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メディア全体で「つながる」ことの大切さが問われている 河北新報編集委員・寺島英弥氏インタビュー

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―― まさにわたしたちが肝に銘じないといけないことですね。もう少し具体的に、米国のジャーナリズムの取り組みの研究成果について教えてください。

この留学では読者離れが深刻な米国の新聞が、読者とどのようにつながっていこうとしているのか、「シビック・ジャーナリズム」「パブリック・ジャーナリズム」との出合いから7カ月にわたって全米の大学や地方紙を訪ね、その取り組みを調べました。調査の結果は『シビック・ジャーナリズムの挑戦 ― コミュニティとつながる米国の地方紙』(日本評論社)にまとめましたが、日本の新聞も同様の流れをたどるなかで、大きなヒントがあると思います。

米国の地方紙がやっていた「シビック・ジャーナリズム」は、「問題を一番知っているのが住民だ。役所のレベルでは出てこない問題も、住民に直接聞くことによって知ることができる」を基本に、「人々の生活から問題の掘り起こしを始め、当事者と読者をつなぐ場になり、行政や企業や地域を巻き込んでつないで、解決を模索する議論の場だ」という新聞づくりを目指していました。全米の地域メディアの運動として広がり、「双方向の議論をする場」としてのネットの活用も先進的でした。当時すでにアメリカは日本の10年先を行くネット社会でしたから。新聞かネットか、ではなく、「いままでつながれなかった声に、どうつながれるか」の必要からの開発された手法でした。

―― 米国は「トライ、エラー&トライ・アゲイン」というような、ある種の「実験社会」であるともいえると思います。「とにかくやってみて、そして失敗しても、そこから何かを学べる」と。その点では参考になる点がありますよね。とくにインターネットの分野では。ところで、寺島さんは、大学や研究機関とメディアやジャーナリストが連携する「アカデミック・ジャーナリズム」にも注目していますよね。

その頃日本には、新聞の業界はあっても、アカデミック、つまり「学」と現場のつながりはあまりなかったし、「社」を超えたジャーナリズムの運動もそれまで起きていなかった。各紙の報道は記事として知っていても、メディアの問題や成果、課題を現場の記者同士が議論し分かち合う場はほとんどなかった。

ところが米国では、大学のジャーナリズム・スクールを拠点にして、さまざまなメディアで働く卒業生や教官、学生がともに議論し、経験や知見を共有して新しいジャーナリズムを実験し、現場に還元している。教官にも現役のジャーナリストが多く、実践の場にいるベテランであるということには驚きました。シビック・ジャーナリズムの運動と実践も、そうした土壌から全米に広がったのです。

―― わたしも昨年、カリフォルニア州のUCバークレーのジャーナリズム・スクールを訪ねました。大学院のなかに、ハイパーローカル紙の編集局があり、「ミッション・ローカル」「オークランド・ノース」「リッチモンド・コンフィデンシャル」を発行していました。学生と現役ジャーナリストが一緒に取材、編集にあたっているのが印象的でした。

社会資源としての大学を有効活用し、そこに知識を蓄積していこうとしている。メディアの吸収合併や倒産が頻繁にあるのと、ジャーナリストはフリーランスがほとんどで転職も多いことも、背景にはあると思います。また利益相反(利害関係)の点からも、誰もがアクセスできる共有財産としての、ジャーナリズム体験や知識の蓄積というのはとても重要だと思います。そうでなければ新聞業界、テレビ業界などが「ムラ社会」になってしまいます。

そう。ジャーナリズムは業界のための学問ではないですからね。アカデミック・ジャーナリズムの体験と言えば、昨年の3月、米カリフォルニア州でUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)テラサキセンターと河北新報が共催で、東日本大震災の経験を共有するシンポジウムを開催しました。東北大からテラサキセンター所長に移られた建築学の阿部仁史教授との縁で実現したものですが、多様な協働も新しい可能性を開くと思います。

ネットは既存メディアの“補完”か?

―― ひとつ大きな問いがあります。それは、「ネットは既存メディア、とくに新聞において、新聞の記事を補完するような役割なのか?」といったものです。新聞社に勤めている方からダイレクトにお聞きする機会はそうそうないので、ぜひお伺いしたいですね。

わたし自身、新聞記者をした後で、いまはネットを中心に仕事をしていますが、ネットの仕事を始めた当初は、その特性を理解していませんでしたが、いまはだいぶその違いを理解してきたように思います。メディアの特性だけでなく、読者層、そしてテーマの設定や取材をする側の構えも、新聞とネットでは違う点があると思います。寺島さんはCafe Vitaで情報発信されていますが、どのようにネット、ウエブ上の報道をお考えで、そして震災後の新聞報道との関連についてお考えでしょうか。

ウエブが新聞の補完というより、両方が必要になったのです。わたしの場合、震災直後から書きつづけている「ふんばる」という社会面連載で、被災地に生きる人々を取材し、新聞に載った記事で終わりにしてしまうのではなく、その取材ノートに記した声と事実をみんな、ブログ「余震の中で新聞を作る」に収録し、新聞販売エリアの外の人たちにも被災地のいまこのときを、ありのままに追体験してもらおうとしてきました。

新聞には伝統的に販売エリアがあり、震災前までは、その販売エリア内の読者に向けてのみ、情報を発信していけば良かった。河北新報の場合はブロック紙なので、東北一円の読者ですね。しかし、東北の被災地の内と外を隔てる壁を超えて伝え、つなぐ役割をネットは担うようになりました。風化と風評という問題は、被災地の内側だけでは解決できませんし、新聞読者を超えてさらに多くの人の関心と応援につなげたい願いもあります。

河北新報のサイト「KOLNET」のビューアーは、震災報道の読者を中心に全国に広がりました。夕刊編集部やデジタル編集部の記者たちも、そのサイトを根城にブログを書き、ツイッターによる情報も発信しています。そうした旧来のエリアの枠を超えた発信もまた、震災を契機に、地方紙の新たな使命になったと思います。

「新しい取材対象、読者となる可能性のある人がいれば、すぐそこに行って、それぞれがナラティブを語るやり方にあった、新旧あらゆる方法を考え、提供すべきである」という米国の先人の言葉も、シビック・ジャーナリズムにはあります。

―― ツイッターやフェイスブックも活用していたのですか。

ツイッターやフェイスブックは、やはり震災が大きく関係していました。ここで少し発災直後の対応に戻ります。震災当日は8 ページの紙面から始まり、少しずつページを増やしていきましたが、それでも紙の確保が大変で、20ページという期間がだいぶ長くつづきました。

そのとき、「なにができるのか」ということを編集局の人間が真剣に考えました。「自分は陸前高田にも石巻にも行けないけれど、何かできることがある」と、内勤の記者が自分たちで街を歩いて、見たこと、聞いたことをツイッターで発信しようということになった。「○○スーパーが明日再開します」とか、「○○がここで買えます」とか。日常生活情報を発信しつづけました。当初、ツイッターはフォロアーが200人だったのが、いまでは1万人を超えています。

―― 新聞では書けないごく狭いエリア情報、しかし重要な生活情報がツイッターに載って全国に拡散した。

震災は、直後から「被災地にいる、あの人はどうしている」「実家のあたりは大丈夫か」「何か、困っているものはないか」「あの町には行けるのか」といった情報のニーズを、外の地域にも呼び起こしました。新聞にとって身近な購読者や県民といった人々につながる人、支援したい人も必要としているものであり、それらの人々もいかにつないでいくか、という発信先の可能性も広がりました。そのためにウエブが大いに有効になりました。

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