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「弁護士強制」がもたらす未来

「二割司法」という、わが国の司法に、膨大な機能不全が存在するような極端な描き方とともに、進められた弁護士の激増政策。いうまでもなく、その発想は、わが国の社会に大量の泣き寝入りや不正解決がはびこっていることを前提に、それを生み出している原因が、弁護士の決定的な不足にあることにつなげるものでもありました。弁護士をどうしても増やさなければならない現実が、この国に存在しているということが強調されたのです。

結果、2000年度から2011年度までの12年間に弁護士の数は、ほぼ8割増加しました。ところが、事件は増えていない。刑事・民事を合せた全国裁判所の新受件数は、2003年度をピークに減少。12年間でほぼ3割減っています(「longlowの日記」『司法統計から見る新受の訴訟件数の推移』)。

この現実は、当然に前記した「改革」の描き方への疑問に結び付けられるものです。「二割司法」がイメージさせたような、大量の潜在需要は存在していなかったということ。そして、増員が需要を生み出すという見方にも立てないということ。いくらわが国の弁護士の訴訟偏重を言い、こうした事件数に現れてくるものだけが、弁護士の需要ではないといってみても、弁護士の本来的業務といえる訴訟における、この結果は、無視できない決定的な現実のはずです。

しかし、それでも増員を続けるという前提に立って、この「事件がない」という状況を打開する、ほとんど唯一の「特効薬」としてささやかれているものがあります。それは、弁護士強制制度です。弁護士関与の義務化、依頼者・市民からすれば弁護士選任の義務化。離婚等の紛争に必ず弁護士をつけなければならなくなれば、弁護士の需要は増えた形になりますし、それにとどまらず、もし、訴訟外の法律行為にこの制度が導入されれば、それこそ契約や申請に弁護士の出番を増やすこともできます。

いってみれば、「改革」が描いた、社会の隅々に弁護士が登場する社会を、制度によって強制的に現出させるものということができます。

この方向性について、裁判所は本人訴訟の増加と関連して、主に訴訟の迅速化という点で関心を示しており(「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」http://www.courts.go.jp/about/siryo/hokoku_04_hokokusyo/)、さらに「改革」推進派の立場に立つ大マスコミの論調のなかにも、「効率化」という観点から、その可能性に言及するものもあります(「弁護士強制制度という方向」)。

しかし、この制度が導入される本当の影響、依頼者・市民のデメリットが果たしてきちっと伝えられているのかは、疑問といわざるを得ません。最近、出版された「司法崩壊の危機弁護士と法曹養成のゆくえ」(花伝社)のなかで、共著者の1人である武本夕香子弁護士が指摘しています。

「(弁護士強制主義によって)弁護士に対する需要を作り出すことはできるが、依頼者市民は、その都度弁護士費用を払わされ、社会生活を営むうえでの経済的、労力的及び時間的負担が大きすぎるデメリットがある」

「この弁護士強制主義を採用すると、弁護士に受任義務が発生し、弁護士が受任を拒否すればその弁護士は懲戒に曝される危険がある。弁護士強制主義を採った場合に弁護士が受任を拒否することは、すなわち憲法で保障された裁判を受ける権利を侵害することにつながるからである」

「そのため弁護士は、いかなる無理な裁判でも引き受けざるを得なくなり、訴訟事件数は急増するが、良心に従い受任を拒否した弁護士は直ちに懲戒に掛けられることになる。懲戒を掛けられないためには、不当訴訟であっても弁護士が法的手続きを取らざるを得なくなり、言いがかり訴訟が頻発する。良心的な弁護士であってもその弁護士に言いがかり訴訟の無理筋の相談者を送り込めば簡単にその弁護士を懲戒に掛けることもできるようになる」

要は、弁護士の出番が作られることによって、依頼者・市民の負担が必然的に増えるということ。それと同時に、この制度によって、単に事件が増えて出番が増えることを、経済的なメリットとして受けとめる弁護士はともかく、無理筋な主張を掲げることに躊躇する良心的な弁護士も、関与を余儀なくされること。その結果として、言いがかり訴訟が増える。そして、言いがかり訴訟に対する、また弁護士の出番が増え、市民の負担も増えるということ――。

まさに、市民のためには好ましくない、訴訟社会化への階段そのものです。実は、この強制主義について、弁護士の中でもその賛否で意見が分かれています。ただ、嫌な感じがするのは、この弁護士強制制度は、「改革」の増員路線堅持という意味でも、「社会の隅々」に弁護士が登場する社会、つまりは出番が増えることはいいこととする描き方を重ね合わせられるという意味でも、さらには、現下、弁護士の本来業務を拡大する、即効性がみえる具体策がないという意味でも、すっぽりとそこに果てはめられてしまいそうな対策であることです。

弁護士の出番が増えることは、市民にとっていいことなのだという大前提を叫び続けることによって、デメリットをデメリットとして伝えなくさせることもできるかもしれません。やはり「改革」の根本的な描き方が果たして正しかったのかどうか。そこに立ち返らなければ、市民はいつのまにか望んでもいない状況におかれてしまうことになりかねません。

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