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「国際会議の出席者はたった11人」

各国には政府から独立した国内人権委員会がある。しかし、日本は国連人権理事会から再三の勧告を受けながら、いまだ設立されていない。

5月6日、その各国人権委員会の総会が、国際調整委員会の名のもと、ジュネーブの欧州国連本部の会議場で開催された。

私は毎年1月、ハンセン病の制圧と患者・回復者とその家族へのスティグマ(汚名)と差別撤廃の世界宣言を発表している。今年は各国の法律家団体の協力でロンドンから発表した。第9回となる来年の世界宣言は各国の人権委員会の協力で発表したいと、会長のヨルダン人であるムーサ・ブライザット博士に相談したところ、今回の各国人権委員会のサイドイベントとして「ハンセン病の実態」を啓蒙する機会を作れば出席者の参同を得やすいとの助言を得た。

ハンセン病担当の日本財団職員は、ビデオ、ポスター作製などの他、アメリカ、インドから回復者を招待し、入念な準備をしてくれた。

私が2003年に初めて国連人権委員会(当時、現在は理事会)においてサイドイベントを開催した時の参加者は10人程度で、内心がっかりしたことがあった。これらサイドイベントは、本会議終了直後の昼食の時間を活用するものなので、部屋の前にサンドウィッチを用意し、渡しながら出席への呼びかけをするのだが、食べ物だけ取って会場に入らない人も多くいた。今回も50人分を用意して全て配布は完了したが、会場に入ったのはわずかであった。

今回の会場は従来と異なり、350人程の席がある半円形の大型会場であった。壇上は議長のムーサ博士に私、田南常務理事、インドの回復者二人とアメリカの回復者、それに司会の日本財団・世古の8人である。会長のムーサ博士は参加者を集めに奔走してくれたが、集まりは悪く、広い会場にわずか11人の参加者で始まった。

議長が私たちを紹介した後、日本財団の小澤直を中心としたスピーチライターチームが1ヶ月以上にわたり検討を重ねて作成した原稿を読み上げた。時には出席者を見、人のいない左右にも顔を向け、たった11人の参加者とは思わず、満席の参加者を想像しながら丁寧に情熱を込めて演説した。インドの二人もアメリカの代表も切々と訴えた。彼等のスピーチの時の参加者はたった7名になっていた。

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閑散とした会場でも情熱を込めて・・・

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左側がムーサ会長

閉会時、タンザニアとケニアの代表(共に女性)が演壇に駆け寄ってきて「ハンセン病の差別はひどいわ。私が結婚すると時、夫になる人は医者なのに、家族や親族にハンセン病患者がいないかどうか大騒ぎしたのよ。今日の話は感動的でした。私たちはこれから始まる総会で緊急動議を出し、笹川さんに5分間のスピーチを特別にお願しましょう。そして、総会では笹川さんの来年度の世界宣言に参加することを決議しましょう」と約束してくれた。

参加資格のない私の異例なスピーチと議長の采配で、総会冒頭の10分間で、満場一致で来年の「ハンセン病患者・回復者とその家族へのスティグマ(汚名)と差別撤廃」の世界宣言の緊急動議は可決された。

アメリカ、インドの回復者に「わざわざ遠路参加してくれたのに、聴衆が少なくてごめんね」と言ったところ、「いやいや、国際会議場でスピーチできるなんて光栄でした」と、逆に私を慰めてくれた。

長い時間準備してくれた世古をはじめ、スタッフに感謝したい。結果良ければすべて良し。如何に目的が良くても結果が悪ければ話にならない。私のモットーであるあふれる情熱、どんな困難にも耐える忍耐力、成果が出るまで頑張り通す継続性がまた一つ小さな実を結んだ。

以上の話には古い思い出がある。
今から40年ほど前のことである。山形県出身の伊藤五郎氏は、貧困の中、刻苦勉励大いに努力して中央大学の夜学から弁護士になり、参議院選挙に立候補した。ある豪雪の日、演説会場に到着してみると、他の立候補者は欠席で、集まった聴衆も3~4人だけであった。彼はこの村人たちに約40分間、所信を熱弁で語ったそうである。新聞がこのエピソードを取り上げ話題となって当選したと、当人から直接聞いたことがあった。

大会議場の11人の参加者を前に、私はこの話を思い出しながら、熱弁とは言わないまでも、感情を込めて切々と話したつもりであった。

色々な経験の積み重ねと、職員の手抜きのない真面目な努力が功を奏したことになった。

以下、スピーチ要旨

******************

ハンセン病は、太古の時代から不治の病として人々に恐れられ、激しい差別と排除の歴史を作りだしてきた病気です。有効な治療法が開発され、治る病気となり、患者を強制的に隔離する法律がなくなった今でも、一度ハンセン病という「社会的烙印(stigma)」を押された人々に対する差別は深く根を下ろしたまま消えることはありませんでした。

世界には、今も、多くのハンセン病患者・回復者が故郷や家族のもとに帰ることができず、人里離れた療養所やハンセン病患者・回復者だけで構成された定着村に暮らしています。彼らは他の人々と同じように自分の力で生きたいという意欲や能力も持っています。しかし、彼らの多くは、学校に通い、友達をつくり、仕事をし、結婚をして家族をつくるという人として当たり前の社会生活を送ることができずにいるのです。

また、これは回復者本人にとどまりません。回復者の子どもたちまでもが、就学や就職、結婚という場面において、世代を超えた差別から抜け出せずにいます。このように、ハンセン病という「社会的烙印(stigma)」を押された人々やその家族が社会に生きる上で最も基本的な人権を奪われ続けているのです。

私はハンセン病を取り巻く問題を広く国際社会に人権問題として捉えてもらうために、2003年にジュネーブの国連人権高等弁務官事務所への働きかけを開始しました。それから7年間の歳月を経て、各国政府、NGO、回復者組織など様々な関係者の協力のおかげで、2010年12月、国連総会で「ハンセン病患者・回復者とその家族への差別撤廃決議」およびその原則とガイドラインが全会一致で可決されました。

この国連決議の採択により、世界中の患者・回復者をこれまで長い間苦しめてきた差別という厚い壁に風穴を空けることができました。しかし、この決議によって差別や偏見が自動的になくなるわけではありません。しかし、もし私たちがこの原則とガイドライン(P&G)を有効に使って行動すれば、差別の壁への風穴を開けるための強力なツールとなるでしょう。

本日世界中からお集まりの国内人権機関の代表である皆さまにおかれましては、国内の人権推進と保護のために、日々、ご尽力をされていることと存じます。本日、私はこの場をお借りして、日頃から人権問題に高い意識をお持ちの皆さま方のお力をハンセン病と人権の問題にお貸しいただくことを訴えたいと思います。

私は、2006年より、ハンセン病を取り巻く差別の撤廃を世界に訴えるために、グローバル・アピールを実施してきました。これは、ハンセン病患者・回復者の声を広く世の中に伝え、彼らの生き方に尊厳を取り戻すための啓発活動です。これまでに、ノーベル平和賞受賞者、政治、宗教、ビジネス、教育、医療、法律といった分野の世界中のリーダーとともに、差別撤廃を求めるメッセージを世界各国に発信してきました。

来年1月、第9回目となるグローバル・アピールでは、ぜひ各国の国内人権機関の皆さまのお力をお借りしたいと心より願っております。皆さまがアピールに賛同され、ハンセン病患者・回復者と共に闘うと意志を表明してくだされば、彼らにとっても非常に心強いことでしょうし、彼らの人権擁護、尊厳の回復に向けて大きな力となります。

さらに、各国の国内人権機関の皆さまには、自国において、ハンセン病患者・回復者の人権問題にも常に注意を払い、国連総会で採択されたハンセン病に関わる原則とガイドライン(P&G)が、現実の社会にきちんと反映されているか、実践されているかを検証し、もし、そうでない状況を目にした場合は、声をあげて現状の改善を進めていただきたいと考えております。

人々の心に深く根付いた差別の意識が簡単になくなることはありません。

これは、あるハンセン病回復者の言葉です。
「ハンセン病療養所の壁はたった20cmの厚さですが、それは私と全世界とを隔てる壁なのです。」

見えない壁を壊すことは簡単なことではありません。しかし、私たち一人ひとりがハンセン病患者・回復者たちの声にならない叫びに耳を傾けることで、この壁に少しずつ風穴を開けることができると私は信じています。皆さまとともに、社会の一人ひとりに呼びかけ、ハンセン病患者・回復者に対する差別のない世界をつくることを、第9回目のグローバル・アピールを通じて、世界に向けて発信できることを切に願っております。

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