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産経新聞『正論』:民の情熱を再犯防止に生かせ

【正論】日本財団会長・笹川陽平
民の情熱を再犯防止に生かせ

2013年4月5日
産経新聞 東京朝刊

犯罪白書によると、2011年、一般刑法犯で検挙された人のうち43・8%を再犯者が占め、別の調査では「全犯罪の58%が再犯者の犯行」との結果も出た。3年前から再犯防止や少年院の在り方について有識者を交えた研究などに取り組んでいるが、これほど難しい問題は滅多にない。

 政府も2006年から元受刑者の総合的就労支援対策に乗り出しているが、ここ7年間、刑法犯全体は減少傾向にあるのに、再犯者が占める割合は逆に上昇し続け、実効は上がっていない。

 

≪初の数値目標「20%減」≫


 このため昨年7月には犯罪対策閣僚会議が新たに「再犯防止に向けた総合対策」をまとめ、10年後の再犯を20%以上減らす初の数値目標を打ち出した。課題は「居場所」と「出番」の創出。官民一体で刑務所や少年院を出た後の住居や職の確保を進める、としているが、簡単な話ではない。

 そんな中、「民」の中に新しい動きが出てきた。お好み焼きチェーン「千房」など関西の企業7社が立ち上げた「職親(しょくしん)プロジェクト」がそのひとつ。受刑者に各企業の担当者が面接、合意すれば半年間の就労体験の場を提供し、更生に向けた強い意志があれば正規雇用の道も用意する。

 もうひとつは関東と九州の4団体が参加する「農業を活用した再犯防止プロジェクト」。過疎化で増え続ける耕作放棄地を活用し、土に触れ収穫の喜びを実感することで出所者らの更生を図る。

 職親プロジェクトの先頭に立つのは千房の中井政嗣社長だ。3年前から元受刑者らに職場と社員寮を提供し、社会復帰を支援してきた。「国が総合対策をまとめたからといって、うまく行くほど生易しい問題ではない。彼らの親代わりとなって面倒を見る志がなければ再犯は防げない」と言う。

 中井氏の言葉に6社が賛同し、プロジェクトにも「職親」の名が付けられた。今後5年間に計100人の受け入れを計画しており、日本財団も自立支援金として1人月8万円を半年間、提供する。

リンク先を見る
「職親(しょくしん)」プロジェクト調印式

 

≪動き出した復帰支援事業≫


 一方の農業を活用した再犯防止プロジェクト。4団体のひとつ熊本県の有限会社「ファームきくち」では、地域社会のリーダーでもある保護司が8年前から耕作放棄地を借り受け古代米などの生産に取り組み、少年院出院者らの指導に当たってきた。花栽培の責任者を任されるまでに立ち直った青年は「日々、植物が育つのを見ていると、自分の中の何かが確実に変わるのを実感する」と語る。

 両プロジェクトとも、あらかじめ企業名や団体名を公表する一方で、本人にも昔の仲間との接触を断ち、可能な限り前歴をオープンにするよう求めている。その分、本人の自覚と覚悟が高まり、職場や地域社会の受け入れもスムーズに進むとの考えだ。

 11年、一般刑法犯で検挙された再犯者は13万3700人。出所後5年以内に刑務所に戻る率は初犯が24・4%、2度目が45・9%、3度目以上は59・6%に跳ね上がる。無職の出所者の再犯率は有職者の5倍に達し、犯罪歴が増し高齢になるほど居場所はなくなる。
 服役を終わっても罪を犯した事実は消えず、世間の目も厳しい。法務総合研究所が06年に行った調査では、親族など受け入れ先がなかった満期釈放者は7200人、うち65歳以上の釈放者の半数以上が2年以内に再犯で刑務所に戻っている。

 

≪再チャレンジ可能な社会を≫


 職親プロジェクトの発足を受け谷垣禎一法相は「企業の方と受刑者の面談を矯正施設内で実施していただくことを含め、可能な限り協力する」と語った。まずは木工やクリーニングなど伝統的な科目中心の職業訓練を時代に合わせて見直し、刑務所内に企業の窓口担当者を置き、受刑者向けの企業情報を増やす必要がある。共有する情報量が増えれば、法人・個人を合わせ約1万に上る協力雇用主の活性化にも役立つ。

 長期的には農業プロジェクトの生産物を職親プロジェクト参加企業が安定的に買い取るようなネットワーク、全国の支援団体の活動拠点となるプラットフォームの建設なども必要となろう。過疎と後継者不足から今や耕作放棄地が埼玉県とほぼ同じ40万ヘクタールにも上る農村の再生にもつながる。

 これまでの犯罪者対策は、罪の償いに重点が置かれた。出所後の更生は保護司ら民間協力者に対する依存度が高く、行政としての目配りや気配りが希薄だった。官民一体による再犯防止対策の強化を目指す以上、まず法務省が刑務所の垣根を低くし血の通った行政に転換する必要がある。

 志のある民間企業家の力こそ問題解決の決め手となる。出所が近い受刑者が刑務所担当官を交え直接、企業担当者と就職相談するような方法も検討されていい。2月の本欄で犯罪被害者対策の手薄さを指摘したが、そうした努力が犯罪被害を減らし、「世界一安全な国 日本」の復活、さらには安倍晋三首相が言う「再チャレンジ可能な社会の構築」につながる。
(ささかわ ようへい)

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