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  • 新恭

小沢昭一的相撲論

「大相撲もクリーンとやらの仲間入りか。寂しいなぁ」

今日の朝日新聞のオピニオン面で、俳優の小沢昭一さんが語る大相撲論に唸った。「小沢昭一的こころ」たっぷりの、一席である。「僕がこどものころ、ひいきの力士がおりました。・・・ちょっとした縁があって相撲部屋の宴席へ母親と寄せてもらいました」

その場に後援会長がいた。名古屋の大きな遊郭の女将だ。女将が言う。「関取、大たぶさを崩して汚い格好で勝ってもだめだよ。負けてもいいから、様子よくやっておくれよ」こんな色っぽい相撲甚句があるそうだ。「相撲は負けてもけがさえなけりゃ 晩に私が負けてやる」

大相撲は芸能、見せ物からスタートしている。そう、小沢さんは語る。やぐらに登って太鼓たたいてお客を集めるというのも芝居小屋の流儀でしょう・・・芸能の魅力というのは、一般の常識社会と離れたところの、遊びとしての魅力じゃないでしょうか」

「中世的な価値観をまとった由緒正しい芸能のひとつである」と小沢さんが評する大相撲。その眼から見れば、もともと相撲に一般常識をあてはめるほうがおかしいのである。「本質を知らない方が、スポーツとか国技とかいう観点からいろいろおっしゃる。・・・大相撲は公明なスポーツとして社会の範たれと、みなさん言う」善人ヅラしてきれいごとを並べるテレビのコメンテーターたちを意識した痛烈な批判といえる。

「大相撲も歌舞伎も日本の伝統文化はすべて閉じられた社会で磨き上げられ、鍛えられてきたものじゃないですか。・・今や開かれた社会が素晴らしいんだ、もっと開け、と求められる。文化としての独自性を考えると、それは良い方向なのか」

むろん、小沢昭一さんの指摘は時代錯誤かもしれない。外国の力士が参加し、国際的なスポーツとなった大相撲は、こどもに夢を与える美しい存在でなければならないのかもしれない。「芸能的な由緒正しさの終幕」と小沢昭一さんが嘆息するのは、東洋的寛容さがあった古き良き時代との訣別を強く感じるからでもあろう。

しかし、親方一人と現役大関を追放してコトを収めようとする相撲協会や、名古屋場所の中継を取りやめたNHKの対応など、一連のセレモニーに、どこかウソっぽさがないだろうか。クリーンで開かれた体質への改善をめざす相撲界、善良な視聴者のためのNHK。

そうした姿勢を演出する儀式によって、ひとまず国民を納得させ、ほとぼりが冷めるのをみはからってすべて元通り、という筋立てが見え透いてはいまいか。NHKにとっては、力士はつねにヒーローでなくてはならないのである。放送中止は、相撲協会を見舞った嵐が過ぎ去るまでの時間稼ぎのようにも思える。

むしろNHKは名古屋場所を実況放映して、現役の大関が追放され謹慎休場力士続出でボロボロになった大相撲の現実を、あるがまま世間に伝えるべきであった。客席がガラガラでも、予想外の盛況でも、そこに真実が見えてくる。力士の表情、動作、態度に何らかの影が感じられるのか、それとも普段どおりなのか。

こんなときこそ、「相撲界はけしからん」で終わらせず、ナマの人間の集団として、しっかり見つめなおす必要がある。「飲む打つ買う」という遊びの誘惑を、ほどほどにして断ち切るというのは若い力士にとってたやすいことではなかろう。そこにヤクザのつけいるスキがある。

部屋を牢獄のように閉ざすこともできず、親方が一人一人の私生活を監視しきることも難しいだろう。そうした現実を踏まえつつ、相撲協会は「膿を出す」をスローガンで終わらせない対策を立てねばならない。

新 恭  (ツイッターアカウント:aratakyo)

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