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【佐藤優の眼光紙背】川口順子参議院環境委員長は解任されて当然である

 9日午前、参議院本会議は、川口順子環境委員長(元外相)の解任を可決した。常任委員長の解任は、衆参両院を通じて初のこととであるそうだが、事態は十分に深刻だ。なぜなら川口氏が辞任しなかったからだ。川口氏は、「自分は正しい」と開き直っているのである。

 外交は政府の専管事項である。どうもこの基本がわかっていないことが、7日付の川口氏の釈明文から明らかになる。奇妙かつ不快な文書であるが、この程度の見識の人物が、国会の常任委委員長のポストを占めていると言うことを示す証拠として重要なので、あえて全文を引用しておく。

皆さま

このたびの私、参議院環境委員長川口順子の中国渡航延長に関する件で、皆さまに多大なご迷惑をおかけしておりますことについて、陳謝申し上げます。

本件について、別添のとおり経緯を取りまとめましたので、ご多忙のところ恐縮ですが、ご一読いただきまして、私の考え方の一端をご理解いただければ、幸いに存じます。

平成25年5月7日
参議院議員     
環境委員長 川口順子



平成25年5月2日
中国渡航に関する経緯

参議院 環境委員長
川口順子

このたびの私、参議院環境委員長川口順子の中国出張に関し、参議院議院運営委員会決定と異なる形の滞在延長となり、議院運営委員会及び環境委員会の皆様をはじめ、関係各位に多大なご迷惑をおかけしたことについて、深く陳謝申し上げます。 本件の経緯は以下の通りです。

  1. 私は「アジア平和・和解評議会」(APRC、Asia Peace and Reconciliation Council)の発起人の一人として、このたび、中国外交部の外郭団体である中華人民外交学会の招聘により、楊潔篪国務委員(外交担当、前外交部長)及び王毅外交部長との会談のため、中国を訪問しました。なお、「アジア平和・和解評議会」は、アジアの平和と和解に関心を持つ22名の元元首、元外務大臣等が発起人となって設立した組織であり、”silent diplomacy”(静かな外交)による問題解決を目指しています。(会長はスラキアット元タイ外務大臣、事務局は在タイ)今回訪問への主たる参加者は、スラキアット元タイ外務大臣、アジズ元パキスタン首相、デヴィッド・ケネディハーバード大学法学部教授及び川口ほか7名でした。

  2. 私は参議院環境委員会委員長であり、「国会開会中における常任委員長及び特別委員長の海外渡航に関する申し合わせ」により、海外渡航は自粛するとされていることから、本件出張については、議院運営委員会理事会の決定により、23日から25日の出張を一日短縮し、24日中に帰国する形で出張をお認めいただきました。このことについては委員長及び議院運営委員会の各位に御礼を申し上げます。

  3. しかしながら、23日の私の北京到着時点では、会談の日程は24日及び25日の両日に予定されること以外は未確定でした。24日朝の打ち合わせ時点で、(1)王毅外交部長は四川省地震対策のため会談をキャンセルし、また変更の結果、代わりに程国平副部長が24日午前に会うこと、(2)24日午後に、中国外交政策について、政権に大きな影響力を持つ外交関係シンクタンク幹部(中華人民外交学会、社会科学院日本研究所、中国アジア太平洋学会、中国国際問題研究所、中国改革開放フォーラム)との会議が設定され、そのテーマが先方の決定として「中国の外交政策と近隣諸国」となったこと(3)楊潔篪国務委員との会談が25日午前になること、等が判明・確定しました。ちなみに、楊潔篪国務委員は、外交部長から国務委員(外交担当)に昇格後日本人とは誰にも会っていませんでした。

  4. 24日中に帰国するためには、24日14時半には北京市内を出発する必要があり、そのためには、上記日程の(2)および(3)に出席することは不可能となります。

  5. 他方で、尖閣諸島をめぐっての日中間の緊張の高まり、及び23日の国会議員による靖国神社参拝などから、一連の会談において、このテーマが大きなウエイトを占めることは容易に想像されました。日本人が一人もいない状況で、本件に関し中国側が偏った意見を提起する事態を避けることが我が国の国益であり、また、中国の外交政策決定当事者であり旧知の楊潔篪国務委員及び外交政策に関し政権に提言をする立場のシンクタンク幹部と本件に関し直接に十分な議論・反論を行い、現在対話がほぼ途絶えている状態の中国側に対し、我が国の考え方を伝えるとともに理解を慫慂することも国益上必須と考えました。

  6. 結果的には、楊潔篪国務委員との会談は時間を節約するために、先方が途中から通訳なしの英語の会談に変更し、また、シンクタンク関係者との会談は、予定時間をはるかにオーバーし、同時通訳を活用してもなお3時間を越えました。討議の6ないし7割が日中関係でした。日本の対中政策を十分に説明できたと考えております。同行のデビッド・ケネディ教授から、シンクタンク幹部との会談に関し、「あなたは、日本の立場を十分に守ったし、なおかつ、建設的に解決策についても議論し、良い会談だった。」とのコメントをいただきました。

  7. 我が国の主権と領土を守る国益を果たすために北京に残るべきか、それとも、環境委員長としての職責を果たすために午後早々に空港に向かうべきか、大変悩みました。どちらの国益も重要であります。私は、環境委員長としての職責に対する責任は、議院運営委員会において各会派のご理解を頂き、滞在を延長していただくか、あるいは、国会の規定に従って代理によって対応することを認めていただくことで、曲がりなりにも果たすことができると考え、滞在を一日延長することについて、24日朝、自由民主党の判断を仰ぎ、議院運営委員会に延長の手続きを取っていただきました。

  8. 結果的には時間切れとなり、議院運営委員会決定と異なる形の滞在延長となりました。この点について、議院運営委員会及び環境委員会に多大なご迷惑をおかけしたことについては、深く陳謝申し上げます。しかしながら、我が国の政治家として主権と領土を守る国益に背中を向けることができなかったことが、今回の私の行動の理由であったことについて、ご理解いただきたいと考える次第です。

以上
(出典:5月8日、http://blogos.com/article/61831/


 最大の問題は、経緯5.で川口氏が、<尖閣諸島をめぐっての日中間の緊張の高まり、及び23日の国会議員による靖国神社参拝などから、一連の会談において、このテーマが大きなウエイトを占めることは容易に想像されました。日本人が一人もいない状況で、本件に関し中国側が偏った意見を提起する事態を避けることが我が国の国益であり、また、中国の外交政策決定当事者であり旧知の楊潔篪国務委員及び外交政策に関し政権に提言をする立場のシンクタンク幹部と本件に関し直接に十分な議論・反論を行い、現在対話がほぼ途絶えている状態の中国側に対し、我が国の考え方を伝えるとともに理解を慫慂することも国益上必須と考えました。>と述べていることだ。

 川口氏は、「我が国の国益」「国益上必須」という文言を用いるが、この国益を判断する主体は誰か? 少なくとも川口氏ではない。外交は政府の専管事項であり、外務大臣もしくは総理大臣が、判断主体である。

 川口氏は、参議院の環境委員長として、自らの管轄事項に専心することが国益のために求められているのである。

 川口氏は、<我が国の主権と領土を守る国益を果たすために北京に残るべきか、それとも、環境委員長としての職責を果たすために午後早々に空港に向かうべきか、大変悩みました。>と述べるが、夜郎自大な発想だ。川口氏が北京に残って、我が国の領土と主権を守ることができると思っている人は、本人を除いて何人いるだろうか?

 領土交渉は詳細な知識と、外交当局との綿密な打ち合わせが必要だ。かつて北方領土交渉の停滞を作り出した川口氏に尖閣問題の突破口を開く能力がないということだけは、筆者は外交専門家の職業的良心に賭けて断言できる。

 自らの職務への責任感が欠ける政治家は、常任委員長ポストから解任されて当然だ。(2013年5月9日脱稿)

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プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に、「国境のインテリジェンス」、「帝国の崩壊(仮)」がある。

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