記事
  • 新恭
  • 2010年09月15日 11:14

小沢氏敗退の意味するもの

1/2
菅直人氏は3ヶ月ちょっとで総理交代というぶざまな事態を免れた。「総理がコロコロ変わったら外国に信用されない」と本気で信じている人たちも納得できる結果になった。小沢総理の誕生を恐れた官僚たちや、「政治とカネ」のウソをつくりあげた検察、マスメディアもひと息ついた。

その代わり、この国の人々はひょっとしたら、大きなチャンスを逃したかもしれない。小沢一郎氏の言う政治主導が、巨大な霞ヶ関を自在に動かすことができるかどうかという、歴史的な実験を見るチャンスを、である。アムステルダム大学教授で、ジャーナリストとしても著名なカレル・ヴァン・ウォルフレン氏が中央公論に寄稿した論文を思い出してみたい。

「小沢は今日の国際社会において、もっとも卓越した手腕を持つ政治家のひとりである。ヨーロッパには彼に比肩し得るリーダーは存在しない。政治的手腕において、そして権力というダイナミクスをよく理解しているという点で、アメリカのオバマ大統領は小沢には及ばない」



外国の識者がこれほど絶賛する政治家が、日本においては、ダーティなイメージを塗りたくられて不当に貶められている。その首謀者はウォルフレン氏が言う「非公式な権力システム」である。

「あらゆる国々は公式の政治システムに内在する実質的な権力システムというべきものを有している。軍産複合体や巨大金融・保険企業の利益に権力が手を貸し、彼らの利害を有権者の要求に優先させた、この10年間のアメリカの政治など、その典型例だといえよう」



日本における「非公式な権力システム」とは、政治家の力を骨抜きにして、官僚が国家を支配する仕組みだ。

その起源をたどれば明治20年前後にまで、さかのぼらねばならない。大久保利通ら藩閥の大物が亡くなったあと、政府の実権を握るようになったのは伊藤博文と山県有朋だった。「非公式な権力システム」の構築者は山県有朋だ。

富農層の政治参加要求がもたらした自由民権運動は、憲法制定と議会開催を求めて盛り上がり、各地の演説会場はあふれるほど聴衆がつめかけた山県はそれまでの支配構造を脅かすこの運動に危機感をおぼえ、運動を弾圧し、憲兵を設け、警官にサーベルをもたした。オモテに立つ伊藤は立憲君主制を唱えたが、ウラで山県は統制、規制、刑罰を強めた。

政府は明治23年の憲法施行、帝国議会開催を約束したが、それまでの間に、山県有朋は周到に、自分たちが握ってきた太政官の権力を温存する仕組みをつくりあげた。「天皇の軍隊」「天皇の官僚」。軍隊や官僚は神聖なる天皇のために動く。政治の支配は受けない。そんな魔法をかける杖を制度の中に埋め込んだ。

天皇の神格化を進めるためにつくられたのが「軍人勅諭」や「教育勅語」だった。昭和になって、統帥権の名のもとに軍部の暴走を許したのも、その魔法の杖が働いたからである。戦後、新憲法が制定され、国民主権が謳われても、天皇の官僚は、国民の官僚とはならなかった。

「天皇」に代わって「国家」という概念を掲げた官僚は、いぜんとして、支配者であり続けた。国民は主権者ではなく、国民に選ばれた政治家は、官僚に操られる存在であり、大臣は省庁のお飾り的な代弁者に過ぎなかった。記者クラブを通じて、官僚機構はメディアも掌中にした。国民主権の議会制民主主義は名ばかりのものであった。

ウォルフレン氏は言う。「日本の官僚機構に備わった防御機能は、まるで人体の免疫システムのように作用する」。免疫システムが働くと、動き出す暴力装置が「検察」であり、その宣伝機関が「マスメディア」である。


「検察とメディアにとって、改革を志す政治家たちは格好の標的である。彼らは険しく目を光らせながら、問題になりそうなごく些細な犯罪行為を探し、場合によっては架空の事件を作り出す」(ウォルフレン氏)



そのターゲットになったのが、いうまでもなく小沢一郎である。マスメディアは軽々しく「二重権力」という言葉を使うが、「公式」な政治システムを闇で動かす「非公式」な権力システムの一翼を担っているのがメディアそのものであるという認識が、まったく欠落している。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。