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莫大な投資を受けたアイデアを捨て、転換を図るマーケットプレイス「Zaarly」

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2011年5月にロンチされ、1520万ドル(約14億4400万円)の投資の獲得に成功した米国のマーケットプレイス型ECサイト「Zaarly」。しかし、TechCrunchの3月9月付けの記事は、その投資金を集めるもとになったアイデアを捨て、新しいモデルへの転換を図っていると報じている。

Zaarlyには、俳優のアシュトン・カッチャーも早期に投資をしており、当時、彼の夫人だったデミ・ムーアがZaarlyのアイデアを「素晴らしい」と絶賛。フォロワーに向けてZaarlyに登録するよう勧めるツイートをしたことも知られている。

ベータ版のお披露目後は、わずか48時間で1万ドル分(約95万円)の取引が行われるという盛況ぶりで、「マーケットプレイスの次の覇者」になるだろうとも予想されていた。

著名な投資家やセレブから応援され、華々しいスタートを切っていたZaarlyに一体、何が起きたのだろうか?

モバイルを中心とした「逆Craigslistモデル」

Zaarlyを説明するときによく使われるのが、「逆Craigslistモデル」という言葉だ。

Craigslist」は地域情報を満載したコミュニティサイトで、米国で膨大な利用者数をほこる。様々な情報が掲載されているが、「中古のベビーベッドを30ドルで売ります」といったように、売り手側から商品やサービスを提示する投稿がおおい。

Zaarlyはこのパターンを逆にして、「中古のベビーベッドを30ドル以下で買います」というように、買い手側から購入の条件を提示する形式を採用した。

それだけならばデミ・ムーアも絶賛しなかっただろうが、Zaarlyが斬新と評価されたのは、専用のモバイルアプリを使って、買い手がリアルタイムでサービスや物品をリクエストできるようにした点にあった。

たとえば、以下の画面の例では「レストラン『Spago』に4名分のテーブルを確保してほしい。報酬は100ドル(約9500円)。このオファーは20分後まで有効」というリクエストを投稿しようとしている。

リクエストに答えるのはZaarlyではない。Zaarlyのアプリを使っていて、リクエストされた内容を遂行できる状態にある人でさえあれば、誰でもこのリクエストに返信して、売り手に立候補できる。

もしもスターバックスでコーヒーを飲んでいるときに、その近所にいるZaarlyのユーザーから「スターバックスのコーヒーを買って、我が家まで届けてほしい。報酬は10ドル」というリクエストが投稿されたら、その投稿に返信して小遣いを稼ぐチャンスだ。

Zaarlyは売り手と買い手との間で取引が成立し、金銭の受け渡しが起きた場合に手数料を徴収する。

買い手は何でも欲しいものを欲しいときに自分の希望する額で手に入れることができてハッピー。売り手は自分の都合のよいときに応えられる依頼にだけ応えて収入を得られるのでラッキー。

さらに近所に住みながら、それまで知らなかった者同士が知り合いになれ、地域の絆も深まる。「良いことづくめ」とZaarlyは宣伝していた。

逆Craigslistモデルの問題点

しかし現実に照らして考えると、上のシナリオにはかなりの無理がある。

本家Craigslistでも、広告を掲載したことや広告に応えたことが原因で殺人を含む、犯罪の被害にあうケースが発生し、報道もされている。

身元の分からない他人にいきなり自宅や仕事場への配達を頼む人が、Zaarlyがサービスエリアとしている米国の都市部に大勢いるとは想像しにくい。

レストランの座席確保ならば、自宅に招き入れるわけではないので、それほど警戒する必要はないかもしれない。しかしリクエストを引き受けてくれた相手が本当に責任をもって座席を確保してくれるという保証もないので、僕なら頼まない。

一方、頼まれる側はどうだろうか?

と、考えて「アキバ発トイレ男」の話を思い出した。ヨドバシカメラ秋葉原店3階のトイレの個室を利用した男性が、利用後にトイレットペーパーがないことに気づいて「助けて紙がない!」とTwitterに投稿し、そのツイートを見た人たちの協力で無事20分後に男性のもとにトイレットペーパーが届いたというエピソードだ。

Twitterが現実に役に立った事例として海外にも紹介された

何の報酬もなくても、見知らぬ他人のSOSに救援の手を差し伸べる人たちがいるのだから、報酬つきでのオファーならば、アプリの利用者がいる地域でさえあれば、引き受け手がたくさん現れそうな気がしなくもない。

ガジェット情報を発信するYouTubeの『Gadget Girl』という動画チャンネルでは、2011年9月の番組で「クリスピークリームドーナツ1ダースを公園に届けてほしい。報酬は20ドル」というオファーをZaarlyに投稿して反応があるかを試す実験を行っている。

このオファーに対して最初の返信がついたのは1時間以上が経過した後だった。しかも約束した相手からドーナツが届くまでにはさらに1時間近くを要した。

これでは、報酬を出して届けてもらう意味はない。

このリクエストに対する反応が鈍かったのは、上記のトイレットペーパーの件とは違って、「暑い日に公園でドーナツを1ダース食べたい」というリクエストを「いたずら」と受け取る人が多かったのではないだろうか。依頼を受けて、ドーナツを1ダース購入して公園に出かけたら、依頼者がいなかったでは馬鹿を見てしまう。

さらに、この場合、「20ドルの謝礼」が適正な価格なのかどうかという問題もある。

デューク大学のダン・アリエリー教授(行動経済学)は「Money Changes Everything」という講演で、おおくの人は困っている他人を助けるために金銭的な見返りはなくても喜んで手を貸すが、手を貸そうとした相手から「小額の金銭」を謝礼としてオファーされると、助けようというモチベーションが下がるという実験結果を報告している。

例えば、「車のタイヤを変えるのを手伝ってくれないか?」と誰かに依頼するときに、最後に「手伝ってくれたら、5ドルあげる」と付け加えると、無償で手伝おうとしていた相手は侮辱されたと感じて「結構です。私は5ドルなどでは働かない」という反応になるという。

高額の謝礼ならば喜ばれるが、小額ではかえって失礼というわけだ。

つまり、面識のない他人にいきなり用事を依頼して、真剣に取り組んでもらおうと思ったら、それなりの価格を設定しなければならないということだ。いくら「買い手の方で自由に価格をつけられる」と言っても、そこには自然と限度がある。

Zaarlyからほぼ半年遅れてスタートした「Exec」も、社外の契約者を使ってリアルタイムでの用事代行サービスを提供しているが、契約者の身元を確認している点と、価格を1時間25ドルに固定している点がZaarlyとは異なる。

利用者の視点から考えると、本当に必要な用事を頼む場合、どんな引き受け手になるかも、引き受け手が現れるかさえも分からないZaarlyよりも、確実に引き受けてもらえるExecの方が安心できる。

Zaarlyの販売契約の成約率は最終的には10~20%に落ち込んだというが、Execなどの競合サイトの登場もおそらく影響しているだろう。

サービスを軌道修正

Zaarlyは昨年9月に、サイトに「Storefronts」という新しいマーケットプレイスをロンチし、評判の良い売り手を選んで出店させるという路線に軌道を修正し始めた。

このマーケットプレイスでは、上のように、出店者の名前と顔写真と商品が表示されるほか、ポジティブなレビューの数とファンの数、Zaarlyに出店するにいたるまでの経緯(ストーリー)を知ることができる。

この軌道修正の理由について、Zaarlyは「(以前の)買い手の方から価格を指定して買いたいものをリクエストする形態は、欲しいものが明確に分かっていて、自分で価格を指定することを苦にしないユーザーには歓迎されたが、そういうユーザーは期待していたほどいなかった」と説明している

「逆Craigslistモデルでは、顧客の側から何でもリクエストできる代わりに、リクエストした品物が本当にあるのかどうかわからない。水の中がまったく見えない、真っ黒な池で釣りをするようなものだった。結局、顧客は魚がいることが確実な別の場所に移動してしまった」とも語っている。

どんな商品があるかが分からなければ、顧客の購買意欲を刺激する効果も発揮できない。

現在は、商品の画像を示して、何が手に入る場所なのか分かるようにすると同時に、各商品を注文した経験のある顧客からのレビューも表示されるようにしている。

レビューのほとんどには、投稿者の名前と顔写真も付いているので、「最高に素晴らしかった!」「誰にでもお薦めできる」といった賞賛の言葉にも説得力がある。

この軌道修正以降、販売契約の成約率は90%まであがったという。

今年2月21日のブログで、Zaarlyは「逆Craigslistの廃止」を発表し、今後は上記の路線に集中すると宣言した。店や商品のプロモーションだけでなく、出店者がもつストーリーも積極的に伝えていくことで、彼らのビジネスの成長をサポートしていく計画だ。

顧客に「安心感」を与えることの大切さ

Zaarlyが巨額の投資金を集められたのは、プレゼンテーションを見た時点で「これは斬新なアイデアだ」と感心した人が大勢いたということだ。

しかし現実に適用した場合に、斬新なアイデアが必ずしも成功するとは限らない。

現在のZaarlyのマーケットプレイスには、あっと驚くような斬新さは感じられないが、顧客により安心感を与えられる設計になっている。Zaarlyが当初から掲げていた「頑張っている人、才能のある人を地域の住民で応援して育てていき、コミュニティの絆を強める」というコンセプトにもより合致している。

ただし、投資金に見合うだけの利益を出せるマーケットプレイスに成長するまでにはしばらく時間がかかりそうだ。

Zaarlyの事例からは、eコマースでは常に発展と進化が求められるが、目先の新しさを闇雲に追い求めるのではなく、人間の深層心理に配慮した変化を心がけなければならないという教訓を得られる。人間の感情はアプリの開発と同じ速度では進化しないのだ。

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