記事

日銀が長期金利をコントロールできない本当の理由

 突然ですが、長期金利は中央銀行がコントロールすることはできない、という議論をよく聞くでしょ?

 えっ、聞いたことがない? そう言われると話が進まないのですが‥いずれにしても、金融界の常識として、そのようなことになっているのです。

 では、何故中央銀行は長期金利をコントロールすることができないのか?
 最高に権威のある日本銀行の説明をご紹介しましょう。
「まず、長期金利は、短期金利とは決まり方が大変違う、ということにご注目下さい。
 短期金利の代表は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)」ですが、これは日本銀行の金融調節によってコントロールされています。また、オーバーナイト物より少し長い短期金利(1週間や1か月の金利)もオーバーナイト物に強く影響されています。つまり、短期金利は、基本的にその時点の金融政策の影響下にあるのです (注) 。

  これに対して長期金利は、その時点の金融政策の影響も受けはしますが、それとは別の次元で、長期資金の需要・供給の市場メカニズムの中で決まるという色合いが強く、その際、将来の物価変動(インフレ、デフレ)や将来の短期金利の推移(やこれに大きな影響を及ぼす将来の金融政策)などについての予想が大切な役割を演ずる(詳細は後述)、という特徴があります。」
 さあ、如何でしょうか?
 中央銀行が長期金利をコントロールできない訳が理解できたでしょうか?
 多分、多くの方が分かったような分からないような‥

 ですよね?
 いずれにしても、そもそも長期金利とは何を意味するのか?
 その定義をはっきりさせないと議論ができないように思われるのですが‥長期金利とは何ぞや?

 実は、この「長期金利」には様々な意味があるのです。
 つまり、期間の長い金利をひとまとめにして長期金利と言うこともあれば、そうではなく新発10年物国債の利回りを指す場合もある、と。

 ただ、最近関心を集めている「長期金利」が何を意味するかと言えば、新発10年物国債の利回りのことなので、これから先は、「長期金利=10年物の新発国債の利回り」だということで議論を進めたいと思います。

 確かに、10年物国債の利回りがどう決まるかと言えば‥日銀が言うように、将来のインフレの可能性や景気の動向、或いは将来の短期金利の予想などが反映されるのは、そのとおりでしょう。

 でも、それはそうだとしても、日銀が大量に長期国債を購入すれば、国債の価格が上るのではないのでしょうか? そして、国債の価格が上るということは、国債の利回りが下がるということであり、だったら、国債の利回りは幾らでも低下させることができるような気がするのですが‥

 そう思いませんか?

 もし、そうは思わないという人は、よく分かっている方だと思われるので、これから先は読む必要はないでしょう。しかし、多分、多くの方が、日銀が大量に国債を購入すれば、国債の利回りは下がる筈だ、と考えるのではないのでしょうか?

 安倍総理や麻生財務相が実際どのように感じているかは知りませんが‥しかし、多くの政治家、多くの人々が、これだけ大胆な金融政策を実施しているのに、何故国債の利回りが上がるのか、不思議に思っているのではないでしょうか?

 もちろん、国債を日銀が大量に購入すれば、いずれインフレが起きやすくなるのはよく理解できる、と。

 そして、そうやって人々がインフレを予想するようになると、長期金利も上昇するであろう、ということも理解できる、と。

 しかし、そうは言っても、日銀が国債を保有している市中銀行から大量に国債を購入すれば‥つまり、需要が供給を上回れば、国債の価格が上り、そうなれば国債の利回りは低下する筈ではないか、と。

 如何でしょう?
 貴方もそのように考えるでしょう?

 確かに、日銀が大量に国債を購入するということになれば、国債の流通市場で、需要が供給を上回るようになるでしょう。

 ただ、大事なことは、この場合、幾ら需要が供給を上回っても簡単には国債の価格が上らないということなのです。
 何故、国債の価格が上らないのか?

 それは、日本銀行が、市場実勢を尊重して国債の購入価格を決めるからなのです。つまり、幾ら国債を大量に買いたいと日銀が思っても、どれだけでもお金を出す、金に糸目は付けないと言っている訳ではないのです。だから、そこには自ずから制限があるのです。

 これがもし、幾らでもお金を出すというのであれば、国債の利回りは限りなくゼロに近くなるでしょう。否、そうではなく、マイナス金利になることさえあるのです。だって額面を遥かに超える価格で日銀が国債を購入するようなことをすれば、その一方で、償還期に日銀が受け取る元本は額面金額でしかないために、日銀にとっては国債を保有することで確実に損になるのですから、利回りはマイナスになってしまうのです。

 黒田総裁は4月4日に、今後2年間において、日銀が未曾有のペースで国債を購入すると約束した。

画像を見る  それによって黒田総裁自身、長期金利が下がることはあっても、そう簡単に上がることはないだろうと考えていたのではないでしょうか?

 しかし、幾ら日銀が大量に国債を購入するとは言っても、日銀が自由に購入価格を決定できる訳ではないのです。

 そのことについて、多くの人々が理解していないものだから‥だから、昨今の長期金利上昇の現象がイマイチ理解できない、と。

 安倍総理や麻生財務相は、そのことをどれだけ理解しているのでしょう?

 ただ、仮に政治家などが、そのことについて理解したならば、今度は次のような質問が浴びせられるかもしれません。

 何故日銀は、国債の購入価格を自由に決めないのか、と。利回りが低くなるように国債の購入価格を高くすれば済むことではないか、と。
 貴方も、そのように考えるのではないでしょうか?

 しかし、それは日銀にとってはできない相談なのです。
 何故?
 やっぱり日銀が保守的で、リフレ政策に対して警戒しているから?

 そうではないのです。
 仮に、日銀が市中銀行から購入する国債の価格を、実勢相場よりも高くすることにしたとしましょう。

 その結果、例えば、1%の利子のついた額面100円の国債を市中銀行が100円で落札をし、その後、日本銀行が長期金利を低めに誘導するために、その時点での長期金利が1%であるにも拘わらずその国債を例えば102円で購入するようなことをしたらどうなるのか?

 確かに、当該国債の利回りは低下する、つまり長期金利は下がる。それはそのとおり。

 しかし、その国債は、本来相場からすれば100円でしか売れないのです。それを、偶々日銀が高い価格で買うとなれば、市中銀行は、何もしなくて差額の2円分が儲けになる、と。つまり、日本銀行がその差額分を市中銀行にプレゼントすることになってしまうのです。

 おかしいでしょ? 市中銀行が何も苦労することなく日本銀行からお金をもらうなんて。

 だから、日本銀行は実勢よりも高い価格で国債を買い取ることができないのです。
 このメカニズムを今の日本で、どれだけの人々が分かっているのか?

 黒田総裁、本日、国会でまた、国債の大量購入によってリスクプレミアムを引き下げることができる、と訳の分からないことを言っています。

 誤解のないように言っておきますが、良い悪いの議論は別にして‥国債の大量購入によって長期金利に下押し圧力をかけることは可能かもしれませんが、しかし、リスクプレミアムを引き下げることはできないでしょう。

 黒田総裁は、何か誤解しているのではないのでしょうか?

あわせて読みたい

「」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    “愛国芸人”ほんこんが「デマツイート」で提訴される 原告代理人・米山隆一氏は怒り

    SmartFLASH

    07月26日 09:58

  2. 2

    東京五輪「手のひら返し」が驚くほど早かった理由 - 新田日明 (スポーツライター)

    WEDGE Infinity

    07月26日 08:17

  3. 3

    配信が充実した東京オリンピック 無観客開催でも十分なお釣りが来る内容

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

    07月26日 08:32

  4. 4

    60歳4人に1人が貯金ゼロ 原因は晩婚化による“支出三重苦”

    女性自身

    07月26日 13:23

  5. 5

    作曲家がLGBT差別の杉田水脈氏を肯定…開会式のドラクエ起用に疑問続出

    女性自身

    07月26日 12:26

  6. 6

    小山田圭吾の件について考える 作品と作者は別ものか

    紙屋高雪

    07月26日 09:10

  7. 7

    「金メダリストの“看板”で仕事をもらえるほど甘くない」五輪アスリート“第二の人生” 現役引退後の現実

    ABEMA TIMES

    07月26日 10:23

  8. 8

    阿部一二三&阿部詩、九州まで夜通し車で…兄妹金の陰に両親の壮絶献身

    女性自身

    07月26日 08:32

  9. 9

    書籍における編集者の役割は極めて重要 本の質や販売部数に大きく影響

    内藤忍

    07月26日 11:32

  10. 10

    東京五輪にかこつけて文在寅大統領が日本から引き出したかった"ある内容"

    PRESIDENT Online

    07月26日 16:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。