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弁護士業務広告への本当の認識

 かつて弁護士会内で聞かれた「弁護士という仕事に広告はなじまない」という言い方を、弁護士から少なくとも表立って耳にすることは、いまやほとんどなくなりました。2000年に弁護士の広告が全面自由化され、今ではCМまでも目にする時代、こんなことを口にするのは、いかにも古い頭のようにとらえている人はいます。これは、競争と市民のアクセスを阻害していた、弁護士会の悪しき規制が解かれたのだというニュアンスの括り方も一般的にはなされています。

 ただ、一方で本音の部分では「なじむ」ということに対して疑問視している弁護士も少なからず存在しています。そして、その方々の声に耳を傾ければ、頭が古いというよりも、実は彼らの方が、「広告」というものの本質を分かっているのではないかと思うこともしばしばあるのです。

 以前もご紹介したように、全面自由化といっても、弁護士の広告には実は規制が存在します。日弁連の「弁護士の業務広告に関する規程」3条には、弁護士ができない「広告」が列挙していますが、そこに「誤導または誤認のおそれ」「誇大または過度の期待を抱かせる」ものを挙げています。しかし、広告宣伝の目的は、取りも直さず、顧客の誘因にあり、その手法として、当然に誇張は用いられていますし、その結果として、厳密な意味で言えいえば、「誤認」のリスクも払拭できないものであることは、誰もが分かっていることです。「なじむ」「なじまない」もその前提に立てばどういうことになるのか、という話です。

  「広告の本質は過度な期待を抱かせることであり、これを規制することは自己矛盾とも言える」

 最近のブログ「弁護士業務広告規程ガイドライン(運用指針)」を連続して紹介している小松亀一弁護士は、そのなかではっきりとこう指摘しています。彼は前記3条の規制について、「これは、自己の業務を他人に売り込み、顧客となって貰う事を目的とする宣伝・広告に必然的に伴う現象」とし、さらには,エキスパート等専門性を強調する宣伝・広告を誤導のおそれ、市民の利益への侵害、弁護士への信頼毀損を理由に「現状ではその表示を控えるのが望ましい」としていること(「弁護士の『専門』アピールと『誤導』」のおそれ」)へも、実際には、交通事故、離婚、相続、多重債務等各分野で実質専門の表示が弁護士のホームページでなされていることを指摘しています。

 つまり、こうみると、要は自由化するとはしたが、その許された「広告」とは本来の広告とは違うものであるべき、という認識に弁護士会は立っているが、現実的にはその区別はできない、もしくは実質的に区別しない方向に向っている、ということです。これには社会的な要請ということからみて、大きく二つの見方があるように思います。

 一つは、いいじゃないか、という考え方。大衆は「広告」の実態が分かっていて、弁護士の広告を求めている、あるいはそのリスクがあっても、広告にはそれを上回る必要性・利便性が見出せるし、そのリスクはあくまで利用者が負えばいい、と。そういう認識も大衆のなかにはしっかりある。そうだとすれば、矛盾は自由化といいながら、依然規制をかけている方だということになり、現実がそれを取っ払う方向に進む、それでよしとする考え方になります。

 もう一つは、分かっていない、という考え方。大衆は、「広告」による情報提供を求めているし、そこを一般の商品やサービスと同一に考えて、その点で「広告」の利便性を支持するかもしれないが、弁護士に誤導されるリスクの大きさ、広告宣伝による現実的な判断の困難さと、他の商品・サービス選択と同様に、それを自己責任のもとになすことの重さを、依然、よく理解しないで言っており、それが伝えられれば、話は違ってくるという見方です。

 小松弁護士は前記ブログ中で、「『専門』と言う言葉を使おうが使うまいが、実質はその分野の専門だと言うことを強調しない限り、広告の本質目的顧客誘因を達成出来」ず、「かと言ってこの規制を外すと専門家表示競争が一層熾烈になる」という、現状が難しい判断に立たされていることを指摘しています。「広告」本来の目的達成、それに伴い予想される峻烈な競争を前にして、まず、大衆の認識がどういうものであるのかによって、今、弁護士会がやらなければならないことが、全く変わってくるように思います。

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