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ダンスクラブの大規模摘発と風営法改正論の未来

さて、昨年来から何度もテーマとして挙げさせて頂いてきた風営法改正論ですが、非常に大きな局面を迎えました。以下、一昨日行なわれた六本木の有名ダンスクラブ(以下、クラブ)であるバニティに対する摘発報道。

 

今回摘発されたバニティは、首都圏でも有数の有名クラブ。この規模のクラブ業者が、しかも風営法改正論が持ち上がってきたこのタイミングで摘発されることは、非常にインパクトが大きく、文字通り業界全体が騒然としているといった状況。ただ、私の立場からすれば、今回の警察の反応はある意味で「起こるべくして起きた」ものであります。

そもそも風営法改正に関しては、クラブ業界が中心となって「レッツダンス署名推進委員会」などという団体を作り、運動を推進してきたもの。先々週には、同委員会が1年をかけて集めた約15万筆もの「法改正を求める」署名がそれを支持する国会議員らに提出され、これから請願書という形で国会での委員会審議にかけられる予定となっています。

ただ、これまでも彼等に対して何度も申し上げて来たことですが、何しろ彼等のやり方は「急進的」すぎる。風営法を「ダンス規制法」などと読み替え、「国民の自由権を侵害するな」などとシュプレヒコールを挙げながら活動を広げてきたわけで、当然警察側としてはそれに対してまずは「NO」を示す方向で動かざるを得ない。

そもそも、風営法の正式名称は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」というものであって、その名が示す通り、各種風俗営業の適正なる発展を守る為の法律です。ダンスクラブを含めて、ゲーセン、パチンコ、スナック、キャバクラなど様々な業態を許認可業として規制対象としていますが、それら営業に関しても営業を禁止しているワケでもなんでもなく、適正な発展が為されるように一定のルールの枠内で営業することを求めている。今、起こっている問題というのは、成立から少し時間が経ち過ぎてしまったこの法律が現代の社会背景にそぐわなくなってきたので改正しませんか?というだけのものであって、これを「自由を侵害する悪の法律 vs. 国民の権利を守る正義のダンス・ヒーロー」のような何やらアニメ的な構図に落とし込んで主張を展開する事自体が間違いなのです。

そんな本来の法律の趣旨を無視した主張を展開されれば、当然警察側としてはまずはクラブ業界が潜在的に抱えている問題を別方向から切り出し、「何故、風営法が本旨とする『適正化』が必要なのか」を主張するしかないワケで、それが結果として上記のような非常にセンセーショナルな摘発および報道に繋がっているといえます。

という事で、難局を迎えつつある風営法改正論でありますが、一方で今回の事件に関する報道の中で幾つかの方向性も示されています。以下、産経新聞による報道。


都心最大級クラブ摘発 無許可ダンス営業容疑 警視庁
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130527/crm13052702000000-n1.htm

[...]摘発を強化する警察当局に対し、一部の音楽家らが規制緩和を求める15万人分の署名を国会に提出し、今月20日にはこれを支持する約60人の議連が発足した。


警察当局は時間外のダンス営業そのものより、クラブ側が店外のトラブルを放置する傾向にあることを問題視しており、警視庁幹部は「店の客がトラブルに関与しているならば、何らかの対策を考えるべきだ」と強調している。[...]


上記事内で当局側の意見として、「時間外のダンス営業そのものより、クラブ側が店外のトラブルを放置する傾向にあることを問題視」とされていますが、まさに論議の焦点はここなのですよ。

今回摘発されたバニティは風営法の「無許可営業」の容疑で摘発が行なわれています。クラブ業というのは法律上で許可営業とされていて、何度も警告を受けながらそれを無視して営業を続けていたバニティはその罪を逃れ得ません。しかし、クラブ業界側にも一定の同情の余地があるのは、今の状況では許可営業をしようとしてもそれが現実的に難しいという点。

クラブというのは食事をする場所ではなく、食事をした後の交遊場ですから、基本的に午後8時くらいからボチボチとお客様が集まり始め、ピークとなるのは11時とか12時です。ところが現在の風営法は基本的に事業者の深夜12時以降の営業行為を禁止しており、法に則って営業を行なうならばピークにやっと至った頃にクラブは閉店をしなければならない。それでは残念ながら営業が成り立たないのが実情です。

その結果、業界内で起こっている悪循環が「許可営業だと事業が成り立たない→無許可営業→何か問題が起こった時に警察と連携できない→そこに社会悪が入り込む」というコンボ。例えば本来はお店の中で大きな喧嘩が起これば警察に通報すべきですが、無許可営業であるがゆえに通報も出来ず、セキュリティを使って店外に退出させることでそれを解決しようとする。すると路上で喧嘩騒ぎが起こり、近隣住民がトラブルに巻き込まれ…と、どんどん問題が広がって行くというのが、当局の言う「クラブ側が店外のトラブルを放置する傾向にある」の原因であります。

また、お店が警察と連携しにくいという実情に付け込んで、暴力団のように明確な事務所拠点を持たず活動するいわゆる「半グレ」と呼ばれるような反社会集団が、クラブのVIPルームなどを拠点として活動を広げたりする。それが、昨年あたりにワッと社会問題として広まったのがクラブにおける様々な暴力事件であり、もちろん「あれはクラブでなくとも起こり得たもの」という業界側の主張には一定の理解は出来るものの、やはりその背景にはクラブ業界が恒常的に抱える「無許可営業」という問題が横たわっているのも事実であります。

繰り返しになりますが、今回の摘発に際し、当局側は「時間外のダンス営業そのものより、クラブ側が店外のトラブルを放置する傾向にあることを問題視」としています。すなわち現在、風営法が深夜12時以降の営業を禁止していることそのものには、それほど大きな意義を見出していないともいえる。(勿論、現状で違反は違反なのだが)

この深夜営業禁止規定を含め、現代社会にマッチしなくなっている幾つかの制限さえ解除すれば、多くのクラブ事業者はそれほど無理なく許可営業に移行できます。そして許可営業に移行さえできれば、何かしらトラブルが起きた場合にシッカリと警察と連携し、それに対処できるようになる。

今回の大規模摘発は業界にとっては非常にセンセーショナルなものであり、意気消沈している方々も多いかもしれませんが、是非そのような前向きな論議に発展させてゆきたいなと私自身は考えています。

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