4月7日
重大な計算ミスがあったので、数字を大幅に修正して、記事を更新しました。
修正前より、ヤバイ数値になってます……
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前回の記事、やはり分かって頂けない方もいらっしゃったようなので、補足を書きます。
(本当は、これ以上書くとイージスについて、不安を抱きかねないので書きたくなかったのですが……)
数式的な事を書きますので、数字が苦手な方は結論だけ読んで下さい。面倒な説明ははしょります。
イージスのレーダービームは、幅1.7°です。(参照:レーダーのビーム幅とオシント)
このペンシルビームで実際に捜索するためには、図のようにビームを打ちます。
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よって、左右方向に1.5°、上下方向に1.3°毎にビームを打つことになります。
この状態で、STSSからのキューイングがなく、弾道ミサイルと対艦ミサイル双方の警戒をしなければならない場合、SPY-1レーダー1面の捜索範囲は、左右90°、上下80°(0°~80°)程度を捜索する必要性が生じます。(前回記事の図に書いたとおり、上下方向には、水平面上から若干上に捜索不要の角度が生じますが面倒なので計算上このように設定します)
すると、計算上、ビームは左右60本、上下61本、計3660本必要です。
イージスの正確な捜索範囲(距離)が不明ですが、ここでは仮に1200kmとすると、ビーム一本の電波放射を行ない、信号が帰ってくるまでの所要待ち受け時間は、光速との関係から0.008秒(PRF=125)です。
ここから、必要な捜索範囲を均一に捜索すると、所要時間は29.28秒となります。
如何に高機能なイージスと言えど、弾道ミサイル対処が必要な際には、全ての範囲をレーダービームで1回捜索するためには、30秒近くの時間が必要ということです。
実際のビーム偏向パターンは、こんな単純なモデルではありませんが、この物理的制約は、理論限界ですから、必ずついてまわるものです。
次に、この制約が、戦術環境下で如何に影響を与えるかを考えて見ます。
捜索に29.28秒必要とするということは、運が悪ければ、目標の補足は、目標が捜索可能範囲に入った後、29.28秒遅れるということです。
仮に、マッハ10の弾道ミサイルなら、この間に10km進みますから、1200kmから10km差し込まれることになります。
弾道ミサイル防衛では、10kmでも惜しいところですが、これはまだ大丈夫でしょう。
ただし、1回の捜索に30秒近く要すると言うことは、高速の弾道ミサイルの場合、その間に既にビームを打った位置に移動してしまう可能性があり、実際の発見の遅延は30秒どころか、大幅に遅れてしまう可能性があることは認識しておくべきです。(複数回の走査を行なわないと捕捉できないということ)
シースキミング可能な対艦ミサイルの場合はどうでしょう。
亜音速の超低高度飛行が可能なミサイルの場合、高度10mを飛行すると仮定すると(SPY-1の設置位置は30mと仮定)、地球の曲率の関係で、目標がレーダーの捜索範囲に入るのは、距離31kmに達した時です。
ミサイル速度を310m/secと仮定し、これから最大29.28秒遅延すると、ミサイルには9km差し込まれることになり、捕捉は22km以内となる可能性があります。
まだ対処は可能でしょうが、条件的にはかなり悪くなったと言わざるを得ません。
次に、高速対艦ミサイルの場合として、中国も保有するKh-31(YJ-91/KR-1)とSS-N-22の場合を考えて見ます。
Kh-31は、高度100mをマッハ2.7で飛行します。
イージスの捜索範囲に入るのは56km先ですが、ここから最大29.28秒遅延すると、26km差し込まれ、発見は30km以内となる可能性があります。
決定的とは言えないものの、弾道ミサイルに対する警戒をしなくて良い場合と比べれば、危険度が格段に増したと言えます。
SS-N-22は、高度20mをマッハ2.5で飛行します。
捜索範囲侵入は36km先ですが、遅延により24km差し込まれ、12km以内での発見となる可能性があります。
これは、極めて危険な数値です。
SM-2は、マニュアル(操作員による手動)では、恐らく間に合わないのではないかと思います。主砲やCIWSでの対処を余儀なくされるでしょう。
しかも、SS-N-22は終末段階で機動する能力を備えており、VLSで垂直に打ち上げられるSM-2では、最小射程距離を割られてしまう可能性も出てきますし、砲による命中確率も低下するでしょう。
以上、3つのケースに分けてみると、対艦ミサイル、特に高速対艦ミサイルに対する状況が悪化していることが分かると思います。(実際には、この状況は分かっていますから、低高度を集中的に捜索することになります。なので、ここに書いた程には危険ではないはずです)
このため、米議会調査局(CRS)の報告書では、SM-6の早期取得やレールガン等が必要とされていると考えられます。
ASBMは、もし所要の能力を満たせば、それ自体よりも、対艦ミサイルに対する対処性能を大きく低下させる可能性があるため、要注意です。
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- 2013年04月16日 01:08