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「主権回復の日」に思うこと

 1952年・昭和27年の4月28日にサンフランシスコ平和条約が発効して日本が法的な独立を回復したとき、私は惨憺たる受験結果を経て大学に入学したばかりの18歳だった。朝鮮戦争は継続中であり、アメリカ軍の駐留も継続していたから、これで日本が独立したとか自立したとかいう明るいムードは何もなく、それらしい行事も記憶にない。

 吉田首相が講和の演説で「欣然これを受諾いたします」と日本語で演説した声はラジオで聞いていたが、その前に「全面講和」か「単独講和」かで日本を二分する大論争があり、それが朝鮮での戦争とも無関係でないことは承知していた。それでも問題はあるにしても、日本がアメリカの保護下で独立を回復するのは、しないよりは良いことだろうと思っていた。

 それにしても奇妙な「占領下」の暮らしだった。アメリカ軍に全土を占領されたのに、日常に軍政が顔を出すことはなく、「進駐軍」の兵士たちは基本的に市民に対して友好的だった。アメリカ軍による、日本政府を使っての間接統治は、みごとに成功していたのだと思う。この「占領された実感のなさ」が、主権回復についての鈍感さと表裏一体であることは間違いない。

 朝鮮戦争の戦況が、成立したばかりの中国「中共軍」の参戦によって、国連軍の完勝による朝鮮統一の寸前に急転し、38度線まで押し返された記憶が、まだ生々しく残っていた。中国に対する警戒感の強さは、現実に軍事力を見せつけられた直後なのだから、今とは比較のしようもない。だから主権回復のわずか3日後に起きた皇居前広場での「血のメーデー事件」は、朝鮮戦争の日本国内における代理戦争だとするニュース解説が堂々と行われていた。

 ことの良し悪しは別として、独立回復と日米安保のセットは、当時の世界を二分していた「自由諸国圏」対「共産圏」の中で、前者を選択したことを意味していたのだ。その後長く続いた「二つの世界」の対立だったが、幸いにしてこの冷戦構造は過去のものになった。問題は、日本がいまだに61年前の選択に縛られたまま、自分の意思で針路を決めることが出来ずにいることだと思う。

 日本人は精神的に独立を回復していないとは、よく右翼が持ち出す理屈なのだが、それが戦前・戦中の日本の復活を指向するなら、まさに歴史の針を逆にもどすことになる。

 そうではなくて、アメリカ追従の枠組みから脱して、未来志向の国として自立を目指すなら、国の独立を祝うのは5月3日の憲法記念日こそがふさわしい。自民党の改憲案と読み較べると、現憲法の先進性が、逆によくわかってくる。そこには日本のみならず、世界の未来についての理想が説かれている。

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