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インテリジェンスと個人情報

米国で話題となっています国家安全保障局(NSA)によるネットでの個人情報の収集は、個人的にはまたか、という感じもします。CIAやFBIによる米国民への調査は、反戦活動家の監視や、公共の図書館での貸し出しリストの調査など枚挙に暇がなく、今回の一件もその延長上にあるものですが、一応整理しておきます。

 米国では1978年の外国諜報監視法(FISA)という法律で、米国内で米国人を監視することを禁じています(そもそもCIAは米国内で活動しないことになっていますが)。ここでの対象はあくまでも外国人になります。これはイギリスを始め、多くの欧州諸国も似たようなものです。ところが2001年の9/11テロでこの建前が大きく変わります。米政府はテロとの戦いのために米国愛国者法を制定し、秘密裁判所からの国家安全保障書簡(NSL)という許可を得る形で、国内での情報活動を活発化させるわけです。しかし問題は、対テロ調査とその他の調査の線引きが曖昧なままになっていたことです。例えば以前であれば、FBIが通常の捜査の過程ではまだ犯罪に手を染めていない人物を調べることはできなかったのですが、「対テロ調査のため」とNSLの大義名分を立てれば、テロ捜査とは関係あろうがなかろうが、取り調べが可能になってしまったのです(シュビラシステムもビックリですね)。この趨勢は2007年の米国保護法によっても強化され、盗聴行為などはかなり頻繁に行われるようになりました。

 このような調査権限の強化に対して、「いくらなんでもやり過ぎではないか」、という議論が高まり、個人のプライバシーを法律で守り、情報機関の権限強化に対抗しようとしていた動きがあったのですが、今回の事案はちょうどそのような中で起こったわけであります。ただ米国人の本音ベースは恐らく「どうせ政府は今回の事件のようなことは日常的にやっているんだろう」、というものではないかと推察しますし、米国の世論は個人のプライバシー保護よりもテロ対策による安全確保の方を望む声の方が多いようですので、日本から見ていますと何ともいえないところがあります。

 NSAの行為自体は、合法なのか違法なのかなかなか判断し難いところがあります。これを判断するのは米議会に設置されている情報委員会ですが、恐らく今回の一件はグレーゾーンとして処理されるのではないかと思います。NSAに関しては過去にも似たような事例がありますし、そもそもNSAは英豪加、ニュージランドと一緒にエシュロンという通信ネットワークを運用しています。NSAは自国内の盗聴は出来ない建前ですが、結局英国やその他の国の機関に依頼して米国内の通信傍受を肩代わりしてもらい、その代わりにNSAは英国内の通信を傍受して、お互いに交換しているわけですから、自国内で通信傍受をしてはいけない、という文言は空文化しているのが現状でしょう。

 それから今回、部内リークを行った元CIAのスノーデン氏は香港に逃れたようですが、いくら勇気ある告発を行ったとはいえ、これは米国の秘密保護規定に違反します。法律によると秘密漏洩1件につき懲役10年です。まぁ本人もこのことを良く認識していたので国外逃亡したわけでしょうが、その逃亡先が中国というのは何とも意図的なものを感じます。

 今回の件で改めて感じたのは、やはりNSAのような強固な秘密組織の部内情報は、ハッキングなどではなく、部内リークによってしか出てこないということです。今回の漏洩によってNSAはセキュリティーをさらに強固にし、職員のバックグラウンドを厳しくチェックするようになるでしょう。それに対して、米国民のプライバシー保護強化を求める声はさらに高まり、今後なんらかの法的な枠組みが整備されていくのではないかと思います。

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