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ヘイトスピーチを禁止する法律について(1)

「虐殺しろ!」「レイプしろ!」「ゴキブリ!」というヘイトデモが恥も外聞もなく堂々と行われるようになってしまって世も末感がハンパない今日この頃ですが、一方でカウンターデモも行われたりして、健全な人権感覚が草の根から消えたわけではないことに少しばかり安堵もします。

このヘイトスピーチですが、人種差別撤廃条約を批准している民主主義国では処罰をもって禁ずる法律を制定している国が多いです。

日本でもヘイトデモをきっかけにヘイトスピーチ禁ずる立法を行うべきではないかという議論があります。

しかしこの立法には根強い抵抗があります。

ヘイトスピーチを処罰する法律制定に消極的なのは、本心はヘイト団体にシンパシーを抱いている日本政府だけではありません。

憲法学会の通説的立場はヘイトスピーチ処罰に反対です。

実際人権尊重に重きを置くリベラル的な人にもヘイトスピーチ処罰法に反対する人は多いです。

『戦前に表現の自由が厳しく弾圧され、「暗黒時代」と呼ばれるなか戦争に突入した反省から、表現の自由の内容規制はできる限りしない、という考えを採用してきた。

ヘイトスピーチについても、表現規制の口実にされて濫用される懸念から、慎重な姿勢を示す意見がどちらかといえば多く、そのため規制法は制定されていない』のです。

(後述の伊藤弁護士の記事より)結論から言うと、私はこの立法は行うべきだと考えています長くなりますので、これから数回に分けて、ヘイトスピーチを禁ずる立法について、私の考えを述べていきたいと思います。

[続きをよむ]の中に参考になるエントリ-のリンクを張りましたので、そちらもご覧下さい。

(『』でくくった文章はそこから引用しています)

Ⅰ.国際法では差別禁止を定めています。

国際自由権規約(市民的政治的権利に関する国際規約)、マイノリティ権利宣言、人種差別撤廃条約は差別の禁止を宣言しています。

そして、単に禁止を謳うだけにとどまらず、国際自由権規約第20条2項は「差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する」とし、人種差別撤廃条約4条(a)(b)は差別煽動を犯罪として処罰することを定めています。

即ち、処罰を課すことにより差別の禁止を実効性あるものにしなさいといっているわけです。

同条約4条

(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。


日本は人種差別撤廃条約を批准しながらも差別を刑事処罰すべきと言うこの4条(a)(b)は留保し、ヘイトスピーチを犯罪として処罰する法律を制定していません なので新大久保や鶴橋のようなヘイトデモが野放しになっているのです。

Ⅱ.どうして日本は4条a、bを留保し、ヘイトスピーチをを犯罪として処罰する法律を定めないのでしょうか

政府は、日本には差別禁止法を作らねばならないような差別は存在しないから批准の必要は無い、などとおよそ現実と真逆のすっとぼけたことを言っていますがこれはひとまず置いといて、憲法学会の主流の考え方を記したいと思います。

基本的人権といえど無制限で認められるわけではありません(無制限で認められるのは内心の自由くらいではないでしょうか)言論の自由と言えども無制限ではありません。

よく知られるように、個人に対し差別的言辞を吐けば名誉毀損罪または侮辱罪ですし、個人に対し「殺してやる!」と言えば脅迫罪です。

これらの言辞は個人の名誉感情や社会的地位(名誉毀損罪)、意思決定の自由や私生活の平穏(脅迫罪)という個人の法益(人権)を侵害します。

このように言論の自由という人権が他の人権と衝突するとき,言論の自由も一定の制限を受けることがあります。

これがいわゆる人権の内在的制約(公共の福祉による人権の制限)です。

これは言論の自由に内在するものであって、不当な侵害ではありません。

名誉毀損罪によって名誉毀損の言論を禁止することは憲法21条違反にはならないのです。

名誉毀損的言辞、脅迫的言辞などの差別的言辞が個人に対してではなく人種や民族などの特定の集団(その集団はまずマイノリティである)に対して行われれば、人種差別、民族差別のヘイトスピーチです(以下、単に「ヘイトスピーチ」と言います) 個人に対しての名誉毀損、脅迫的言辞は処罰対象なのに、何故特定の人種や民族に対しての名誉毀損、脅迫的言辞は処罰対象にすべきではないと考えるのでしょうか。

その理由として以下の二つがあげられると思います。

①個人に対する名誉毀損行為なら個人の名誉感情や社会的地位という法益が侵害されるのは明白。

しかし特定の人種、民族という集団に対する名誉毀損的言辞は、その集団に所属する個々人全員の名誉感情や社会的地位を傷つけるとは必ずしも言えない。

また、「○○(個人名)を殺せ!」ではなく「朝鮮人を殺せ!」だけでは直ちに自分の身の危険を感じるとは言い難い。

人権侵害される被害者の幅もハッキリしなければ、法益が侵害されたとしても、それは薄く広く漠然としたものにすぎない。

『このような集団を傷つける言論は、特定の個人を傷つける場合と比べて、傷つけられた側の傷が、より深くないものとなる。

したがって、そのような言論は、表現の自由の重要性にかんがみ、原則として、その自由が憲法上保障される、と考えるべきであろう。

』(こちらより内野正幸氏の論)②どのような表現が罰すべき差別に当たるか明確に規定できないから、罪刑法定主義(憲法31条)から導かれる「明確性の原則」に反し、表現行為の萎縮を招く。

以上の理由から、ヘイトスピーチを法で禁ずるのは憲法21条、憲法31条に反する、というのが主流の考え方です。

人種差別撤廃条約日本報告書は以下のように述べています。

『「我が国憲法は第二一条第一項において、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障している。

表現の自由は、個人の人格的尊厳そのものにかかわる人権であるとともに、国民の政治参加の不可欠の前提をなす権利であり、基本的人権の中でも重要な人権である。

かかる表現の自由の重要性から、我が国憲法上、表現行為等の制約に当たっては過度に広範な制約は認められず、他人の基本的人権との相互調整を図る場合であっても、その制約の必要性、合理性が厳しく要求される。

特に最も峻厳な制裁である罰則によって表現行為等を制約する場合には、この原則はより一層厳格に適用される。

また、我が国憲法第三一条は、罪刑法定主義の一内容として、刑罰法規の規定は、処罰される行為及び刑罰について、できるだけ具体的であり、かつ、その意味するところが明瞭でなければならないことを要請している。

 本条約第四条(a)及び(b)は、人種的優越又は憎悪に基づく思想の流布や人種差別の扇動等を処罰することを締約国に求めているが、我が国では、これらのうち、憲法と両立する範囲において、一定の行為を処罰することが可能であり、その限度において、同条の求める義務を履行している。

しかし、同条の定める概念は、様々な場面における様々な態様の行為を含む非常に広いものが含まれる可能性があり、それらすべてにつき現行法制を越える刑罰法規をもって規制することは、上記のとおり、表現の自由その他憲法の規定する保障と抵触するおそれがある。』

自由権規約日本報告書では

『法務省の人権擁護機関は、これまでも、いわゆる差別落書きや差別投書といった差別表現の流布や個人又は団体を誹謗中傷し、そのプライバシーを侵害するような行為については、これを看過することのできない問題としてとらえ、様々な機会を通じて人権尊重思想の啓発に努めるなど、その解消のため積極的に取り組んできたところであり、そのような事案を認知した場合には、行為者の特定に努め、行為者が判明すれば、その者に対して指導・啓発するなどして、人権侵害による被害の救済及び予防を図っている』

ヘイトスピーチは社会的に許されるべきものではないことはもちろんです。

しかしそれは法により処罰するのではなく、人権感覚を向上させ、ヘイトスピーチに対する社会的な批判を高めることで解決を図るべきというのが憲法学会の通説的立場と言えるでしょう。

ヘイトスピーチに対する根本的な対処はこういう社会的な取り組みだと私も思います。

しかし法による処罰規制はすべきでないという見解には私は賛成できません。

それについては(2)で述べたいと思います。

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