記事

賃上げの理想的姿

 先週の金曜日、毎月勤労統計調査の平成24年度分(確報)が発表になりましたので、過去の賃上げの状況を振り返ってみました。

 毎月勤労統計調査のなかに現金給与総額という調査項目があるのですが、その対前年度比の動きを追うことによって、我が国のサラリーマンの給与水準の浮き沈みが分かるのです。

 ところで、最近、トリプルA内閣の主要閣僚である麻生副総理や甘利大臣が、民間企業の賃金をどうにかして引き上げようと必死になっていますよね。

 世の中本当に面白いものです。

 これが民主党政権下でそのような動きが出るのならともかく、経営者側の支援に拠って立つ自民党政権下でそんなことが起きるのです。

 早い話、本当に現職の閣僚が、労働者の生活水準アップのためにそこまで動いてくれるのであれば、何のための労働組合なのか、となってしまうのです。

 組合費を払う必要もない訳ですし‥

 私が、そのようなことを言うと、だからと言って政治家たちがいつも労働者の立場に立って動いてくれるわけではない、と仰る人が当然いるでしょう。だって、今の政権は、経営者側の政治献金を大きな資金源にしていること確かだから、大事な場面では労働者の側に立つのではなく、やはり経営者のために行動するからだ、と

 いずれにしても、今、閣僚たちが、どうにかして賃金をアップさせたいと動いている。

 では、そうして政治家が動いてくれると、本当に賃上げが実現されるのか?

 しかし、現実はそれほど甘くない。そのことは、労働者自身が一番よく感じているでしょうし、また、経営者自身も、幾ら政治家から頼まれたからといって、そう簡単に賃上げにまで踏み切る訳にはいかないと考えているでしょう。

 では、これから先、賃金は上がらないままなのか? 或いは、これまでと同じように、下がることさえ覚悟しておいた方がいいのか? 否、そうではなく、マイルドなインフレが起きれば、僅かではあるが賃金が上がることも期待できるのか?

 貴方は、どういう風に事態が展開すると思いますか?

 将来を予想するためには過去から学ぶことが必要‥ですよね。

 グラフをご覧ください。過去20年間分の賃上げの状況、正確には現金支給総額の変動状況が分かるのです。

 画像を見る

 パッと見ただけで、何と寂しい状況が続いてきたかがお分かりでしょう。

 そうなのです。棒グラフが下向きになっているということは、給料が減ったということを意味するのです。そして、この15年間ほどは、プラスになっているのは3回ほどしかないのです。

 ということで、先ずプラスの値を示していた1993年度から1997年度頃までのことを振り返ってみましょう。

 水色の棒グラフが名目給与の動きを示し、黄色の棒グラフが物価の変動率を加味した実質給与の動きを示します。

 リフレ派的考えを支持する人々は、先ずは名目賃金が伸びないとダメだという立場でしたよね。幾ら実質ベースで増えたと言っても、手にするキャッシュが減っていては、給料が増えたとは言えないからだ、と。

 では、敢てお聞きしたい。

 例えば、1993年度のような状況を貴方は歓迎するのか?

 確かに名目給与は増えている。しかし、その一方、実質給与は落ちている訳ですから、よく考えるとむしろ生活は苦しくなっている、と。そんな状態で満足できる筈はないです。

 だとすれば、1994年度とか1995年度はどうか?

 その頃になると、名目給与が増えるとともに、実質給与も増えている、と。しかも、1995年度になると、名目給与の伸びよりも実質給与の伸びが上回っているので、なお嬉しいと思いませんか?

 思いますよね?

 しかし、貴方がリフレ派的政策を支持する一方で、1995年度の状況を歓迎するというのであれば、矛盾していることになるのです。何故ならば、1995年度の実質賃金の伸びが名目賃金の伸びを上回るということは、1995年度物価の伸び率がマイナスになったことを意味するからなのです。

 実際、1995年度は、消費者物価指数の伸び率がマイナス0.1%を記録し、その頃がデフレ時代の入り口になったとも考えられるのです。

 もう一度言います。物価が下がるのは怪しからんことなのでしょ? 物価は上がった方がいいのしょ?

 では、次に1997年度をご覧ください。名目給与の伸びはプラスを維持しています。その一方で、実質賃金が一転マイナスに。

 何が起きているのでしょう?

 消費者物価指数が2%に跳ね上がっているのですよ。だから、幾ら名目給与は1%弱上がっても、実質給与は1%強も下がってしまった、と。

 因みに今も、消費者物価指数の上昇率が2%になることを目標としていますよね。仮に、政治家の要請によって、名目賃金の1%程度の引き上げを実現できたとし、そして、インフレ率が2%に達すると、1997年と同じような状況になるのです。

 1998年度以降は、名目にしても実質にしても、給与の伸びがマイナスになることが珍しくなくなりす。繰り返しになりますが、そうした状態は確かに悲惨なのです。でも、そうした時代にあっても、3回ど、給与の伸びがプラスになっていることがあります。

 そして、それら3回とも、黄色の棒グラフの方が水色の棒グラフを上回っているので、物価が下がっていることが窺えるのです。

 リフレ派的な考え方を支持する人からすれば、物価が下がっているから望ましくないとも映るでしょうが、しかし、今となってみれば、その時物価が上がっていたら実質賃金が下がり、労働者の生活はもっと苦しくなっていたのですから、物価が上がっていなくてよかったとも言えるのです。

 いずれにしても、リフレ派の人々は、先ず物価を上げるようにすべきだと言う。何故ならば、物価が上がらないと賃金上がりにくいからだ、と。確かに、物価が上がらない状況よりも、物価が上がる状況において、名目賃金が上がる可能性が大きくなるのはそのとおり。私も、そのことを否定するつもりはありません。

 しかし、そうして物価が上がったことに合わせて給与が上がったとしても、1993年度や1997年度のように実質給与が下がったら何にもならないのでしょ? 違いますか?

 さらに言えば、インフレを起こすことによって賃上げを実現することができたとしても、実質賃金が上がる保証はどこにもない。

 そして、経営者側からすれば、インフレが起きるのであれば、かつ、実質賃金が上がらない範囲であれば、賃上げを行うことにそれほどの抵抗はない。何故ならば、実質賃金が上らないのであれば、経営者にとっては痛くもかゆくもないからです。

 こうやって見てくると、政治家たちが何故インフレを起こすことに熱心になるのかがよく分かる気がします。

 つまり、名目の賃上げを実現すれば、必ず労働者たちは錯覚を起こして景気がよくなったと考えるから‥そして、そうなれば実際に景気がよくなるかもしれず、さらに政権の支持率が上がると考えるからなのです。

 確かに、国民のなかには一部、インフレを熱心に待望する人々がいるのです。しかし、そうは言っても多くの国民にとって、インフレはやはり嫌なもの。デフレが長く続いているから、インフレを起こすべきだなんて声が挙る訳ですが、いざインフレになったら、今度は国民からブーイングが起きるのは必至なのです。

 政治家は、企業経営者に賃上げを求める。

 政治家はそこまで労働者のことを考えるようになったのか?

 その一方、企業経営者は、なかなか賃上げ要請に応じようとしない。

 だから、政治家は、賃上げが実現できるように、インフレを起こすことを約束する。

 そして、インフレが起きると確かに賃上げが実現される確率が上がる。

 しかし、そうして僅かばかり賃上げが実現されたとしても、インフレ率に追いつかなければ、労働者の生活水準が上がる訳ではないのです。

 それでも、名目賃金が上ることを貴方は歓迎しますか?

あわせて読みたい

「雇用・労働」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    竹中氏もMMT認めざるを得ないか

    自由人

  2. 2

    株バブル過熱で短期調整の可能性

    藤沢数希

  3. 3

    韓国はなぜ延々謝罪を要求するか

    紙屋高雪

  4. 4

    なぜベーシックインカムに反対か

    ヒロ

  5. 5

    コロナは若者に蔓延? 医師が仮説

    中村ゆきつぐ

  6. 6

    斎藤佑樹からの連絡「戦力外?」

    NEWSポストセブン

  7. 7

    上司無視…モンスター部下の実態

    PRESIDENT Online

  8. 8

    コロナ死者数に含まれる別の死因

    青山まさゆき

  9. 9

    日本特有文化ではないひきこもり

    幻冬舎plus

  10. 10

    未だメアドで縛る携帯業界に苦言

    S-MAX

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。