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「量」は十分だったが、「質」が不十分だった日銀総裁就任記者会見 ~ 日陰の身になった前総裁の数少ない功績

「分かりにくくなっている」

日銀の黒田東彦総裁は21日の就任記者会見で、白川前総裁の下で日銀が導入した資産買入等基金の枠組みについてこのような認識を示し、「(日銀の)バランスシートの負債と資産でどういう方向に向けようとしているのか、端的に分かるような金融政策運営が市場との対話強化の意味で重要だ」と語った。

資産買入等基金の枠組みを「分かりにくい」と評した黒田総裁の就任記者会見の内容は、主張は分かり易かったものの、記者からの質問をはぐらかしたり、回答を省略(失念)したりと、非常に「分かりにくい」ものであった。

黒田日銀総裁は「分かりにくい」と評してるが、日銀はホームページ上で毎月バランスシートと「資産買入等の基金の内訳」を公表しており、「分かりにくい」という批判そのものが、何を根拠にしているのか「分かりにくい」もの。黒田新総裁が、資産買入等基金の枠組みや、その情報公開方法がどのように分かりやすく変えていくのか、興味深いところ。

「量的、質的両面から大胆な金融緩和を進める」

金融政策に関する黒田総裁の主張はこの一文に集約されていた。しかし、金融緩和の「質」が何なのかについては明快な説明が加えられることは、最後までなかった。明確にされなかった「質」が、聞き手の「咽喉に刺さった小骨」のように残ってしまったことで、会見全体がストレスを感じさせるものとなってしまった。会見の印象は、「時間(量)」は約1時間45分と十分であったが、「質」はイマイチだったといったところ。

「質」の定義は不明なので、どのようにして「質」の向上に繋がるかは定かではないが、明らかなことは、「買い入れ対象国債の長期化」や「REITを含めた金融資産の購入」を念頭に置いているということ。

この「買い入れ対象国債の長期化」と「REITを含めた金融資産の購入」は、「質」の違いはともかく、「性質の違う政策」ということは出来る。

買い入れ対象となる国債の残存年数の長短に関わらず、国債の買い入れは「金融システム内への資金供給」であるのに対して、REITやETFの購入は、資金を「金融システム外」の民間に直接資金を供給するものだからである。「金融システム外」に資金を供給すれば、供給した資金が日銀の当座預金に還流し「ブタ積み」される可能性はかなり低下するはずである。しかし、「金融システム外」に供給できる資金量には限界があり、この部分を大胆に増やすことは現実的に困難である。

白川前日銀総裁は、供給する資金量の基準を自国のGDPに固執したことで、他国比較での自国通貨の相対的資金供給量を少ない状態を放置し、通貨高を招いてしまった。この点において、白川前総裁は「円高のA級戦犯」である。だが、そんな白川前総裁も、一つだけ結果を残している。それは、資産買入等基金でREITを購入したことである。

REITは税法上の問題から、利益の90%超を配当に回す必要があるため、利益が外部流出し、内部留保が出来ない構造になっている。また、公募商品で元本の安全性を保つためにLTV(Loan to Value:不動産の資産価値に対する借入の比率)を低めに維持する必要に迫られている。最近でこそJ-REITのLTVは平均して50%程度まで上昇して来ているが、リーマンショック以前は、不動産私募ファンドのLTVが70%前後だったのに対して、J-REITのLTVは概ね40%台に抑えられていた。

J-REITは不動産投資で得た利益を分配しなくてはならないため、新たな物件を購入するには、公募増資をするか、借入を起こして資金を調達しなくてはならない。しかし、LTVを必要以上に高めることは出来ないため、公募増資を中心に据えざるを得ず、株価低迷局面では、割安で購入できる物件があったとしても資金調達がボトルネックとなって新規投資が困難になるという悪循環に陥りやすい。

こうした状況を断ち切るために行われたのが、日銀によるJ-REITの購入である。2010年12月以降2013年2月までに、日銀はJ-REITを市場で1,160億円ほど購入している。この期間にREIT市場での実施されたエクイティファイナンスは1兆300億円であるから、日銀が市場でのエクイティファイナンスの10%強を支えた格好となっている。もちろん、日銀が直接公募増資に応じたわけではなく、日銀が市場でJ-REITを購入することで株価が上昇し、エクイティファイナンスが出来る環境整備に一役買ったということ。

黒田日銀総裁が就任会見に臨んだ21日、公示地価が発表され、地価に底入れの兆しが出て来たこと、都市部では上昇する地点がお幅に増えたことが報じられた。これは、日銀の後押しを受けた株価上昇によりJ-REIT市場の資金調達機能が復活し、それによって新規投資を行えるようになった効果によるものであり、アベノミクスで日陰の身となった白川前総裁の数少ない功績である。

後任の黒田日銀総裁に「分かりにくい」と批判された同日に、白川前日銀総裁の資産買入等基金による「分かりやすい効果」が報じられたというのも、何とも皮肉な巡り合わせである。22日付日本経済新聞(14版)は、黒田日銀総裁の就任記者会見と、公示地価の記事が並んで1面を飾っている。

「分かりにくい」記者会見のなかで、気に掛かったことは、岩田日銀副総裁の「2%の物価目標を2年程度で達成できない場合、『説明責任を果たせないならば、最高の責任の取り方は辞任だ』と述べた」こと。

副総裁の覚悟のほどは十分に伝わって来たが、「2%の物価目標を2年程度で達成できない場合」の次の一手は何なのだろうか。中央銀行の「大胆な金融緩和」がオールマイティであるかの如き主張を繰り返している総裁と副総裁に率いられた日銀が結果を出せなかった場合、金融を引き締める「デフレ下の金融引締め」に転じることになるのだろうか。

長年、量的緩和が経済や物価に好影響を及ぼすことを研究して来た日銀副総裁は、量的緩和が期待通りの効果を生まなかった場合の次の一手も研究されているのだろうか。もし、まだ研究されていないのであれば、副総裁には辞任する前までに、「大胆な金融緩和」が効かなかった場合の次の一手を是非研究しておいて頂きたいものである。

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