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Webメディアは、ネット選挙運動解禁をポジティブなものにするために多くの”提案”をすべき~SYNODOS編集長・荻上チキ氏インタビュー前編~

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シノドスの編集長で、批評家の荻上チキ氏
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2012年1月から、様々な分野の識者にインタビューしてきた本企画「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。最終回となる今回はSYNODOSの編集長である荻上チキ氏に、ネット選挙解禁後を見据えた今後のWeb論壇について聞きました。後編を読む(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

ネット選挙運動が解禁によって、政治そのものが成熟するわけではない


―今回は、SYNODOSの編集長である荻上チキさんに、「これからのWeb論壇について」というテーマでお話を聞いていきたいと思います。

荻上チキ氏(以下、荻上):非常に大きなテーマですね(笑)。 最終回なので、ちょっとゆるくいきましょう。

―次回の参議院選挙ではネット選挙運動が解禁される予定ですし、5月にはThe Huffington Postの日本版がローンチされるということで、これから益々Web上での言論活動というのは盛り上がっていくと思います。ただ、一方でまだまだ現実社会との隔絶があるように思います。荻上さんは、ネットと政治の関係について、どのように現状を見ていますか?

荻上:僕自身がブログなどを始めた2003~04年頃と比較すると、インターネットの利用率はもちろん、その影響力も変化していると思います。ネットで政治記事を読む機会も増えましたし、ネット上での様々な政治参加の形が、良くも悪くもインパクトを持つというケースを、この国もたくさん経験して来ました。

ネット社会は現実の延長線上にあります。「バーチャル/リアル」と単純に区別できるものではありません。「ネットで起きた現象が、オフラインに対して影響を与えることもある」という一方的な関係として捉えるのは表面的過ぎます。

例えばネット選挙運動が解禁になったとしても、「解禁になった」ことをもってして、政治自体が成熟するわけではない。参加形式が変わっても、自然と内容がそれに伴うようにはなりません。個別の論点ごとに、議論を加速していく必要があることは、今までと変わりません。

ネット選挙運動解禁について、気になる言い回しがあります。「政治が身近になることで、若者の選挙離れにも効果が出るのではないか」というものです。この点について、本当に効果が見込めるということを証明するデータに僕は出会ったことがありませんが、問題は別にあります。その言説が、「議論の質」をどう確保しようとしているのか、見えにくいということです。

例えば質の面では、「デマも中傷も、ネットの自浄作用によって淘汰される」というようなことを言う人もいます。俯瞰して、そう言えるようなケースを見つけることはできるでしょう。でも、「自浄作用」と呼ばれているものは勝手に起こるわけではなくて、誰かがコツコツ応答することが前提で、そういうことが起きない場合も多い。「自浄作用」なるもの言葉は、単に表面上のカスケード現象が収まったことを指すばかりでで、オンラインでは見えない傷のケアまで含まない場合がほとんどです。応答の活動をせず、自浄作用ばかり強調する人は、ちょっと信用できません。

また、「身近になる」という表現は、当事者意識を持って参加するという意味にもとれる一方で、「政治参加の敷居を下げる」という表現と結びつくこともあります。後者の発露がどのようになるかは重要です。どこかで、「コピペ・ポリティクス」とでも呼べばいいのか、「ワンフレーズ・ポリティクス」のネット版のようなものに応答することが意識されなくてはならないと思います。

―そうした状況の中でネットメディアはどのような役割を果たすべきでしょうか?

荻上:僕個人は、ネット選挙運動の解禁は賛成です。知る権利を今以上に確保するためですが、「期待」を大きく抱いているわけではありません。

ネット選挙運動が解禁されれば、デマや誹謗中傷など様々なデメリットも出てくる。問題が起こりません、ということは絶対に言えない。だからと言ってネット選挙はダメなのかと言うと、そうでもない。

何人かの政治家の方に、ネット選挙解禁について聞いてみました。中には、結構口ごもってしまう方もいます。「自分たちにどんなメリットがあるのかよく分からない」というのが理由でした。特に地方の議員の場合だと、あまりに効果が見えなすぎて、本当にピンときていない。

炎上なども起こるだろう。誹謗中傷や流言も広がるので、その対応などの仕事が増える。2週間の選挙期間に、そうした誹謗中傷にいかに上手く対応できるのかと言えば自信がないし、そもそもネットをやってない議員も結構多い。

議員がこういう調子だと、「Twitterとかでバズれば、票がドッカンドッカンですよー」とか、まあそこまでアホみたいな選挙コンサルがいるかはともかく、残念なネット選挙コンサルみたいなケースも見られるかもしれません。ウォッチする分には楽しく、あの人とかあの人とかがどういじるのかとかをワクテカできたりするかもしれませんが、とにかく当事者にとっては結構悲惨なシナリオもありえる。

ただ、政治家のそうした言い分とはまた別に、有権者側の見方はまた変わります。駅前で選挙演説をやられたとしても、サラリーマンであれば1日に1~2回演説を少し聞くチャンスがあるかどうか、といったレベルです。それすらない人もいますし、講演会などにもなかなか行けない人も多い。自分の手元に来るマニフェストも、すべての政党のものがきちんと届くわけではなく、A党は来たけどB党のは来てない、といった状態になりがちです。地域や配るスタッフによって情報収集もバラバラだったりするわけですよね。

このように政治参加に使えるリソースの格差が、投票行動にダイレクトに影響するという現状がある以上、ネットによってチャンネルを増やすということが、知る権利を満たすための1つの方策であるというのは間違いない。ネットを使えない人はどうするんだ、という議論もあるでしょうが、「それはそれ、これはこれ」で、そうした人向けのものはまた別に増やす、でいいでしょう。

といっても、「有権者にとって便利だから」だけで、候補者の負担はどうでもいいんだ、というわけにもいかないですね。候補者の議論などがグタグダになったとしても、それは結局、まわりまわって有権者に損が回ってきたりもしますから。

想定されるネガティブなケースなどに、具体的にどこまで対処策をつくっていけるか。僕は自分のメディアで、争点や流言などには応答していくでしょうが、他にどれだけ多くのポジティブな事例を積み重ねられるかが、結局は鍵になるように思います。

―やってみた結果として、「やっぱり誹謗中傷ばかりじゃないか」となってしまわないように「これだけポジティブな影響があったよね」という話ができるようにしなければいけないということですね。具体的には、どのような方策があると思いますか?

荻上:分厚い応援層が可視化されにくい状態の中では、どうしてもネガティブなリストを可視化しようという動きが目立つという事態は避け難い部分があるかと思います。そんな中でも、方策というのは大まかに2つ路線があると思っています。

1つはコンテンツ型。記事を読ませて議論の論点をより多く共有させつつ、議員たちがどう考えているのか、ということを理解させる記事。あるいは専門家たちにそれを解説させるなどのオピニオン記事ですね。

もう一つはプラットフォーム型です。場所や仕組みを提供してコミュニケーションを促す。津田さんの「ゼゼヒヒ」はこの一例ですよね。ちょっと違いますが、ボートマッチングもこっちかな。選挙結果の速報などをwebサイト上でリアルタイムで表示したり、ビジュアルとして見えやすくすることで参加を容易にしたりするのもありますね。

ポジティブな例と言っておきながら恐縮なのですが(笑)、あえてするネガキャンの可視化も必要かもしれません。例えば各地で配られたアジビラや流言などを、ネガティブなキャンペーンのケースとして共有したり。

「対立候補Aは●●と言って、Bは××と言っていますが、我々こそが■■です」といったビラはよく配られているわけです。こういうものをアーカイブ化していくことで、相対化するチャンスを得ることができる。ネガティブを可視化することで、ポジティブな話に繋げることもできると思うんです。もちろん、特定の政党のネガティブ事例ばかりが偏って投稿されることによって、バイアスがかかってしまうということは避けがたい難点としてもあります。

コンテンツ型については、取材に人材と資金力などが必要になってくるので、本当は誰もができるわけでもない。ネットメディアの多くは、取材に行ける人材育成という側面では、大手メディア、既存の新聞・雑誌にかなり遅れをとっていて、正直質がまだまだ低い。

SYNODOSはコンテンツ型なので、専門家を発掘して、寄稿をお願いしたり、当事者にインタビューをしたりという作業の連続です。選挙期間中も、例えば特別コンテンツを多めに出すとか、各論点ごとにピンポイントで掘り下げるような仕方で政治家にインタビューを行うなど、様々なやり方で動こうとは思っていますが、選挙運動解禁があっても、それ自体は大きくは変わらない。もちろん津田さんなど、いろんなプレイヤーが動こうと準備していますから、今後はいろんな提案合戦になると思いますけどね。

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