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BBC幹部「我々は(戦意高揚のための)国民的チアリーダーでも、(英国外交アピールのための)親善大使でもない。」

伝統的にいわゆる「国民国家」とマスメディアとは、コインの裏表のように結びついてきた。

これはメディア論的に言えば、

「日本人は、大晦日に、コタツに入って家族揃ってNHK紅白歌合戦を見る。」

のではなくて

「大晦日に、コタツに入って家族揃って、紅白歌合戦を見る人間こそが、日本人だ。」

ということである。紅白歌合戦の部分は、箱根駅伝でも、サザエさんでも、大河ドラマでも、月9でも、朝の連ドラでもいい。あるいはテレビ番組だけでなく、本ならば、夏目漱石でも、司馬遼太郎でもいいし、朝日新聞でも読売新聞でも別に構わない。

極限的な状況の仮定かもしれないが、あなたがもし、戦争という極限状況で、捕虜収容所の看守をやっているとして、捕虜の中に、日本のメディアやコンテンツに妙に詳しく、自分とばっちり趣味が合う捕虜と、そうでない捕虜がいたとしたら、どちらに親近感を感じるだろうか?どちらかを処刑しないといけないとしたら、どちらを処刑するだろうか。

ベネディクト・アンダーソンが「想像の共同体」で喝破したように、近代の国民意識、国民的な統合意識というのは、印刷技術や放送技術などのメディア技術のうえに乗っかってできた産物なのである。

リンク先を見る
想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行

これは、安倍内閣の閣僚が靖国を参拝し、尖閣をめぐって近隣諸国との関係が荒れているからこそ、改めて考えておきたいテーマだ。なぜなら、そもそも、昨今の社会状況の中で、国益というもの自体が、皆が思っているほど、自明ではない。(大声で、「日本の国益を守る」とか「国益のために必要だ」とか言っている政治家が、「国益」を正確に定義しているケースを筆者は余り知らない。)

尖閣諸島が、中国海軍に爆撃されることと、ソウルが北朝鮮に砲撃されることと、どちらがより日本国民の生命・財産の安全にとって危険だろうか? 株主資本の半分以上が海外保有となり、フランス人のCEOの指導のもと、タイ工場で組み立てられたコンパクトカーは、「日本車」なのだろうか?

そもそも、メディアには「公共性」があるというが、その公共性の範囲とは、どこまでのスコープで考えられるべきものなのだろうか。日本だけ?アジア地域?いや全人類のため?

例えば、NHKは公共放送というが、この場合の「公共」とはどこまでを含むのだろうか。日本政府が、NHKの語学番組は、日本語学習コンテンツを通じて、海外の人々の思想信条に影響を与えうるのだから、尖閣諸島を日本が実効支配していることの正統性などを、語学テキストを通じ、外国の人たちに教えこむべき、と言われたらNHKは、その圧力に従うべきだろうか?

そもそも、尖閣や靖国参拝については、日本のメディアはこの問題をどのようなトーン、手つきで報道すべきなのだろうか。中国や韓国側のロジックを紹介することは「反日」的で、日本の国益を損なう行為なのだろうか?

こういった問題意識を補助線に、3月にBBCを訪問した際に、幹部たちにインタビューした結果を紹介していきたい。

まずは、グローバルニュース全体の責任者を務めるRichard Porter (Controller, English, Global News)とのインタビューから、である。

田端:このグローバル化の時代に、メディアの役割は、簡単に国境線を超えうる。例えば、The Economistの報道姿勢は単に英国の国益を反映していない。しかしながら、BBCは、英国民の受信料負担で運営されている。 英国の国益と、BBCの報道姿勢との間には緊張関係があり、ときに矛盾するように思うが、それについてはどう思っているか?

Richard Porter:我々は英国の企業であり、英国の人々の役に立つことを誇りに思っているが、英国の外交姿勢をアピールする親善大使の役割を果たしたり、単に英国の国益を増大させることは、BBCの仕事ではない。

田端:だとすると、英国の国益以上に、大事な信条や信念があるということか?例えば、The Economistは、筋金入りの市場原理主義、自由貿易主義で知られており、そのことが、彼らを単なる「英国メディア」の地位に陥らせることのない、思想的なバックボーンになっているが、BBCにそのような思想信条はあるのか?

Richard Porter:BBCには、そのような特定の政治的スタンスはなく、その意味で、BBCとThe Economistとは違っている。具体的には、我々は、自分たちが依ってたつべきスタンスを、(政治的な)中立(Neutral)でも、(政府からの)独立(Independence)でもなく、Impartialismと称している。(Impartialとは、偏見なく、特定の立場に偏らず、公平であること)

田端:第二次大戦中には、BBCは、戦況を正確に報道し、そのことは、ドイツ兵の家族からも大いに感謝され、戦後には多くの感謝状が届いたそうでではないか。しかし、時の首相である、チャーチルやサッチャーは、英国内において、「公平」な報道を行うBBCを大変に嫌っていたそうだし、保守的な政治家からは「裏切り者」呼ばわりされることもあったそうだが、

Richard Porter:第二次大戦の後にも、BBCと戦争を報道を巡っては、大きな3つの緊張が有った。

  • 最初は、エジプトのスエズ運河を巡る、スエズ動乱(第二次中東戦争)
    (エジプトのナセル大統領が下したスエズ運河の国有化決定を阻止するために、英国が出兵したが、国際世論の支持を得られず、撤退したケース。)
  • アルゼンチンがイギリス領であったフォークランド諸島を占領し、当時のサッチャー首相が奪還を厳命したフォークランド紛争
  • ブレア首相が、ブッシュ大統領とともに進め「テロとの戦い」「大量破壊兵器がある」と言われたイラク戦争
    いずれも、BBCの報道姿勢には、英国政府の外交上でアピールしたこととは大きな隔たりがあった。もちろん、これは簡単なことではない。

    しかしながら、我々は国民的な放送局(ナショナル・ブロードキャスター)だが、(戦意高揚のための)、国民的チアリーダー(ナショナル・チアリーダー)ではない。

21世紀は、国民国家とメディアとの利害関係が、それまでのような蜜月ではなく、 もっともっと分離していくのだろう。その最前線の地平を、100年近くの歴史とともに切り開いてきたのがBBCではないだろうか。

最後に RICHARDが言った気になる発言を紹介。

「日本はBBCが同時翻訳を付けている唯一のマーケットだ。」
私も、精進の最中ですが、皆さん、BBCがCSを通じた日本での放送で、同時通訳を外せるように、頑張りましょう。

===
すみません。この連載、のろのろですが、まだまだ続きます・・。

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