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「どうして答えのない質問をするの?」

2004年のスマトラ沖地震とそれに伴う津波を、バカンスに訪れていたタイのプーケットで遭遇した家族の実話をもとに製作された映画「インポッシブル」が2013年6月14日(金)に全国公開される。本上映を記念して、復興アリーナプロジェクトリーダーの飯田泰之が、作品のモデルとなったマリア・ベロン氏に、被災にあった当時の様子や現在の思い、映画に込めた気持ちをインタビューした。(構成/金子昂)

飯田 わたしは東日本大震災に関する情報を集積する「復興アリーナ」というプロジェクトの運営に参加しています。

来日されてお受けになったインタビューの多くは、映画に関する質問だったかと思いますが、今日はご自身が被災された当時の様子についてもお伺いできればと思っています。

旅先で迷子になっても不安になると思いますが、バカンスで訪れたタイ ―― つまりはまったく知らない場所での被災ということもあり、よりいっそう不安でいらっしゃったと思います。最初に、被災した直後にもっとも不安に思ったことをお聞かせください。

マリア ひとりだったことですね。

知らない場所で津波に襲われ、必死に水のなかから這い上がって最初に思ったことは、自分が愛する人を失ったら、まったくひとりになってしまったら、この先の人生に生きている理由はあるのだろうかと思いました。

だから津波に流されながら息子のルーカスを見つけたときに、「ああ、生きる意味がある」と思いました。

飯田 映画で描かれている通りに、本当に、最初にルーカスを見つけたんですね。

マリア ええ、この映画はまったくのノンフィクションです。違うところと言ったら、ボールの色ですね。本当はピンクじゃなくて黄色だったってことくらい(笑)。

飯田 (笑)。

マリア 本当に起きたことが描かれているんですよ。

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飯田 撮影に立ち会われたとき、また完成したフィルムを観たときに、当時のことを思い出して辛くなったのではないでしょうか?

マリア じつはカットされたシーンがあって、津波から逃れて木の上によじ登ったとき、息子のルーカスに「わたしはこれ以上どこにもいけないから、ひとりでいきなさい」と別れのキスをしたんです。そのときがもっともつらかったんですね。

でも生き残ったわたしにとって、わたしたち家族のシーンはまったくつらくないんです。家族が亡くなられた人、家族が見つからなかった人たちを撮影しているシーンが本当につらかった。だって撮影のときには、もう駄目だったということがわかっていますから。

飛行機が飛び立つシーンで、津波前に書かれた「ビーチにいます」と奥さんが残したメモが映りましたが、あれは本当のことなんです。あのシーンは、わたしも家族も見ていることができませんでした。

飯田 マリアさんはお医者さんだとのことですが、先進国ではない国で、そして被災した病院は、ある意味最悪の状態だったのではないでしょうか。

マリア 病院に着いたときには、現状が非常に厳しいこともわかっていましたし、そのなかで彼らがそれ以上できないほどに頑張っていることがわかったので、安心していました。

飯田 家族と離ればなれになって、どこにいるのか、生き延びているのかがわからないときに、どんなツールがあったら自分にとっての希望になったと思いますか。

マリア モノとしてはなにもありません。ただ最後に「さよなら」とか「ありがとう」「愛していた」と伝えられなかったことが悔しかったので、そういう機会が欲しかったとは思っていました。

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飯田 撮影に同行されたとのことですが、被災されたときと撮影時の現地の様子、印象に違いはありましたか?

マリア わたしが泊まったホテルがあった土地は、被災後、法律で建物が建てられなくなったのですが、撮影のために当時を再現したホテルを建てたんですね。それをみたとき、まったくなにも変わらなくて、とても不思議な思いをしました。

このあいだまで楽園だった場所が、一瞬で地獄になる。改めて、人生はすごいと思いました。

飯田 撮影の際に、同じように被災された方とお話をされたと聞きましたが、印象に残っている話はありましたか?

マリア わたしたちに言葉はいりません。あの経験を一緒にした人たちと、ただ抱き合うだけで通じるんです。抱き合うことは、世界共通の言葉なんだと思います。

飯田 東北で被災された方も、あの3.11を経験した者同士で一緒にいるだけでいいと言っていました。それに近い感覚なんだと思います。

マリア まさにそうだと思います。

わたしたちがスペインに戻ったときに、みんなタブー視をして、気を使ってなにも聞いてくれなかったんです。「わたしの話を聞いて!」と思うときだってあるのに、素直に、ありのままに接してくれなかったことは辛かったですね。

よく「そういう質問をしないのは、あなたを傷つけないためだよ」という話を耳にしますが、わたしはそうでないと思う。それは自分たちが傷つきたくないから、質問をしないんだと思います。

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飯田 もっとも印象に残っているシーンはどこですか?

マリア わかりません。何度も見ましたが、その瞬間瞬間によって、思わず魅かれるシーンが違うんです。きっとその人、そのときによって、まったく違うと思います。だからひとつに選べません。

でもあえて言うならば、津波にさらわれて、水のなかで抗っているシーンです。このシーンは、津波ではなく人生そのものなのだと思います。人生は、抗っても仕方がないもので、流れていくしかないことを示している気がするんです。

飯田 東日本大震災の津波で生き残られた方は、なぜ自分が生き残ったのか、そしてなぜ自分でない人が亡くなったのだろうと、しばしば自問自答されているのですが、マリアさんはそういった感覚をお持ちになったことはありますか?

マリア いままで何千回も自問自答してきました。でもあるときわたしが、当時のことを思い出して泣いているときに、息子に「どうして答えのない質問をするの? なんで生き残ったのかなんて、答えがないんだからわからないよ。それよりもこれからどうやって生きていくのかを考えたほうがいいよ」と言われたんです。

その言葉は、わたしの魂に触れたんですね。その瞬間から、わたしのなにかが変わって、いまのこの毎日を生きていくことを考えよう、人生はもともと不公平なものなんだと考えるようになりました。

飯田 観光地で被災されることと自分の町で被災することは、当然、共通する部分と違う部分があると思います。これから石巻市に行かれるとのことですが、被災地の皆さんにみてもらいたい、感じてもらいたいことはありますか?

マリア 観光客であるわたしは、飛行機でその土地から去って行くことができます。でも被災地に留まらない人もいて、家族や家を亡くされた方もいらっしゃいます。

とはいえわたしたちは同じように生きていて、生きているということはなにか人生の目的があるのだと思う。だからわたしたちにできることは、自分の思いをシェアして、コミュニティの復興に貢献することです。とにかく、生きているのだから隠れていないほうがいい。本当はお悔やみの言葉でもかけられたらと思いますが、残念ながらかけられる言葉はありません。

心の痛みは、肉体的な痛みと同じように、ときと共に少しずつ治っていきます。みなさん、被災してまだ3年目ですから、まだとてもつらい思いをされているでしょうし、わたしも3年経ったころはまだ弱っていました。この映画は、生き残ったことを伝えるためではなく、亡くなられた方や残された方の思いを込めてつくりました。東日本大震災で家や家族を失われた方には、この映画を見て、いまの厳しい状況でも、きっとなにかできるんだと思っていただければ嬉しいです。

飯田 今日はお忙しいところありがとうございました。息子さんの「答えの出ない質問を考えても仕方ない」という言葉はとても印象的でした。石巻市は食べ物もおいしいので、マリアさんの思いを伝えることはもちろん、旅としてぜひ堪能していってください。

マリア とても楽しみにしています。

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(2013年5月17日 パークハイアット東京にて)

映画情報

タイトル:『インポッシブル』

公開表記:6月14日(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国公開

配給:プレシディオ

©2012 Telecinco Cinema, S.A.U. and Apaches Entertainment, S.L.

公式HP:www.impossible-movie.jp

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飯田泰之(いいだ・やすゆき)

マクロ経済学

1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

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