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あらためて知ったメディアと司法の危機

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 お蔭様で拙著、「事件記者という生き方」(平凡社刊 1600円+税)の売れ行きは順調なようだ。発売から2か月近くなるのに、東京や大阪の大手書店の平台をいまも確保している。ありがたいことである。だが、著者にとっては売れ行き以上にありがたいことに出会っている。本書のなかに登場させてもらった方々をはじめ、多くの読者から、まさに著者冥利に尽きる感想をいただいているのだ。

 とは言え、そんなうれしい感想をいただいたからといって、ここでそれを紹介していたのでは手前味噌もいいところだ。それに、だ。そうした感想の数々を読ませてもらったり、聞かせていただいて、とてもじゃないが、そんな能天気なことを言っている場合ではないことを思い知らされた。


 私はこの著書のなかで、記者時代の自伝的なことにふれると同時に、二つの大きなテーマを据えたつもりだ。ひとつは新聞、テレビに代表されるメディアの問題。そしてもう一つは警察、検察、裁判所、日本の司法についての問題である。

 この二つについて、かなり突っ込んだ思いを書かせてもらい、いずれも危機的な状況である、と警鐘を鳴らしたつもりである。だが、はっきり言って、それでも甘かった。事態はもっと深刻だ。メディアも司法も、一刻の猶予も許さない危機的な状況、まさに崖っぷちにあることを、この本を読んで下さった方々が私の目の前に突きつけてくれたのだ。

 メディアについては、NHKOBの進藤和さん、読売OBの白石喜和さん、それにテレビ朝日のプロデューサー、ディレクターといった方々から、様々な思いや見解、貴重な考えを寄せていただいたが、なかでも私の胸にズシンときたのは、朝日新聞ニューヨーク支局の三浦英之さんからのメールである。三浦さんは、東日本大震災のあと、宮城県南三陸町に駐在、「南三陸日記」を連載された記者で、私の著書の最後の章で紹介させていただいた。

 その三浦さんの、いわば「ニューヨーク日記」によれば、いまアメリカのジャーナリズムの現実は目を覆いたくなるようなもので、<もし、これが日本のジャーナリズムの未来だとしたら、恐ろしくなる>としている。

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 いまアメリカで新聞記事を書いているのは、記者ではなく、コンピューター。「コンピューター・アルゴリズム」と呼ばれ、電子配信されるスポーツの試合結果や、不動産情報、企業の決算書などからコンピューターが情報を抽出、それを編集者の目を通さず、新聞記事の「定型」にしてネットに配信しているのだそうだ。当然、読者はそうしたものは新聞記事とは思っていなのだが、情報はそこで安易に手に入るので、読者の新聞離れは加速する。いま全米で1400紙ある新聞のうち、10年後に生き残っているのは、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど4紙だけと言われている。その結果──

 各紙は競争するように記者のリストラを敢行し、新聞界の雄と言われるニューヨーク・タイムズでさえ、過去10年間で25%の記者が新聞社から姿を消したと言われています。「良い記事を書けば、必ず誰かが認めてくれる」という時代はとっくに終わったと、ニューヨーク・タイムズのディレクターが言っていました。

 ただ、それでも、「ジャーナリストになりたい」という若者がまだ数多くいることが、この国のジャーナリズムにおける救いなのかもしれません。ボブ・ウドワードにしても、ロバート・キャパにしても、輝かしい先人たちがしっかり自分たちの記録を残し、それを若い人たちがバイブルのようにして読み継いでいる。それはとても大事なことだとあらためて感じ入りました



 さて、私の著書のもうひとつの大きなテーマは、警察、検察、裁判所、日本の司法の問題であった。なかでも、警察にはついては、かなりの紙幅を割いてきた。その警察について、私の徳島支局時代の県警捜査2課長で元北海道警旭川方面本部長の川畑久廣さんは、
昔は考えられないような警察幹部の犯罪。それは警察庁による巡査、巡査部長どまりによる退職は、世間体が悪いという方針から全員を警部以上の階級による退職にしようという温情政策によってなかには、巡査にも劣るような者が幹部になっている弊害によるものだと歯噛みするような悔しさを味わっています
と書かれている。

 縁は異なもので、同じく北海道警で釧路方面本部長を務められた原田宏二さんのメールには、
川畑さんというと、徳島県警捜査二課長のお話も感銘を受けました。私も熊本、山梨で捜査二課長だったときの、若い記者とのやり取りを思い出しました。旭川方面本部長時代の川畑さんのことは覚えています。温厚な方で評判もよかったです
と書かれていた。

 その原田さんからは、追いかけるように「警察崩壊〜つくられた“正義”の真実〜」(旬報社刊 1700円+税)が送られてきた。この本は、いわば、いまの警察組織の在り方を問う原典、問題点を実に的確に抽出した貴重な書である。警察官はもちろんのこと、新聞記者、放送記者、これからメディアを目指す人たちはぜひ読んでおいてほしい。その原田さんは、「警察崩壊」のなかで、川畑さんも憂いておられた警察官の犯罪の多発について、こう書いている。

 
もはや小手先の対策では、解決できないほど事態は深刻だ。組織運営のどこに問題があるか考えなければならない。こうした警察官個人の犯罪行為が続発していることも問題だが、より深刻なのは警察の組織的犯罪とその隠蔽だ


 そして
どんな政権に変わろうとも、警察は社会にとって必要だ。市民のための警察に変えなければならない。しかし、警察改革に関しては、マスコミも及び腰だ。その壁は厚く、国民の関心も薄い。前途多難だが、警察OBとしてそれを座して待つわけにはいかない
と、あとがきに書かれている。

 そこであらためて思うのだ。こうして、現役の記者たち、さらには、その組織からすでに離れていながら、その組織の現状と将来に心を砕いておられる方が、ここに存在する。なのに、メディアに目を向ければ、アメリカの例に見るように新聞にとって壊滅的な事態が眼前に迫っている。司法は、と見れば、警察組織はすでに崩壊したに等しい。土台も柱も屋根も、老朽化してしまっているのではない。腐食し朽ち果ててしまっているのだ。そうしたときに、それらのトップリーダーたちは何をしているのか。問題に対してただひたすら、目を閉じ、耳を塞ぎ、口をつぐんでいるのか。自分の時代だけを、とにかくやり過ごせばいいと、まさに座して、時が流れて行くのを待っているのか。そしてそのことを恥じる心さえ失ってしまっているのか。だとすれば、メディアも司法も二度と生き返ることはない。


 こんな深刻な問題について、流行り言葉など使いたくはない。だが、いま私は、そうしたリーダーたちの耳元に口をくっつけて、割れんばかりの声で叫んでやりたい。

 「いつやるか? 今でしょ」

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