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【特別寄稿】企業法務マンサバイバル「東京電力の「電気供給約款」を分析してみた」

企業法務マンサバイバルは、「約款」「利用規約」という単語にとても反応するブログです。

これまでもmixiの利用規約Appleの販売約款Facebook利用規約などなど、数々の「利用規約」「約款」ネタを取り上げてきました。以前も述べたとおり、これからの企業法務において、契約にかかるコストを下げること、そのための手法として約款を活用することは、とても重要になっていくだろうと考えるからです。

そういう意味で言うと、今回研究対象として取り上げる東京電力の電気供給約款は、この関東圏のすべての人・事業所が利用している約款にもかかわらず、全くノーマークでした。電気だけに、灯台下暗し・・・。

電気供給約款(東京電力HP)

画像を見る


約款上、今回のような計画停電は想定されていたか?



されていたと思います。ここまでの規模じゃないにせよ。

計画停電という明確な言葉はこの約款には登場しませんが、以下の(1)二の「非常変災」に該当するものとしての「電気の供給中止」と解釈できます。

40 供給の中止または使用の制限もしくは中止
(1) 当社は,次の場合には,供給時間中に電気の供給を中止し,またはお客さまに電気の使用を制限し,もしくは中止していただくことがあります。
 イ 異常渇水等により電気の需給上やむをえない場合
 ロ 当社の電気工作物に故障が生じ,または故障が生ずるおそれがある場合
 ハ 当社の電気工作物の修繕,変更その他の工事上やむをえない場合
 ニ 非常変災の場合
 ホ その他保安上必要がある場合
(2) (1)の場合には,当社は,あらかじめその旨を広告その他によってお客さまにお知らせいたします。ただし,緊急やむをえない場合は,この限りではありません。

それにしても、(2)の「あらかじめその旨を広告その他によってお客さまにお知らせ」のあり方は、東電としていくつか反省すべきポイントがあったと思います。

まず、あれだけの重要かつ複雑な情報をホームページでの告知に頼ろうとしたこと。後にYahooやニュースサイト、経済産業省のサイトに転載されたからよかったものの、アクセスが集中してパンクするのは目に見えてましたし、インターネットが使えない家庭では知る手段は無かったと言ってよいと思います。

加えて、最初に東電が出した情報が間違っていたのも問題でした。HPでは差し替えが行われたものの、ニュース番組では大体的に間違ったままのリストで説明され、SNSなどを通じて間違ったリストがどんどん広まっていきました。

そして何よりも発表が実施前日の深夜と非常に遅かったのは乱暴でした。しかし、私はこれには深い理由があったと推察しています。3/12には既に「計画停電が必要になるかも」と報道でも囁かれながら、正式発表が前日の深夜になったのはなぜか?その理由の考察は、後ほど損害賠償責任の条項を解説した上での「余談」としてまとめていますので、ご覧ください。

計画停電に対するユーザー補償は?



計画停電=電気の供給中止に伴う金銭的な補償措置としては、以下の条項が用意されています。

41 制限または中止の料金割引
(1) 当社は,40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって, 定額電灯,従量電灯および低圧電力に対する電気の供給を中止し,または 電気の使用を制限し,もしくは中止した場合には,次の割引を行ない料金を算定いたします。たただし,その原因がお客さまの責めとなる理由による 場合は,そのお客さまについては割引いたしません。
イ 割引の対象
定額電灯については需要家料金,電灯料金および小型機器料金の合計とし,その他については基本料金(力率割引または割増しの適用を受ける場合はその適用後の基本料金とし,従量電灯Aの場合は最低料金とし, また,従量電灯で最低月額料金の適用を受ける場合は最低月額料金といたします。)といたします。ただし,26(料金の算定)(1)イ,ロまた はハの場合は,制限または中止の日における契約内容に応じて算定される1月の金額といたします。
ロ 割引率
1月中の制限し,または中止した延べ日数1日ごとに4パーセントといたします。
ハ 制限または中止延べ日数の計算
延べ日数は,1日のうち延べ1時間以上制限し,または中止した日を1日として計算いたします。

まずポイントなのが、「定額電灯」と「基本料金」のみが割引の対象となっている点です。従量電灯や低圧電力については割引の対象ではありません。しかも、一般家庭では「定額電灯」契約はしてない(マンションの共用部の電灯や公衆電話用)と思いますので、結果基本料金のみが割引の対象となります。

割引の考え方がやや複雑ですが、1日のうち延べ1時間以上制限すると1日停止とカウントされると。つまり2〜3時間ずつの輪番停電に1日どこかであたるごとに4%ずつ、つまり輪番停電に25日にあたってはじめて、その月の基本料金がタダになるみたいです。微々たるものですね(笑)。

しかし、さすがに今回のような規模と頻度は想定していなかったはず。住所ごとにグループを分けて何回にも渡って実施したりしなかったりしている今回の計画停電と、各家庭ごとに請求金額を計算する東電の請求額計算システムとが連動しているとは思えません。次の請求までに、システム改修は間に合うのでしょうか・・・。

東京電力は損害賠償責任を負うのか?



約款上はどう読んでも負うことになるだろう、というのが結論です。

こういった事態を想定していたであろうわりには、損害賠償の免責規定の作り方は少し甘かった様に思います。

42 損害賠償の免責
(1) 40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって電気の供給を中止し,または電気の使用を制限し,もしくは中止した場合で,それが当社の責めとならない理由によるものであるときには,当社は,お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません。

以前このブログでも解説したとおり、「一切を免責」と規定してしまうと、消費者契約法によってその条文自体が無効となってしまうことなどに配慮し、「当社の責めとならない理由によるものであるときには」という免責にとどめたのでしょう。しかし、少なくとも(消費者契約法の制限を受けない)事業者の営業停止損害などは、条文上免責をしておくべきだったのではないでしょうか。

一般家庭と違って、事業者が計画停電で営業停止を余儀なくされたことについての損害の立証は比較的容易です。そこに対して規定上も免責がないとなると、訴訟は数十件の単位では収まらないものと思います。日本の裁判所がこの状況を踏まえてどのように判断するか、見守っていきたいと思います。

余談:計画停電実施の正式発表までに時間がかかったのはなぜか?



私が今回の東京電力の対応の中で何より驚いたのは、計画停電実施の正式発表が前日の深夜だったということ。

もちろん、グループ分けの実務が大変だったということもあるでしょう。しかし東京電力はなぜあの時間まで計画停電をすること自体も発表できなかったのか?ずっとそこだけが解せなかったのですが、損害賠償条項を分析しながらこの記事を読んでいて、ピンと来るものがありました。

計画停電 危機対応 東電任せ(YOMIURI ONLINE)
東京電力が14日から始めた「計画停電」は、一般家庭や企業などの顧客との取り決めである「電力供給約款」を根拠に行われている。

これに対し、第1次オイルショック時の1974年1月には、政府が電気事業法27条に基づく強制的な電力の使用制限を行った。電力の供給不足への対応には国も大きな責任を負うはずだが、今回は東電と顧客という民間同士が決めた約款に危機対応を委ねた形だ。事前の説明が二転三転するなどした背景には、菅政権の無責任な対応もある。
参考:電気事業法第27条(電気の使用制限等)
経済産業大臣は、電気の需給の調整を行わなければ電気の供給の不足が国民経済及び国民生活に悪影響を及ぼし、公共の利益を阻害するおそれがあると認められるときは、その事態を克服するため必要な限度において、政令で定めるところにより、使用電力量の限度、使用最大電力の限度、用途若しくは使用を停止すべき日時を定めて、一般電気事業者、特定電気事業者若しくは特定規模電気事業者の供給する電気の使用を制限し、又は受電電力の容量の限度を定めて、一般電気事業者からの受電を制限することができる。

おそらく、東京電力は、電気事業法27条に定める経済産業大臣の命令に基づく供給制限という構成にすべく、官邸と交渉を重ねていたのではないでしょうか?

「法律に基づく大臣決定による強制的な供給制限」ということにできれば、まさに「当社の責めとならない理由による」超法規的な措置として、東京電力が停電による損害賠償義務を負わずに済む構成となるはずだったからです。しかし、政府はこれをまるで自己責任と言わんばかりに突き放しました。だからこそ、「東電が(約款に基づいて実行する)計画停電の実施を“承認”した」という言い回しになったのでしょう。

東電:「大臣命令の供給停止ということにさせて下さい、でないと後が…」
政府:「原発問題は東電が起こしたことなんだから、自分で責任取って、会見で詫びてこい」

こんな責任のなすりつけあいが3/12〜/13を通して発生し、結果あの時間まで発表が遅れたのではと推察します。もしそうだとすれば、政府も東電も、国民・顧客の生命・身体・財産の危険を無視した迷惑極まりない態度だと批判されても、仕方がないでしょう。


※編集部注:本エントリは、企業法務マンサバイバル さんより許可をいただき、転載いたしました。

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