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【特別寄稿】佐々木俊尚「この危機は大いなる変化のきっかけになるかもしれない」

日本の驚くべき「立ち直る力」



英語圏の多くの新聞やテレビが、日本人の驚くべき「立ち直る力」についての記事を掲載しています。今回は予定を変更し、これらの記事を紹介していきたいと思います。

ニューヨークタイムズは、1995年の阪神大震災時に同紙東京支局長を務めていたニコラス・クリストフ記者のコラムを掲載しました。タイトルは「日本への同情、そして賞賛」。

彼は「私たちの心は、いますべての日本人たちとともにある」と同情の心とともに書き出し、そしてこう続けています。「われわれはこれからの日本がどうなるかを見た方がいい。そこにはきっと、学ぶべきものがあるはずだ」

16年前の阪神大震災で、日本政府の対応は最悪でした。初動は遅く、自衛隊の投入は遅れ、海外からの緊急援助隊は救護犬の検疫の問題から断り、がれきの中で生き埋めになっていた人たちの中には、政府の遅れのせいで無駄に命を失った人もいたのではないかと見られています。

しかし政府の対応とは裏腹に、クリストフ記者は「日本人の忍耐力と禁欲さ、行儀の良さは本当に高貴だった」と書いています。「日本語にはガマンという言葉がある。英語には正確な訳はできないが、近い言葉で言えば toughing it out(耐え抜く、戦い抜く)だ。神戸の人たちは、勇気と団結と、そして同じ目的を持つという感覚によってそのガマンを実現していた」

日本には「略奪」がない



たいていの国では災害が起きると、略奪や救援品の奪い合いが起きます。テレビではそうした世界の映像がよく紹介されています。クリストフ記者も神戸でそうした事例が起きているのではないかと探し回り、そうしてようやく、「二人の男に奪われた」と証言する
ひとりの店主にたどり着きました。クリストフ記者は詠嘆しながら、こう聞きます。

「災害時に悪事を働くような日本人がいたことに驚きましたか?」

すると店主は、驚いたようにこう答えたそうです。

「誰が日本人だって言いました? 犯人は外国人でしたよ」

クリストフ記者はこう説明します。「日本には部落民と呼ばれる被差別階級があり、在日韓国人も同じように蔑視されている。しかし他の国と較べると、日本には極端な貧困はほとんどない」。日本には、共通の目的を皆で持っているというような感覚(sense of common purpose、何かいい訳し方はないのでしょうか)がある、と彼は言います。そしてこうした感覚は日本社会の骨組みであり、それが自然災害や危機の後には顕著に可視化されるのだと指摘しています。

日本人の特質は危機の時にしか現れない



これは本当にそうなのかもしれません。われわれは酷い国に住んでいるとこの20年間、常に思い続けてきました。バブル経済の崩壊。中流の崩壊と格差社会。めまぐるしく政権交代が続く政界。感情的な報道しかできないマスメディア。グローバリゼーションに飲み込まれ、行き場を失いつつある産業界。

1945年にスタートした戦後社会は、高度経済成長という輝かしい光跡をあとにして1970年代に完成しました。しかしその後、われわれは日なたの午睡のような終わりなき日常から、先行きの見えない不況の中へと、かつての戦後社会の残滓を舐めすするようにして消費し、ここまでただだらだらと生き続けてきたようにも思えます。そうした状況の中では、日本社会の中に隠されていた紐帯と社会資本は隠れて見えなくなっていた。

日本は再び輝き始めているのか



この四日間、あまりにも悲惨な災害を前にしながら、しかし日本社会はなぜか再び輝き始めているように私には思えます。眠っていたような多くの人たちが、危機を前にして顔を紅潮させ、緊張感とともに事態と立ち向かっている。幕末の黒船来航や、太平洋戦争の敗戦がそうであったように、このような危機の時にこそ日本人の特質は発揮されるという内在的なメカニズムが潜んでいるのかもしれない、そんな風にも感じます。

クリストフ記者のコラムに戻りましょう。彼は力強く「日本の回復力と忍耐力に、私は高貴さと勇気を見つけている。そしてその力は、再び私たちの前に立ち現れてくるはずだ」と言います。「日本社会の社会構造の緊密さ、そしてその強靭さと立ち直りは、再び強く輝きはじめるにちがいない」

ピーター・タスカ氏が語る日本の回復力



もう一本の記事を紹介しましょう。日本通として知られるイギリスのエコノミスト、ピーター・タスカ氏がフィナンシャルタイムズに寄稿したものです。タイトルは「日本は立ち直る力に富んでいる」。この立ち直る力、回復力を意味するresilienceという単語は、先のクリストフ記者のコラムにも何度も使われています。

タスカ氏のコラムは今回の地震に遭遇したときの自らの体験記から始まり、そしてこんな話が紹介されています。「日本の民間信仰では、地球の奥深くの泥の中に沈んでいる鯰が地震を引き起こすと信じられている。いつもは鹿島の神が鯰の背中に巨大な岩を載せ、鯰の行動は抑えられている。しかし時には神もうたた寝をしてしまう。そんなときに鯰は自由に動きだし、地震を引き起こすのだ」

そして日本では、この地震という自然災害はつねに社会の大きな変化の前兆となってきた、と。

たとえば1855年に起き、江戸の町の大半を破壊した安政の大地震。この地震の後すぐに幕藩体制は崩壊し、徳川幕府による200年の鎖国時代は終わりを迎えました。

1923年の関東大震災。日本が大正デモクラシーと呼ばれる民主政を発達させた時代の終わりの時期です。その転換期の先には、あの暗い時代が待ち受けていました。

そして1995年の阪神大震災。日本の輝かしい時代の終焉の時期と重なっています。

2011年3月は日本に何をもたらすのか?



タスカ氏は問いかけます。「阪神大震災が日本の優位性と全能感という神話にサヨナラを告げたのだとしたら、2011年3月のトラウマはいったい何の前兆となるのだろうか?」

そう、今回の震災も大きな社会の変化の前兆となっているのかもしれません。日本は経済は打撃を受け、首相は最低の支持率と献金スキャンダルにまみれ、株価は1985年のレベルに留まっています。しかし、とタスカ氏は日本経済の強みはそうした評価の裏側に隠されていると続け、日本企業の経営体質が強靭になってきたことなどを挙げています。そして、

「神戸の震災はボランティア運動の盛り上がりという副効用をもたらした。100万人の日本人が何らかのかたちでボランティアに参加したのだ。日本最大の暴力団組織さえ食糧を被災者たちに配給したのである。これは相互支援ネットワークの自然な発生だった」

新しいムーブメントを起こすべき時に



今回の震災でも、私たち社会の中に新しいムーブメントが生まれるのかもしれません。それはソーシャルメディアのようなものなのかもしれないし、あるいはもっと違うものかもしれない。タスカ氏はこう結んでいます。

「危機と災害は、前向きの変化への大きな起爆剤となるのだ。ニーチェは『あなたを殺せなかったものによって、あなたはさらに強くなれる』と語った。震災は決して日本を殺さないだろう。もし震災の大きな痛手にうまく対応することができれば、それは日本人の精神をさらに強靭にするだろう」

「鯰の背中を石で押さえつけてくれる鹿島の神などどこにもいないことを、日本の人々は知っている。彼ら自身がそれをやり遂げるのだ」

「日本の未来について楽観的になれる最大の理由は、これまでたくわえられてきた社会資本と、そしてそれが失われた20年を経ても生き続けていることである」

ともに頑張りましょう。


■Sympathy for Japan, and Admiration - NYTimes.com
http://t.co/6uUB2PX

■Japan is rich in resilience
http://t.co/kD1LLzP

※編集部注:本エントリは、ITジャーナリストの佐々木俊尚さんより許可をいただき、転載いたしました。

■関連リンク
ITジャーナリスト 佐々木俊尚のネット未来地図レポート

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