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アベノミクスは資産バブルが目的なのか

 「マネタリーベースの伸び率は大幅に上昇しているが、マネーサプライの伸び率に大きな変化までは窺われていない。経済活動の活発化に結びつく形でマネーサプライが増加するためには、財政政策の運営と効果に依存している面もあるが、少なくとも、金融仲介機能の回復などによって金融政策の効果波及経路が確保され、民間部門の資金調達行動が活発化することが前提となる。」

 これは2002年12月に発表された日銀のレポート「金融政策運営に果たすマネーサプライの役割」のなかの一文である。作成は日本銀行企画室となっている。これがリフレ派のいうところの日銀理論とされるものなのかもしれないが、このレポートにもあるように「1980年代後半のバブルの生成期にはマネーサプライと経済活動との関係が一旦みえにくくなった」とある。

 ここで面白い資料がある。4月27日に新聞各紙に載せられた、静岡県立大学教授・内閣官房参与である本田悦郎氏が書かれた本「アベノミクスの真実」広告をご覧になった方も多いのではなかろうか。

 この本は安倍総理の公認本ともなっている。本田悦郎氏は財務省出身だが、安倍氏のアドバイザー的な存在であり、アベノミクスの三本の矢のうちの大胆な金融政策、つまりリフレ的な政策を推し進める上で、かなり影響力を持った人物とみられ、内閣官房参与の肩書きがそれを示している。

 問題となるのは、その広告にあったデフレ脱却のメカニズムという図である。これは日銀の異次元緩和のトランスミッション・メカニズム(波及経路)をなるべくわかりやすく説明したものと思われる。ここで日銀の金融政策の働きかけが、いきなり投資家にきている。「緩やかなインフレ期待形成」により、実質金利が低下し、円安・株価上昇・不動産価格の上昇を促すとしている。そこから企業部門に働きかけていくとしている。

 これはアベノミクスの効果を図で示すために、あえて円安・株高を強調したかったのかもしれないが、金融緩和で株高や不動産価格の上昇を招くというのは、前回のバブルを招いたときの政策と同様である。これについては日銀の上記レポートにもあったように、1980年代後半のバブルの生成期にはマネーサプライと経済活動との関係が一旦みえにくくなったことをどのように説明するのであろうか。

 もうひとつ面白い資料がある。19日に発表された「アベノミクスとは何か ~日本経済再生に向けた日本の取組みと将来の課題~」という題の麻生財務相の講演内容である。これは非常のわかりやすく説明がなされている。

 「安倍晋三首相は、大学時代にアーチェリーの選手だったそうです。このため、アベノミクスを、三本の矢の組み合わせと言うのは、彼にぴったりなわけです。私はアーチェリーの選手ではありません。私はクレー射撃の選手で、1976年のモントリオールオリンピックで日本代表を務めました。ですので、私は矢ではなく、バズーカ砲だと呼んでいます。」

 なにげにオリンピック代表となったことをアピールしているように思われるが、どうやらバズーカ砲の名付け親は麻生財務相であったようである。

 それはさておき、「あなたがデフレーションを経験したことが無いからです。それがどんなものか、少しお話しましょう。」として日本のデフレを説明している。ちなみにこれは米ワシントンDCでの講演である。

 「全ては1990年代初頭に資産バブルが崩壊したときにはじまりました。」

 「結果として、多くの銀行や企業の資本が毀損しました。銀行は自分たちの不良債権の圧縮にしか関心が無く、企業は負債の返済しか考えていませんでした。」

 「日本企業は、将来の成長につながる新たなアイディアや製品に投資するよりも、賃金カットでコストをぎりぎりまで引き下げることを選びました。」

 「お金の価値は、モノに対して相対的に徐々に上がりました。政府以外のほとんど誰もが投資したがらぬということで、成長は減速しました。こうして根深い悪循環となり、デフレーションはしつこいものとなりました。」

 外人向けということで、非常にわかりやすくバブル崩壊によるデフレ生成の様子をまとめている。この説明にはまったく違和感がない。違和感があるとすれば、まず本田教授が、異次元緩和のトランスミッション・メカニズムでいわゆる資産バブルが目的であろうかとの説明である。それは結果として再度バブル崩壊のリスクを伴うのではなかろうか。

 そして麻生財務相の説明が正しいとすれば、バブル崩壊とその後のデフレの要因は日銀の緩和不足にあるものではなく、銀行が融資をしぶり、企業もコスト削減を選択し、投資を抑制したことにある。そうであれば、まず必要なのは企業が将来の成長につながる新たなアイディアや製品に投資する環境作りであろう(つまりは二本目・三本目の矢か)。そのためには金融緩和によるフォローも重要であり、マインド変化も必要ながらも、タカハシノミクス(高橋是清の政策)のような大きなリスクを犯して金融政策に極度に依存する政策で良いのかは甚だ疑問である。しかもその当初の目的が資産バブルの生成であるのであれば、それがマネーサプライを通じて物価に波及するというトランスミッション・メカニズムにも疑問が残る。それで2%の物価目標が本当に達成可能なのであろうか。

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