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【特別寄稿】日本学術会議経済学委員会『「東日本大震災」に対する緊急提言』

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2. 経済政策立案のための5つの軸



 このような大災害に関して経済政策を立案する際に、いくつかの思考軸を定めて議論していくことが必要である。ここでは、以下の5つの軸を置いてみた。

  • 軸1 (どのような期間を考えるか)

    緊急時(救助・支援)、短期(経済回復)、中期(復興活動)、長期(生産性向上策、被災地域の再生計画、さらには国家としての新たな経済ヴィジョン)。

  • 軸2 (誰を対象にするのか)

    被災者、被災企業、被災地域、間接的な影響を受けた人・企業・地域。

  • 軸3 (誰が負担するのか)

    現在世代 (若年層か中年層か高年層か、さらに企業)、将来世代、外国。

  • 軸4 (誰が意志決定するのか)

    国家(中央政府、地方自治体、中央銀行)、民間。

  • 軸5 (どのような政策手段があるのか)

    金融政策、財政政策、雇用政策、産業政策、地域政策、社会政策、情報政策。



 以下では、この5つの軸のうち第1の時間軸を基本軸として叙述を進めていく。

3. 緊急時の経済政策



 緊急時の経済政策は、このような大災害においては、最も重要であるが、そのすくなくとも一部は政府、地方自治体、さらには個々の国民や民間企業がすでに開始したり、計画したりしており、提言として新たに付け加えることは少ない。


  1. 緊急の流動性確保策。被災直後は、資金需要は旺盛ではなかったが、次第に、復旧費や運転資金、さらには操業停止で収入が減った企業の人件費や原材料費支払いのための資金需要が急増している。これに対しては、日銀による大量資金供給が必要となっている。現在、CPなど短期金融市場の金利はほぼゼロ金利であり、このような緊急の短期資金供給は事実上の無利子融資に近い状態になっている。日銀は当面、この状態が続くよう資金供給を続ける必要がある。


  2. 一時、日本企業、とくに保険会社による外国資産の円シフトを見越した投機筋の円買いが急速な円高を生み出し、日本企業の競争力低下が心配されたが、これに対して政府日銀は迅速な円安誘導を行ったが、今後も為替レートの推移は見守る必要がある。


  3. さらに、雇用政策・産業政策の視点からは、以下のような政策が緊急になされなければならない。


    1. 崩壊した住宅や工場や瓦礫などを国が整理するための法律や被害の実態調査をNPO等に委託するための政省令などの整備を早急に行い、緊急の雇用創出のために、瓦礫整理作業や調査活動の補助などを失業対策事業として1年間に限り認定し、一定額の日当を支払う。


    2. 被災者等の求める社会的サービスの供給を強化し、雇用機会を増やすため、これを実施しようとするNPOや社会的企業を手続きの簡素化や資金援助によって支援する。


    3. 就職や助成金、支払い猶予、所得保障等に関し、すべてを1か所で相談・助言が得られるようワン・ストップ・サービス相談所を設置する。


    4. 雇用保険の支給要件を緩め、同一企業に復職する者に対しても、失業手当を支給し、特定の要件を満たす者については、給付期間を延長する。


    5. 雇用調整助成金の要件を緩和し、給与支払いを可能にするとともに、労使、あるいは個人による社会保険料の支払いを一定期間免除することである。





4. 短期の経済政策。



 今回の災害においては、短期的には需要側と供給側でともにショックが起こった。一つは、企業心理や家計心理の大幅な萎縮による総需要の減少であり、もう一つは、震災地や原発避難地域の工場の破損や操業停止とその結果としてのサプライチェーンの断続、さらに計画停電などによる生産性の大幅な縮小である。


  1. 需要ショックだけであるならば、その効果は生産物市場と労働(生産要素)市場両方へのデフレ圧力となるが、生産性の低下による供給のボトルネック効果の場合はスタグフレーション圧力、すなわち労働市場に対してはデフレ的だが財サービス市場に対してはインフレ的に働く圧力になる。従って、両者の効果のどちらかが大きいかによって、物価がデフレ的になるのかインフレ的になるのか予測が難しい。地域ごと、産業ごとに異なり、時間の経過に伴って変化していくはずである。


  2. いずれの場合にも、労働市場においては(人的資源が大きく失われた災害地を除けば)デフレ圧力が強まることは確かである。その結果、失業率の上昇は避けられず、短期的には拡張的な財政金融政策が要請される。その場合、物価のインフレを一時的にもたらすことになるかもしれないが、スタグフレーションを解消させるには、生産性を回復させるか(短期的には困難)、残念ながら、インフレによって実質賃金率を低下させるかのいずれかの方策しか存在しない。


  3. このような拡張的政策の一部は緊急の救済策や復興支援によって先取りされているが、さらに追加すべきかに疑念を表明する経済学者もいる。とくに、物価インフレは日本の名目利子率に上昇傾向をもたらし、国債負担を増加させ、日本の財政規律に対する信認を揺るがす可能性があるからである。その時、日銀による金融政策はゼロ金利の時よりもさらに難しい舵取りが必要になるだろう。



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