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グローバル人材育成の機運高まりに思うこと - 大山篤之

人の命には限りがある。そんな個(人)が集まり、独自の集合(国)を形成し、更にその集合体が全体(世界)を形作る。全体の威光(グローバリズム)は、各集合へ、また各個へと伝播する。個はその全体(世界)を理解し、されど染まらず、帰属する集合を意識するからこそ、全体は単一の集合にならず、永続性とともに多様性も担保される。

人材の育成(教育)は国家100年の計である。ゆえに、日本国として真に欲する人材像は、100年のビジョンを持ち、その上で、描ききらなくてはならない。

アベノミクスの成長戦略の具体的な提案の一つとして、グローバル人材育成を掲げた。では、グローバル人材とはどのような能力を有し、国家100年の計に値する施策であるのか今一度考察してみたい。

2011年6月の「グローバル人材育成推進会議 中間まとめ」において、育成・活用していくべきグローバル人材の概念が整理されている。グローバル人材における3要素は次のとおりである。
   I:語学力・コミュニケーション能力
  II:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
  III:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

ここで私が注目した点は、Iは単なるスキルであり教えやすいことと、そしてI~IIIの掲げるべき順番が妥当であるかということである。一般的にIが先行する現状について、吉田氏2は、産業界、文部科学省、経済産業省の3者間に、語学力を磨くことに対する特段の対立軸がなく、人材育成をもとに利害が一致している所以であることを示唆し、大学が外国語教育に重点を置くべきという考えは、短期的な政策にすぎない可能性を危惧している。

しかしながら、グローバル人材育成として、Iのみの要素を掲げているわけではない点も注視する必要があろう。私的な見解になるが、I、II、IIIの順番を単に逆にするだけで、しっくりくるようには感じられないだろうか?それは、III、II、Iの順で、3要素を見返すと、「グローバル人材育成」というより、「グローカル人材育成」として、理解することができるためかもしれない。

誰しも、海外にいけば、どこの国から来たのか問われた経験があろう。グローバル社会という全体を形成している集合(国家)が多様であればあるほど、これは至極当然の問ともいえる。同質的な集合が作り出す世界であれば、この情報には何の意味もない。多様な個が全体を形成する社会にあって、光り輝く個は、全体からみてある意味異彩を放つ個である。そのため、IIIの日本人としてのアイデンティティーを失い、Iや国際感覚だけを備えた人材が、真に世界で活躍できるとは思えない。ゆえに、日本独自の価値観や文化的思考、日本文化に対する造詣(「ローカル」)を持ちあわせ、かつ異文化に対する理解と人間力(「グローバル」)を兼ね備える「グローカル」人材の育成こそ国家100年の計にふさわしい政策であると思う。

しかし、日本の現状で最も欠如している要素はIであり、短期的にはIを最初に掲げるのも、当面は是と思える。なぜならば、幸運にもそもそも日本人は、地域的・文化的な要素や背景ゆえに、無意識であっても、異文化に対する興味やアイデンティティーを他国以上に有している。また、語学力があれば、誰もが世界に羽ばたけはする。ただし、世界にでたとき、高い人間力をもつ人材であればあるほど、「ローカル」を、また日本人としてのアイデンティティーをより強く感じることだろう。語学力の向上で内向き志向を少しでも緩和し、最短で、かつ効率的に世界で活躍するグローバル人材を育成する方法として、この順番も間違ってはいない。

うまくいけば、Cool Japanといわれ、うまくいかなければ、ガラパゴスと皮肉られる。しかし、どちらも極端なほどに日本という集合が際立ち、個の強いアイデンティティーの存在を垣間見る。当面は語学力育成に力点を置くのも良いが、更に一つ上の第2ステージに入ったとき、重要になることがある。それは、無意識ではなく、自国文化を学び異文化を学んだ後にのみ醸成される真なるアイデンティティーの獲得であり、その自覚であろう。ただし、これを如何に育成するか真剣に考えると非常に難しい。そのときまでに、まずは、我々自身が日本人としてのアイデンティティーについて良くも悪くも見つめなおすことが必要なのかもしれない。


この3つ要素を育成すべく、平成24年度、日本学術振興会はグローバル人材育成推進事業で、この取組を行う事業に対して財政支援を行っている。また、グローバル人材育成推進会議についての情報の詳細は、首相官邸のhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/を参照せよ。
吉田文(2012)「2000年代の高等教育政策における産業界と行政府のポリティックス」日本労働研究雑誌
グローバルとローカルをあわせた造語。

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