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期待される役割が変化して来ている黒田日銀 ~「2年以内」に達成すべき目標は、「2%の物価目標」ではなく、「経済格差拡大期の短縮化」である

2%の物価上昇率目標の実現に向け、黒田東彦新総裁率いる日銀の新体制が20日発足した。黒田総裁は2年での目標達成を公言するが、民間エコノミストの間では経済成長を高めに見ても5年近くかかるとの見方が多い。どうかじ取りし、険しい道のりが予想される『2年で2%』を実現に導くのか。市場は新総裁の手腕を注視している」

漠然とした不安を感じさせる黒田日銀が正式に発足した。黒田日銀が正式スタートしたことで、世の中の関心は「2年で2%」というインフレ目標を実現出来るかに集まっている。

今の日本経済において、「デフレを止める」ことと、「2%のインフレ目標」ということは、本来同列に論じられるものではない。「2%のインフレ目標」は、経済が平時の状態であれば当然であるが、1998年度から2011年度まで既に14年間デフレが続いている今の日本で取るべき政策かについてはもっと議論があって然るべきである。

デフレの大きな要因である円高を止めるために、日銀による「大胆な金融緩和」が必要だという意見には全面的に賛成である。しかし、「大胆な金融緩和」で無理矢理インフレを起こすという発想は、「次元の違う」別のもの。まず「大胆な金融緩和」でデフレの大きな要因の一つである「円高」を止め、「機動的な財政政策」と「成長戦略」で景気を浮揚させ「2%の物価上昇」を実現する、というのが本筋のはずである。

皮肉なことだが、安倍政権の誕生によって、白川体制下で金融市場が既に円安・株高に転じたことで、白川日銀を批判し続けてきた黒田日銀の役割は、円安を起こす「レジーム変化」を起こすことではなく、今の好環境を維持することで、「機動的な財政政策」や「成長戦略」の効果を高めたり、痛みを抑えたりすることに変って来ている。求められる役割が、「レジーム変化」から「レジーム維持」に変化して来ていることを黒田日銀がわきまえられるのか、それとも、金融市場で「黒田効果」を出すことを目的に、「2%の物価目標」に猪突猛進するのかは要注目である。

議論が、黒田日銀が「2年以内に2%の物価上昇を達成出来るか」に向かってしまい、今の日本で「2年以内に2%の物価上昇を達成することが正しい目標なのか」という根本的な議論が一切なされていないところは極めて「日本的」。

「単に物価が上がるだけなら、円安や原油高などでも起こる。08年には原油価格が急上昇し、失業率が4%のまま物価上昇率は2%を超えた。だが景気は良くならず物価だけが上がるのでは、生活は苦しくなり、本末転倒だ」

21日付日本経済新聞は、珍しくまっとうな指摘をしている。しかし、「長期国債の購入額や買い入れ対象を積極的に拡大し、『量的にも質的にも大胆な金融緩和策』を進める姿勢を打ち出す方針」で、「景気は良くならず物価だけ上がる」という「本末転倒」な結果をもたらさないか否かに関しては何の言及もしていないところが、らしいところ。

「包括緩和では、購入する国債の満期までの残存期間を3年以内に限定している。これを『5年以内』などに伸ばす」ことで、「景気回復を伴う物価上昇」という経済状況を実現できるという「経済論理」はどこにあるのだろうか。

直近の債券市場で、残存3年の国債の利回りは0.08%前後、残存5年の国債の利回りは0.12%前後であり、利回り格差は僅か0.04%程度である。購入対象とする国債の残存期間を3年から5年に延ばすことで、5年債の利回りを下げることは可能だろうが、僅か0.04%程度の利回り格差を埋めることで「インフレ期待」が醸成され、しかも「景気回復を伴う物価上昇」を達成出来るという論理は飛躍があり過ぎる。

金利水準が極めて低い水準にあることから、金利低下による景気浮揚効果は限定的である。一方、大規模な資金供給は、確実に為替市場での円高圧力を弱めて行くことになる。政策効果が実体経済に及ぶまでの時間に比べると、金融市場に影響が表れるのは段違いに早い。黒田日銀が「大胆な金融緩和」で大量の資金を市場に供給した場合の影響は、金融市場に先に現れ、「景気動向に関係なく円安が進む」という、今のような状況がしばらく続く可能性を高めるもの。

こうした状況は、その他の政策の投資効率の上昇や、そのコストを引く下げる効果を発揮する反面、既に資産を持っている国民にはさらなる資産拡大の機会を与え、現状資産もフローの収入も限定的である国民には物価上昇のよる実質購買力の低下に対するさらなる我慢を強いる、「経済格差の拡大」を招くものでもある。

安倍内閣や黒田日銀が「2年以内」に解決しなくてはならない問題は、「2%の物価上昇を実現する」ことではなく、「経済格差拡大期」を出来るだけ短縮し、「経済格差」を解消して行くことである。

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