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国民国家とメディアとは表裏一体の共犯関係であり続けてきた〜BBC訪問記

ロンドンBBCを訪問させて貰う機会があったので、これからしばらくBBCを取り上げつつ、メディアと国民国家の関係性について考えてみたい。

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MEDIA MAKERSでも繰り返し書いた、私の持論であるが、メディアと実世界とは表裏一体である。
メディア業や金融業のことを「虚業」という人もいるが、そんな人は何も分かっていない。虚業と実業は常にワンセットなのだ。昼があれば夜があるように、陸があれば、海があるように・・・。

金融資本家を排除したはずの、共産主義のご本家たる旧ソ連にも国営だが「銀行」はあった。およそマトモな近代国民国家で、運営や所有の形態は別にして、「銀行」のない国家は存在していない。同じように、通信社や新聞社のようなメディア組織が存在しない近代的な国民国家というものは全く考えられない。

「言論・報道の自由」を政府が尊重しているとは思えない中国にも、新華社通信があり、旧ソ連にもタス通信があった。そして、これらの国営通信社から配信されてくる記事や報道内容は、そのまま、それらの国家の意志に基づいた「公式発表」に準ずるものと思われていた。また、太平洋戦争下の、いわゆる大政翼賛体制では、朝日新聞や読売新聞など、多くの新聞が「大本営発表」をそのまま垂れ流し、戦意高揚のプロパガンダの中心にもなった。

つまり、通信社や新聞社、テレビ局のようなニュースメディアと国民国家とは、常に表裏一体の存在であり続けてきたのだ。

この辺りの議論は、ナショナリズムの起源を解き明かした古典的な名著と言われるベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」に詳しい。

彼の議論によれば、「国民」とはイメージとして心の中に描かれる「想像の共同体」なのだ。そして、国民国家とは、会ったことすらない人々と自分との関係を、血縁関係や友人関係のような具体的な人と人とのつながりとしてありありと想像する能力に裏打ちされて成り立つものである。

例えば、尖閣諸島近辺で、中国公船と、海上保安庁が小競り合いの銃撃戦を展開したうえで、不幸にも海保の職員が命を落としたと仮定しよう。そのときに殉職した海保の職員のことを、日本国民の大多数が、別に会ったこともない、自分とは縁もゆかりもない人物だから、「そんなの関係ねえ」と思うようでは、国民国家としての日本は立ち行かない。

「想像の共同体」の住民同士の関係性は、太古からの村落共同体や、専制王国の住民が持つ共同意識とは大きく違う。上記のような事件がある場合に、その海保職員と自分が遠い親戚だ、とか、実家が近くて同郷だ、とか、同じお寺の檀家だ、とか、同じ高校の卒業生で先輩・後輩だ、とかいうような血縁や地縁や宗教といった媒介を全く抜きにしても、その死に対して「憤れる」「憤れてしまえる」ということこそが国民国家を「想像の共同体」として成立させるための条件なのだろう。そして、このある意味では奇妙な連帯感を成立させる鍵として、マスメディアや出版、国民文学や国民作家が存在してきた。

例えば、標準化された言語による出版物の発行と流通がなければ、同じ言語を用いる人々がその言語圏に「所属」するという共通認識は生まれ得ない。具体的に言えば「日本人」が用いる言葉から最大公約数を取り出して標準化し、現代の「日本語」が出来たのではない。まず先に出版なり、メディア上で流通するために人工的に標準化された日本語が規定され、それを流布し、慣れ親しませることによって事後的に「日本人」が生まれたというのが、ベネディクト・アンダーソンの主張だ。

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想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (ネットワークの社会科学シリーズ) [単行本]

BBCはイギリス国王の特許状に基いた独占的な国策会社として設立されてきた公共事業体である。

その意味では、イギリスという国民国家と、BBCという組織とは切っても切れない一心同体の縁であるはずだ。ところが、メディアの興亡について戦争報道という国民国家の存亡に関わる非常事態においてでさえ、BBCの歴史は少しツイストした展開を見せてきたのだ。

例えば、第二次大戦中には、正確な戦況報道で英国民のみならずドイツ軍兵士の家族にとっても必聴のラジオ局であったようである。

ドイツ国民やドイツの支配下にある国にいた国民がBBCを聞くことは違法だった。しかし実際には、こっそりと聞いていたのである。

BBC海外放送がドイツ兵の戦争捕虜の名前を放送するようになり、1943年以降、捕虜となったドイツ兵の家族へのメッセージを毎晩放送した。あるドイツ兵の家族は兵士がなくなったものと思い、教会でのミサを予定した。後にBBCの放送で兵士が生きていることを知ったものの、ミサを中止すれば違法の放送を聞いていたことになるので、ミサは予定通り開催された。


教会に到着してみると、他の参列者がおらず、家族は驚いてしまった。

誰もがBBCの放送を聞いていたのだった。

小林恭子さん著:英国メディア史 (中公選書) 198Pより引用


そして、イギリスとアルゼンチンが戦争状態に突入したフォークランド紛争においても、BBCラジオのマネージング・ディレクターは

 「英軍の士気を高めたり、英国民を国旗の周りに呼び集めるのはBBCの任務ではない。」

「英ポーツマスの未亡人と、ブエノスアイレスの未亡人との間に違いはない」


とスピーチの中で述べ、「国家に対する裏切り」だと好戦的で愛国的な大衆紙や保守系の議員からの激しい非難を浴びたそうだ。このように、一風変わった「公共放送」であるBBCについて、これからしばらく書いていきたいと思う。

世界の経済はグローバルに、今や一つになろうとしている。 そういった「実態」に対して、銀行への規制や、メディア報道のあり方といったものがうまく付いていけてないのではないだろうか。そういった矛盾が「キプロス危機」を巡る欧州のすったもんだ、「尖閣」「竹島」を巡る日中、日韓のゴタゴタ。そして、新大久保や鶴橋でのいわゆる「在特会」の民族差別などを引き起こす遠因となっているのではないだろうか、というのが私の見立てだ。

そして、BBCについて知るうえで、21世紀のグローバル時代におけるメディアのあり方、について皆さんの考えるきっかけとなればと思う。では、週一くらいのペースで数回に渡り書いていこう。

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