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地震で「働かないアリ」を思い出したので

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長谷川英祐著「働かないアリに意義がある」メディアファクトリー新書、2010年。



売れてるそうなので読んだ方も多いと思うが、社会性昆虫の研究者による一般向けの本。しばらく前に読んだのだが、地震の後ちょっと思い出すことがあったので。

アリやハチなどの真社会性生物の習性が面白いという話は比較的よく知られていると思う。中でもよく聞くのは、「働きアリの2割は働いていない」っていう話だ。で、その2割の働かないアリを群れから取り除くと、また残ったアリのうち2割が働かなくなる、といった話が続く。よく働く奴とふつうの奴と働かない奴で2:6:2だ、という話も聞いた。とはいえ、実際に目にするものは専門家じゃない人が伝聞で書いてるものが多くて、いまいちあてにしにくいな、と思っていた。(以下の文章もまさしく「専門家じゃない人」である私が本を読んで書いてる話なので、関心のある方はぜひ本書で確かめていただきたい。)

本書は、その真社会性生物の研究者によるものなので、その点はばっちりなわけだ。真社会性生物は、別に昆虫に限られない。ネズミとかエビとか粘菌とかにもそういう性質を持つものがあるらしい。この種の生物は、ふつうの生物のように自分の遺伝子を残す確率を高める戦略をとるのではなく、一部の(しばしば大多数の)個体は自らの子孫を残そうとしないし、さまざまな局面で見事な連携プレーを見せる。そうした「協力」関係がどうして発生するのか、どういうしくみで協力がなりたつのか、というあたりが研究者として面白いらしいが、もちろんこれは、素人目に見ても相当面白い。

特に、組織とか集団とかのマネジメントをふだんから考えている人にとっては、「!」を連発したくなるほどだろう。もちろんアリと人間はさまざまな面で大きくちがうわけだが、そこで働いているメカニズムには、種を超えて共通する要素がある。著者はこの点を意識して書いてくれているので、考える材料には事欠かない。

あちこち面白くて面白くて叫びたくなるくらいで、逐次挙げていくと全文丸写しになりかねないので、ブログにも書きづらかったのだが、今回の東日本大震災、というかその後に発生した状況を見ているうちに、この本のことを思い出したので、その関連で特に興味深かった点だけ書いておくことにする。

それは、この本のタイトルにもなっているが、「働かないアリ」が出てくるしくみと、そのことが集団にとって持つ意味だ。そもそも例の「2割のアリは働かない」という話だが、あれは、「約2割のアリは一生働かない」ということらしい。ある瞬間でみると、働いているのは全体の3割ほどで、残り7割は休んでいるのだ、と。アリというと働き者のイメージがあるが、私たちが見ているのは地上に出てきて働いているアリであって、巣の中には働いていないアリがもっとたくさんいるというわけだ。で、アリを個体ごとに(!)観察していくと、2割のアリは一生労働らしきことをしないまま過ごす、と。

私たちはつい「働かない」というと意欲とか機会とか、能力とか公平とか、人間の社会に引き寄せて考えてしまいがちなわけだが、アリの世界にはそんな理屈はもちろん通用しない。ある個体がある仕事をするかしないかは、ある時点での分業や協業の結果でしかない。もとより厳しい生存競争にさらされている彼らにとっては、あるやり方がその個体、そのコロニー、その種全体の生存や存続の確率を高めるかどうかだけが重要であるわけだ。もちろん、彼ら自身がそう考えているというわけではなくて、自然淘汰の結果そういう性質を持つようになったということ。つまりここで重要なのは、それが「勝ち残ったシステム」ということだ。

そして、観察していると、実際アリたちは集団の中で見事な分業と協業をしてみせるわけだが、別に誰かが司令塔になって指揮しているわけではないらしい。接触刺激とフェロモンによる最低限のコミュニケーションはあって、先を行くアリを触覚で触りながらついていったり、他のアリが残したフェロモンを道しるべにエサまでたどりついたりはするのだが、基本的には局所的に、その場その場の状況に応じて、プログラムされた習性と、小さな脳で学習した知識とに基づいて行動しているのだ、と。

で、これを成り立たせているのが個体差である、というのが、私が本書で最も面白く感じた点だ。ある刺激、ある情報に対してどのくらい敏感に反応するかは、個体によって差がある。より敏感な個体はより小さな刺激で早めに反応し、鈍感な個体はなかなか反応しない。したがって、その場でやるべき仕事が少なければ、敏感な個体だけが反応し、仕事がたくさんあれば、より鈍感な個体も含めた多くが反応する、というかたちで、作業にあたる個体の数が調整される。こういうのを「反応閾値モデル」と呼ぶらしい。

巣の中で働いていないアリは、怠けているのではなく、動作が遅いゆえに仕事にありつけないだけだ。それが続けば、一生をそうして過ごすことになるのだろう。人間だといろいろめんどくさい議論が巻き起こるところだろうが、アリは公平とか自己実現とか考えたりはしないから、働いていても、働いていなくても、幸せでも不幸でもない。

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