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ネット選挙解禁後の課題を考える - 大谷 広太

現在、日本では、インターネットを利用した選挙運動を解禁するための公職選挙法の改正が大きな関心を集めている。

4月12日には、衆議院本会議で改正案が全会一致で可決された。今後、参議院でも可決され、今夏行われる参議院選挙では、わが国憲政史上初のインターネット選挙戦が実現する見込みだ。

公選法改正で「選挙運動」が可能に

2012年12月の衆議院議員総選挙では、主要政党の党首がインターネット討論生番組に勢ぞろいした。このことがテレビ、新聞で比較的大きく扱われたことからも分かるとおり、これまで選挙期間中の候補者の情報発信を担ってきたメディアにとって、インターネット選挙の解禁が大きな関心事であることはよく理解できる。

しかし、筆者には、インターネット上の選挙運動そのものが、そうスムースに行われていくとは思えないし、選挙結果の大勢に影響を与えるような事態にはならないのではないかと思われる。

筆者は2005年より、ニュースサイトの運営やウェブ上での言論空間の構築に携わってきた。今回は、そうした立場から、ネット選挙運動解禁後の課題について考えてみたいと思う。それには、まず、「選挙運動」と「政治活動」について考えることが必要だろう。

公選法第142条は、公示日もしくは告示日から投票日までの選挙期間中、はがきやビラ以外の「文書図画」を「選挙運動」のために頒布することを禁止している。今回の改正の要点は、これまで文書図画に当たるとして事実上禁止されてきた、インターネットを利用した選挙運動が可能になる、ということだ。政党、立候補者、一般の有権者は選挙期間中にウェブサイト(ブログ、ツイッター、フェイスブックを含む)を更新できるほか、政党と候補者は電子メールも利用できるようになる。

ここで言う選挙運動とは、「特定の候補者の当選に利する運動」と解される。すなわち、直接に投票させようとする情報発信、あるいは投票させないようにする情報発信がこれに当たる。

これまでの議論はリスク回避が中心

ネット選挙運動解禁となれば、多くの現職議員、立候補予定者にとっては、候補者陣営から有権者へ、あるいは有権者同士で、候補者への投票依頼のようなことをネットでできるようになる。逆に、ネットを利用した、これまでにない新たなネガティブ・キャンペーンや「落選運動」が展開される可能性もある。

それゆえに、改正案の国会審議では、電子メールの利用を政党と候補者以外にまで認めるかをめぐって、政党間で激しい駆け引きが繰り広げられてきた。また、匿名性の高いネット上の言論空間で、誹謗(ひぼう)中傷や「なりすまし」など、問題のある情報発信をどう抑止するかという懸念が強調されてきた。

このように、法改正に向けた過程を振り返ると、リスク回避、トラブル防止の観点で、議論が進められてきたように感じられてならない。

一方、現職議員や立候補予定者による「選挙運動」に当たらない(=投票の呼びかけではない)情報発信は、公選法上、「政治活動」と呼ばれる。筆者が調べている範囲では、現職議員で言えば、これまでにほぼ全ての議員がホームページを開設し、メールマガジンやツイッターなどを通して、自らの政治的主張や活動報告を行ってきた。その意味では、ネット選挙運動は禁止されていても、ネット政治活動は実質的に行われてきたのだ。しかし、これまでは、皆が公選法抵触のリスクを回避してきた結果、このネット政治活動さえも、選挙期間中は一切がストップしてしまっていた。

有権者が求めているのは候補者の生の声

本来、有権者にとってのネット選挙解禁のメリットは、候補者からの情報をダイレクトに受けられることだといえる。「紙幅の都合」や「番組の(時間の)尺」によって制限されない、ノーカットの主張を受け取れることが利点だ。また、ソーシャルメディアを利用すれば、有権者から、これまで以上に直接に反論や意見を吸い上げることができる双方向性も魅力だ。

そのように考えると、「ネット選挙運動解禁」時代にむしろ重要なのは、既に行われてきたネット政治活動を、選挙期間中にいかに有効に行えるようにするかだと思われる。

しかしながら、現時点で言えば、現職議員などの間でも、セキュリティーの面をどうするのかといった話題が中心で、むしろ日常的に行ってきたネット政治活動を選挙期間中にまで延長し、どのように生かすのかといった議論は、まだまだこれからという印象を受ける。

有権者は、ネットに期待する役割として、候補者本来の主張、生の声をこそ求めており、従来の選挙戦で繰り広げられてきた伝統的な選挙運動のような、宣伝カーからの名前や「お願いします」の連呼を望んでいるわけではないだろう。

このままでは、候補者も有権者も、ネット選挙のメリットを十分に享受できるとは言えないのではないか。筆者が冒頭で、次回の参院選では、大きな影響は出ないのではないか、と述べたのはそのような理由による。

情報発信ツールの特性生かした活用を

インターネットの歴史を顧みれば、これから先も、テクノロジーやデバイスの進歩によってそれまで思いもつかなかったような、便利で新しいコミュニケーションツールが次々と現れてくることは想像に難くない。そうだとすれば、現状のようなリスク・トラブル回避型、事前規制型の議論では、明確な基準を決めることは困難だろう。

ブログをはじめとした多様なソーシャルメディアなど、情報発信のための道具は十分に備わってきた。今後は、それぞれのツールの特性を生かし、現職議員や候補者は適切な情報発信を行っていくための蓄積を、有権者もまた、ネット選挙運動解禁の精神を十分に理解し、適切な行動を取ることが求められる。これらは、次回の参院選だけで十分にトレーニングされるものではないだろう。

本来、公選法の精神は、候補者が平等に選挙運動を行えるようにするところにある。今回の法改正、そして、実際の選挙期間の運用を経て、新たな課題や、法に照らして解釈、判断に困る事例はそれこそ山のように出てくると思われる。それらを事後的にどう柔軟に判断していけるか。現職議員、所管官庁、有権者それぞれが、ネットの活用に対して、あくまでも前向きの姿勢で議論を継続していくことを忘れてはならないと思う。

また、単に個々人の現職議員や候補者がインターネットを利用して情報発信するだけでなく、メディアの役割も重要になってくるだろう。ネット上の情報などを集約・整理・比較検討することで、有権者に資する取り組みがメディアには求められるようになるはずだ。次回は、そうした取り組みについて、日本のネットメディア事情を通じて考えてみたい。



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提言型ニュースサイト『BLOGOS』編集長。1981年生まれ。2005年、株式会社ライブドア(現・LINE株式会社)入社。ポータルサイト『livedoor』、『livedoor ニュース』など、ウェブメディアの運営に携わる。2009年の『BLOGOS』立ち上げを経て現職。

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