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続・日本はもはやMICE振興を諦めろ

昨日の政府・産業競争力会議。「日本の標準時を2時間早めろ」という何ともセンセーショナルな猪瀬氏の提案により掻き消されてしまっていますが、その他にも沢山の議題が挙げられております。特に、私の専門に関連して申し上げるのならば、太田国交大臣が「観光立国推進閣僚会議の検討の方向」と題して発表した観光振興政策に注目していたのですが、一方でその内容にヒシヒシと不安感を募らせておる状況です。

太田国交大臣の発表資料の「国際会議等の誘致や投資の促進」という項目の中に以下のような記述が有ります。
国を挙げた一体的なMICE体制の構築・受け入れ環境の整備

  • 誘致ポテンシャルが高い都市に対して、潜在需要のほろお越しや、海外MICE専門家の知見等を活用したマーケティング能力向上を図りつつ、世界トップレベルのMICE都市を育成する。

  • 海外のキーパーソンやナレッジを日本に呼び込むツールとしてMICEを戦略的に活用し、ビジネス・イノベーションを振興。

  • 産業界・大学等の有力者を「日本の顔」としたMICE誘致体制を構築する等、産業界や大学等との連携体制を整備し、オールジャパンの視点による誘致を促進する。

  • 文化施設や公共空間等のユニークべニューを用いたイベント開催の活性化を図るため、協議会を設置して施設利用の円滑化を図る。

  • 出所:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai9/siryou3.pdf


    MICEとは、Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive(報奨旅行)、Convention(国際会議・学会)、Exhibition(展示会)の4つの頭文字をとった造語であり、このようなイベントに伴って人々が行なう観光行為のことをMICE観光などと呼びます。これらMICE観光は、直接消費額そのものが大きいことと、同時に各種イベントを通じて地域に新たな投資や産業を呼び込むという面もあり、我が国では2010年からこれらMICE誘致に国を挙げて取り組んでいます。

    その辺の全体的な流れ自体に全く異論はないのですが、正直、今回発表された推進事業の方向性には不安が一杯なのですね。上記発表で示された計画を見ると、何となく国交省は「PR(もしくは販売)の仕方さえ変えれば、日本のMICEはまだまだ世界に売れるんだ」的に考えているようにも見えるのですが、それは非常に大きな勘違いです。これは業界内では散々語られている事なので、「あえて」お役所側が聞こえないフリをしているとしか思えないのですが、日本のMICEは肝心の「商品」となる施設そのものがすでに国際競争の標準から外れてしまっているのですよ。

    これは以前もどこかで書いた記憶があるのですが、大事なことは何度でも繰り返すタチなので、繰り返し主張させて頂きます。日本のMICE施設が世界に勝てない理由は大きく3つに集約されます。

    1)設備競争で勝てない

    現在、日本が喉から手が出るほど欲しい大規模国際展示会や国際会議に使用される施設の世界的な競争ラインは、すでに「10万平米以上の展示会場、1万人収容の会議施設」にまで引きあがっています。また、近年のこういったイベントは、展示会と会議がパッケージで併催されることが多く、両施設が一体として立地している必要があります。

    ところが、我が国ではこういった最低限の競争基準に規模的に見合ったMICE施設がない。というか、過去の間違ったMICE施設開発のおかげもあって、そもそも展示場と会議施設が全く別々に開発されていることが多く、広い展示スペースのある施設は会議施設が小さい、大きな会議場のある施設には展示スペースが足りない…と、完全に「帯に短し、タスキに長し」状態の施設ばかりなのです。大規模なMICEイベントを誘致しようにも、そもそも必要な要件すら満たしていないのですから、もはや問題外。競争に勝てるわけがない。

    2)価格競争に勝てない

    近年世界で見られるMICE施設は、ホテル、レストラン、ショッピングセンター、その他アミューズメント施設などを含む「統合型リゾート」として開発されることが増えています。そして、このような統合型リゾートとして開発されたMICE施設に日本の施設は価格競争で勝てません。

    なにしろ相手は、レベニューソース(収益源)がホテル、レストラン、ショッピングセンター、その他アミューズメント施設など複数あります。MICE施設そのものを非常に安く売ったとしても、その他、様々な事業部門に付随的に発生する収益でそれを賄うことが出来る。その中でも最も大きな「利益の源泉」として存在しているのが収益性の非常に高いカジノ施設であり、その存在の有無はMICE施設の利用料金に確実に跳ね返ります。

    それに比べて、展示会場や会議施設などの単館で開発されている日本のMICE施設は、施設価格を値引きして、その他部門収益でそれを回収するようなビジネスモデルが組めません。すなわち、イベント主催者に営業をかけて、ギリギリの値引き交渉が始まった時に、日本のMICE施設は、価格競争面で到底、太刀打ち出来ません。

    3)イベント運営の利便性で勝てない

    そして、実は何よりこれが最大かつ、致命的な問題なのですが、日本のMICE施設ではイベント運営の利便性で諸外国の施設には全く競争にならない。近年、世界で見られる統合型リゾートとしてのMICE施設の「最大の強み」は、文字通りMICE施設、レストラン、ホテル、その他のアミューズメント施設の全てが一体となって開発されている点にあります。すなわち、イベントに参加するお客様は、一旦、施設に足を踏み入れれば、その先の移動は一切心配する必要は有りません。

    一方、日本のような単館開発されたMICE施設では、宿泊先から会場、会場から市内レストラン、そしてその後に訪れるエンタメ施設などを結ぶ「参加者の足」が必ず必要となります。大規模な展示会などに参加した事のある方々はご存知のとおり、タクシー乗り場には長蛇の列ができ、公共交通機関は大混雑。お客様にとっては、時間、お金の両面で不便です。

    また、それはイベント主催者にとっても同じ事で、このような施設でイベントを開催した場合、参加者誘導をするスタッフの配置はもとより、市内やホテルまでのシャトルバスの配備、近隣ホテルの借り上げ手配など、イベント主催者には様々な手間とコストが求められます。この手間やコストは、イベント開催規模が大きくなればなる程、増えてくるワケで、日本が現在「喉から手が出るほど」欲しい大規模展示会や国際会議の主催者は、今後、ますます日本のMICE施設から興味が離れて行くでしょう。日本の施設では、その利便性でも全く世界に太刀打ちできない。

    …という事で、繰り返しの結論となりますが、日本のMICE競争力が低いのは、けっして「PR手法が悪い」とか「販売体制に問題が有る」とか、そういう小手先のお話ではなくて、そもそも論として肝心の「受け入れ施設」そのものが世界の競争基準に達していないのが問題なのです。こういった話はすでに、ここ数年の間、業界内では語りつくされてきた事であって、無理やりそこから目を背けているかのように見える今回の産業競争力会議での発表内容は、正直、見ていて不安しか生みません。

    という事で、もしMICE誘致を巡ってアジアの競合国と戦いたいのならば、カジノ合法化を推進してMICE施設を併設した統合型リゾートの誘致を進める。一方で、もし国交省(もしくは観光庁)にその覚悟がないのならば、中途半端なMICE振興策などはさっさと諦めて、レジャー観光や小規模な報奨旅行等に焦点を絞った施策に移行するべき。これに関しては残念ながら二者択一しかないのですから、もうそろそろご決断を頂ければ幸いです。

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