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メディア全体で「つながる」ことの大切さが問われている 河北新報編集委員・寺島英弥氏インタビュー

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―― テレビや、また新聞もそうですが、「尺(原稿の長さや放送時間)の限界」が、「被災者が十分に思いを伝える」という点に関しては足かせになることは多々ありますね。とくに、今回の震災では、これだけ甚大な犠牲も損害も生じたために、被災者側から発信したいことがたくさんあった。これは一方で、生々しく言うと、メディアや取材者が、被災者の体験や声をニュースや取材のテーマとして大量に消費するという側面を持っている。これでは、寺島さんもわたしも言いたいところの「つながり」にはならない。どうしても人を紹介する際に、とても慎重になるのはやむを得ないですよね。

取材者も支援者も同様に、「また来ますと言いながら、それきり二度と来なかった」というような話はいろんなところで聞かされました。取材されたり支援されたりする被災者から見ると、いろんな人が入れ替わり立ち替わりでやって来た、という印象が強い。信頼関係というのは、何度も何度も会って話をすることで築かれていく。何回か会う過程で、「ああ、これぐらいは話せるな」と思い、「あんな記事を書いてくれたから、自分の気持ちを分かってくれたんだな」と確かめられる。共にいる時間を重ねることで関係が生まれてくるのだと思う。何度も何度も通うということが、当事者とつながることの始まりではないか、と。

脱スパイクタイヤ問題 ―― 市民運動と新聞報道

―― 寺島さんが、何度も何度も現場に足を運んで当事者に取材することがとても重要であると実感した取材体験について、具体的に教えて下さい。

わたしが入社して8年目ごろ、ちょうど仙台市政を担当していたときにあった「脱スパイクタイヤ運動(1982~89年)と“SENDAI光のページェント(第1回が86年)”」ですね。89年、年号が平成になったその年、仙台市が政令指定都市になり、街が大きく変わっていく時代とリンクするのですが、市民が直接的に環境問題やまちづくりについて発言したり、動いたりすることが、仙台の街の伝統になっていった頃でした。

脱スパイクタイヤは、かつて降雪地帯で使っていた金属製の鋲(びょう)がついた「スパイクタイヤ」をやめようという市民からの運動です。スパイクタイヤは、雪道の滑り止めには有効ですが、一方で、ピンによって削られた道路のアスファルの粉じんがまき散らされ、大気汚染と健康被害を起こしていたことが問題になりました。

―― 脱スパイクタイヤが実現し、市民運動が成功したわけですが、どのようにして実現したのでしょうか。イデオロギー的に矮小化せずに、市民全体の運動に広がっていったということですか。

そうですね。純粋に北国の暮らしの質と環境を問う議論と実践が広がり、誰からも共感を得られたことが成功した理由だと思いますし、それ以外にもユニークな点がいくつかあったこともあげられます。ひとつには、仙台市政が島野武市長(全国市長会長、全国革新市長会副会長など歴任、故人)以来、環境問題を旗印にして市民参加のまちづくりを進めようという行政の姿勢が伝統になったこと。当時は町内会が市民生活のさまざまな問題の発信と解決のチャンネルになって、たとえば「清流を守ろう」とか「杜の都・仙台」にふさわしい緑を守ろうという活動を市民が起こし、行政と協働することが頻繁にありました。

―― 覚えています。わたしは小学生の頃でしたが、テレビではローカルニュースは毎日のように脱スパイクタイヤの動きを伝えていました。そして賛否が明確に分かれていたのを覚えています。とくに福島県の会津地方の住民からは、「脱スパイクタイヤは環境や健康にはいい。しかしスリップ防止、事故防止の面からは危険だ」という意見が出ていました。そのような意見が対立するような問題に対して、どのように報道したのですか。

もちろん、脱スパイクタイヤには安全か危険か ―- など賛否両論、さまざまな意見が百出しました。そこで、河北新報では、多様な意見を新聞紙上で紹介していったのです。障がい者の方からは「スリップするのが怖い。安全のためには、タイヤにスパイク(鋲=びょう)がついていた方がいいのでは」という意見が出されました。警察は交通安全の立場から反対しました。ある人は脱スパイクの実践体験を投稿し、通勤ルートの商店街は環境被害を訴え、それらの意見に対して、別の人が意見を述べ、解決策があるのかないのか議論する。あらゆる声を紹介し、議論する場として紙面を展開していった。夕刊(仙台市内のみ発行)や朝刊の各県内版は議論の場になりました。当時はネットがなかった時代でしたから。

―― いまは、ネット上のSNS、ツイッターやフェイスブックなどで議論が展開されていますよね。

そのようななかで、市が毎週測定している粉じんの調査結果や、市民によるピン抜き運動の広がり、町内会、商店街、事業所などの脱スパイク宣言を報道しました。北海道新聞、長野県の信濃毎日新聞とも連携して相互に各県の取り組みを紹介したり、雪国の弁護士会や自治体が広域で手を組む動きも丁寧に取材して伝えていきました。すると、当時批判が集まっていたタイヤ業界がついに、スパイク(鋲)のないタイヤ(=スタッドレスタイヤ)の開発、販売に転換し、のちに私が東京支社に転勤になった後、国会でスパイクタイヤ粉じん公害防止法が成立、法制化が実現しました。

―― 議論の場として新聞が力を発揮した事例ですね。

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