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「本当の言葉」って何なのさ

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私なぞはここでいう「卑怯な世渡り」をしてる輩の一員ということになるんだろう(世渡りは考えてるがそれを卑怯呼ばわりをされるいわれはないと思うし偉そうとかいわれるのも僻みじゃないの?とか反論したくなるけど)が、本題でないのでそれは置いといて、つまり、「本当の言葉」とは、「本心」を語った言葉ってことになるらしい。ふむ。本心か、なんて納得できるわけがないじゃん。そもそも人の「本心」、人間の「本当」の気持ちが何なのかなんてそんなに簡単にはわからないはずだ。人間の脳は自分自身だって騙す。他人はもっと騙される。

公判記録をもとに被告の「本心」を推定するのは勝手だが、彼が「本当」のことを語ってる保証がどこにあるのだろうか。あの事件では、犯行動機や背景として、当初「社会に対する若者のテロ」ってことになってったものがやがて「虐待に等しい母親の躾」の影響に注目が集まり、最終的に判決では「ネット掲示板での嫌がらせへの怒り」ってことになったわけだが、最後のものが本当であるかどうかなんてわからないし、他の要素も同様だ。どれもが「本当」ではない可能性だってある。

で、わからないなりに想像するに、この文章でいう「本当の言葉」というのは、この事件の被告は実はどうでもよくて、大澤氏自身が「本当」と判断するものを指しているのではないか。実際、この文章の末尾に、大澤氏の「決意」的なものがこう書かれている。
だが私は、君が心の底から悔しがる社会を実現するために、無数の敵と戦っていくつもりだ。自らを卑下する自虐ネタを投下し、それに入るツッコミで確認する惨めな生存ではなく、自らの本心の言葉を社会にぶつけ、それによって社会をも自分をも変えて行く、そんな生き方をめざすつもりだ。
「卑怯な世渡り」をしている(ことになるのであろう)私も「敵」の一味(まあランクはかなーり下の方なんだろうが)ということになるんだろうか。私は別に戦いたいとはまったく思ってないのだが、とにかく大澤氏は「自分の」(ここでは大澤氏自身の、ということだ)「本心の言葉」をぶつける戦いを社会に対して挑むおつもりらしい。その意味でこの事件の被告は、「バカな戦い方をして自らの死を招いた戦友」ぐらいにあたるのかもしれない。

仮にそうだとしても、じゃあその「本心」とやらは何なの?という疑問は残る。だって書いてないじゃんどこにも。いやもちろん別のところには書いてあるんだろう。著書とか読めばいいのかな?でもこの文章だってそこそこ字数あるんだから、他人の本心はともかく、少なくとも自分が自分の本心と思ってることくらい、書いてくれてもよさそうなものじゃないか。

しかたないから想像してみる。たとえば、ロスジェネっていう要素を考えて、仕事をよこせ、給料上げろみたいなのとか? あるいはもっとパーソナルに、彼女ほしい、友達ほしい、もっと遊びたい、うまいもの食べたい、いいところに住みたい、何か買いたい、かっこよくなりたい、モテたい、金持ちになりたい、みたいなのとか? あるいはもっと精神的な、もっと自分の価値を認めろ、もっと自分をほめろ、みたいなのとか? もっとダークに行くなら、老人に年金なんか払う必要ねえ、団塊の世代とかさっさと引退しろ、40代のやつとかうぜえ、金持ちの奴なんかみんな破産すればいい、リア充ばくはつしろ、丸山真男をひっぱたきたい、戦争でみんな死んじまえ、みたいなのとか?

なんか書いてて脱力してしまう。もっとちがうものなのかもしれないが、よくわからない。申し訳ないが(別に申し訳なくはないか)、わからない。少なくとも、上に書いたみたいなのが「本心」、つまり「本当の言葉」なのだとしたら、それをぶつければ「社会をも自分をも変えて行く」、なんてことができるとはとうてい思えないからだ。社会を変えたければ、社会のしくみを知る必要があるし、何より現在の社会のしくみを利用してしか、社会を変えることはできない。確か「生きさせろ」って言ってる作家さんがいたと思う。日本語としてあんまり好きじゃないんだが(だってそう言ってる時点で生きてるじゃん)、でもわかる。その作家さんが「生きさせる」ためには社会の何をどうしたらいいかについて、具体的に語っているものをさらっとだが読んだことがあるからだ。だからこそ、大澤氏も、「本当の言葉」が必要というなら、それが何なのか具体的に示してほしい(どっかでちゃんと書いてるなら申し訳ないが、紙面の1/4使うならそのくらい書いてよそれが本題でしょ?とかいいたい)。
ネット社会について考えるとは、設計や政策を云々することではない。誰もが現実よりも言葉に翻弄される世界が全面化するなかで、振るい振るわれる暴力の連鎖を、新しい思想で断ち切ることだ。
「新しい思想」はけっこうだが、社会を変えたければ「設計や政策」を抜きにすることはできない。少なくとも「新しい思想」を「設計や政策」に反映させなければ不可能だ。そもそもいつ「誰もが現実よりも言葉に翻弄される世界が全面化」したのか。むしろネット世論を含む「言葉」が圧倒的な「現実」にさしたる影響を与えられず立ちすくんでいるのが現状ではないのか。確かに、ロスジェネの苦境の背景にある世代間格差のようなものだって、それを支えているのは、体のいい制度というよりはむしろ現状維持を望む言語化されてない声なき声(つまり「本心」ということだ)みたいなものだろうと思うが、だからといって、それをそのまま表に出して、「オレたちにも金を回せ」という若年層の「本心」(おそらくだが政治の領域ではそれらはいずれも「エゴ」と呼ばれるのではないか)とぶつけあったところで問題が解決するとは思えない。

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