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流行の手口ではある

「自民は高齢者に目が行き過ぎ」 自民・野田氏(朝日新聞)

■野田聖子・自民党総務会長

 私は若い女性に「将来の日本の辞書に『専業主婦』という言葉はない」と言っている。経済が小さくなり、働く人が少子化で減り、猫の手も借りたくなる。猫の前に来るのが女性だ。私たちの孫娘は、働きながら子育てしなければならない。自民党はあまりに高齢者に目が行き過ぎている。年金、年金とこだわるあまり、若い人へのお金を渋り、若い人は子どもを産まなくなっている。私たちが倒れた時、支えてくれる人がいなくなる。真に高齢者の幸せを守るためにやるべきことは、担い手である若い人を育てることだ。フランスでは子どもがたくさんいる方が公共交通機関が半額や無料になりお値打ちだ。そういう制度を国中に作る。自民党は少子化対策を形にして、後世の人にプレゼントしていきたい。(水戸市での党茨城県連女性局大会の講演で)

 「年間20万人が妊娠中絶しているとされるが、少子化対策をやるのであればそこから」とか「新入社員を雇うときに4割は女性社員にするという法律を作れば」等々、ドクター中松にも引けを取らない珍妙な発案を続々と披露している自民党の野田氏ですが、今回もまた同様と言えるでしょうか。それが野田氏の政治家としての信条なのかも知れませんが、いずれも「根本的な問題から矛先を逸らす」方向で主張を繰り返しているとも言えます。

 ツッコミどころが多くて迷いますけれど、例えば「経済が小さくなり、働く人が少子化で減り、猫の手も借りたくなる。猫の前に来るのが女性だ」云々、似たような主張は随分と以前から随所で繰り返されているように思います。しかし、働き手が不足する時代から逆に遠ざかり続けてきたのが近年の日本でもあるわけです。むしろ労働力が余る空前の超・買い手市場で、ブラックと呼ばれるような企業/業界であろうと待遇改善なしに人を集められるのが日本の現在です。働く人が不足すると語るのは、まだまだ鬼が笑うような話ではないでしょうかね。自民党が日本経済を活性化させてくれるなら労働力不足が現実化することもあるかも知れませんが、経済が小さくなることを前提にしたいなら、その心配は逆に杞憂と言わざるを得ません。

 それはさておくにしても、「自民党はあまりに高齢者に目が行き過ぎている」との主張が根本的におかしい。まぁ昨今では遠慮なく叩ける相手の一つとして定着しつつある高齢者層ですが、その高齢者に自民党が目を向けているかと言えば、当然NOですから。むしろ反対に国民の健康よりも医療費の削減に重きを置いた改革等々、高齢者を蔑ろにした政策転換もまた少なくなかったはずです。不十分な年金制度のために生活が成り立たず生活保護を受ける高齢者も増すばかり、高齢になるほど経済格差が大きくなることは小泉純一郎でさえ認めたところです(それは格差拡大の原因を高齢化に押しつけるためでもありましたが)。そして経済格差が大きい世代ほど、当然ながら社会保障の必要性も増します。

 確かに高齢者向けの福祉以上に、若年層などいわゆる「現役世代」の福祉となると、輪をかけて貧困が際立つのが日本でもあります。どっちも「足りない」ことに変わりはないのですが、相対的には現役世代の方が薄い、相対的には高齢者層の方が「手厚い」――あくまで「相対的には」そういうことになるわけです。要するに足りない度合いには差がある。そこで戦場から50歩逃げた兵士は100歩逃げた兵士と違って勇敢だと称えるのが正しいのなら、日本の福祉は「高齢者に目が行き過ぎている」と言えます。そして私は、日本の福祉がさも高齢者優遇であるかのように信じ込んでいる人は底抜けの馬鹿だと思っています。

 二者択一に見せかける、というのは改革を装う論者が好むところなのかも知れません。若者か高齢層か、あるいは正社員か非正規雇用か、ある一方の権利を尊重することはもう片方に犠牲を強いることだと、そういう世界観に沿って物語を作っていく人々が我々の社会を闊歩しているのではないでしょうか。だから非正規雇用が割を食っているのは正社員が守られているせいなのだと被害妄想を吹き込み、非正規雇用のためと称して正規雇用の切り崩しに励むのが日本では「改革」になるわけです。そして若年層を対象とした福祉の貧困は高齢者にリソースが奪われているせいだと、やはり虚妄の被害者意識を焚きつけては「若者のため」と称して高齢者向けの社会保障削減に励む政治家が改革を気取ると言えます。

なお現実は……
定年を延長しても新卒採用は減らなかったし、正社員の給与が上がればパートの給与も上がった

 高齢者の福祉が削られれば、親の面倒を見る人(=現役世代)に負担がのし掛かるだけのことなのですが、親の面倒は嫁に任せる、祖父母の面倒は母親が見る、自分が老親を支えることを想定できない人にとって、今回の野田発言の類は好ましいものに見えるのでしょう。しかしまぁ、例えば日本の税収の内3分の1程度を消費税が占めているわけです。税収に占める比率を考えれば、同じく30%台に止まるイギリス(付加価値税率20%)やスウェーデン(付加価値税率25%)のそれと大差ありません。徹底した分離課税で資産家からは税金を取れない、若い時代に貧乏な人は老人になっても貧乏なまま、若い時代から財を築いた人は日本の税制に守られて富を増やすばかり、両者の資産の算術平均は若年層よりも多くなる、そこで高齢者向けの福祉を等し並みに切り下げようとあらば――見直すべきところが根本的に間違っているとしか言えません。もちろん若者向けの公的支援の不足は深刻ですけれど、その原因を「高齢者に目が行き過ぎている」と言うのは完全にミスリードです。それは意図してのことなのかも知れませんが。

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