうけどさ。

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