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  • 新恭
  • 2010年10月11日 07:42

蔓延する「ファスト政治」

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世の中に漂う好き嫌いの空気、感情で、いとも簡単に、政治メニューを取り替えさせる。この現状を京都大準教授、佐藤卓己氏はファストフードならぬ「ファスト政治」と呼ぶ。

中央公論の11月号に掲載された、佐藤氏と、東大教授、苅部直氏の対談を興味深く読んだ。

熟慮なき即応即決、輿論ならぬ世論の蔓延。これが「ファスト政治」への処方箋と題されたこの対談の副題である。

十分な議論を尽くした理性的な意見が「輿論」、なんとなく漂う世の中の感情が「世論」。

そして、「世論」調査の結果ばかりを気にしているのが政治の現状といえる。
佐藤「世論調査があたかも擬似国民投票のごとく振る舞い、政治プロセスに組み込まれている。電話口でいきなり質問への即断即決を求められる。まさに、即時の充足を求める政治のファストフード化です」

苅部「ファスト政治の特徴は、政権の決定が世論調査に左右されるだけではなく、その中身に関しても言えそうですね。つまり、これが食べたいと指示するのではなく、このメニューは嫌だから、さっさと取り替えてほしいという、否定形の意見に振れる傾向が顕著になる。そういう世論に支配される限り、建設的な方向にはなかなか行きにくい」

佐藤「今は政治報道が『即時報酬化』している。政治に対して『すぐ結果を出せ』と要求するんですね。報道自体も、とにかく分かりやすく、おもしろくに走り、砂を噛むような現実を伝えて考えさせるという本来の役割をほとんど放棄しています」
早く便利に満足する「即時充足」、つまり「ファスト化」は、先駆けの外食業界、爆発的流行中のファストファッションのみならず、あらゆる分野で見られる現象だが、深慮遠謀を必要とする政治まで、そのトレンドに流されている。

こうした「即時充足」、すなわち手早く満足を得たいという欲望が世の中に蔓延してくると、実際にはそうはいかないものだから、逆に気に入らないことばかりが多くなり、過度のイライラ症候群となって特定の人物を毛嫌いする。

とくに政治家などはその対象になりやすく、嫌っている政治家をテレビがこき下ろしてくれると、溜飲が下がり、つかの間の快楽を得ることができる。

筆者の見るところ、その主なる原因は、テレビメディアの魔力にある。その魔力とは、このメディアの本来的な持ち味である「娯楽性」という、酩酊誘導である。

ほとんどの人にとって、テレビを見るときと休息時は一致している。ぼんやり、楽しく見なけりゃテレビじゃない。一般的に、人間の脳はテレビを見ているとき、あまり働いていないことが知られている。

そうした視聴者の心理や脳の働きにとって、バラエティー番組はきわめて受け入れやすく、視聴率は高くなる。心身はリラックスし、頭は休まり、一種の酩酊状態となって、居眠りしやすくなる。

そこで、不況下の視聴率競争がし烈さを増すテレビメディアは、なりふりかまっていられない。報道番組さえバラエティー化してしまえ、ということになる。

事実を正確に伝える役割を放棄し、誰かを悪者にしてつつきまわす快楽に人々をいざなう。これがほとんどの報道番組に見られる傾向となった。

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