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中坊公平氏死去

もと弁護士の中坊公平(以下、歴史上の人物とみなし敬称を省略する)が3日、死去した。

戦後日本を代表する弁護士の一人であるとともに、彼ほど毀誉褒貶の相半ばする弁護士は、ほかにいないだろう。

批判の多くは、司法改革の「失敗」の責任を問うものであり、具体的には、弁護士激増政策「失敗」の責任を問うものだ。「死者に鞭打つな」との声もあるが、中坊公平は、死してなお批判にさらされるべき公人であろう。だが、だからといって何を言ってよいわけではない。「中坊のせいで(司法試験合格者年)3000人政策が決まった」とか、「司法改革のA級戦犯」といった薄っぺらな批判なら、しない方がマシだ。

弁護士激増政策に至った最大の原因は、日弁連が、高度経済成長にもかかわらず、60年代以降30年にわたって、増員に抵抗し続けてきたことにある。ただ、この30年間は、冷戦下の高度経済成長という世界・経済情勢が、「小さな司法」を必要とし、日弁連のワガママを許容していた時代でもあった。だから、冷戦終結による社会変動に柔軟に対応していれば、弁護士増員政策についても、ソフトランディングの可能性は残されていた。

しかし、「最低でも年1000人」の要請を真っ向から無視し、「800人の5年間据え置き」を決議した平成7年12月21日の日弁連臨時総会決議が、全てをブチ壊したのである。これにより日弁連は、「ギルド社会の既得権擁護の思い上がり」という非難にさらされ、国民から支持されなくなり、発言力を失って、当事者の椅子から引きずり下ろされることになり、その後1000人→1500人と続く法曹増員政策に歯止めをかけることができなくなる。中坊公平が3000人を提唱した平成11年(1999年)当時、経済界や法曹界の一部には、5000人、6000人を主張する勢力がいたことも忘れてはならない。中坊公平が3000人で収めなければ、6000人になっていたかもしれないという議論も、あながち嘘ではない。

このような事態に至った「A級戦犯」は、800人案を提案した故辻誠もと日弁連会長であり、これを受け入れた故土屋公献日弁連会長(当時)、辻誠弁護士とともに800人決議案を提案した前田知克弁護士、そして、800人決議をめぐる「陰謀」(『こんな日弁連に誰がした?』94頁)に関わった全ての弁護士である。

多少の想像を交えて言うと、冷徹なリアリストであった中坊公平は、司法改革問題に再登板した平成10年、「日弁連が主導権を回復できるギリギリの線」として「3000人」を見極めたのだと思う。「3000人」は法科大学院制度を導入できる最低限の数字であるから、文科省や大学とも共闘できるし、「法曹一元」とセットにすることによって、矢口洪一もと最高裁長官とも手を組めるし、戦前からの悲願を目標とすることによって、分裂寸前の日弁連を糾合することができるからだ。1990年(平成2年)の日弁連会長選挙で「司法改革」を掲げ、分裂していた左右両派の圧倒的多数票を集めた中坊公平は、「法曹一元」によって、日弁連は再び団結すると考えたのだ。そして実際その通りになった。

おそらく中坊公平にとって最大の誤算は、日弁連が持つ「法曹一元」のトラウマなり怨念なりが、予想以上に大きかったことだろう。司法制度改革審議会で法曹一元が露と消え、法曹大増員だけが残ったとき、中坊に対する憧憬は憎悪に豹変した。

中坊は、「法曹一元」に代わる糾合策として、「政府と連携した不良債権回収業務」(RCC)や「弁護士費用敗訴者負担制度」を実践し提案するが、もはや支持を集めることはなかった。敗訴者負担制度は、日弁連自身によって葬られたし、中坊自身がRCC時代の不正を追及されたとき、日弁連は全く援護しなかった。弁護士バッヂを外した中坊が再び弁護士登録申請をしたとき、大阪弁護士会内で復帰を歓迎する声はほぼ皆無だった。かつて、熱狂的に中坊を支持した弁護士も多いはずなのに。

中坊公平に対して、型どおり「ご冥福をお祈りします」と述べるのは、相応しくないと思う。弁護士中坊公平の魂が、安らぐことはないからだ。日弁連は、中坊公平を賞賛し、そしてたたき落としたのだから。

われわれはむしろ、中坊公平を批判し続けるべきだと思う。ただし、その目的は、死者を鞭打つことではない。中坊の思想と行動の探求を通じ、彼を支え、踏みつけた人びとの「今」を明らかにすることにある。

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