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リピトールからヒュミラへー売上高ランキング主役交代の時

ひと月ほど前の話ではありますが、製薬業界の現状を象徴する記事を紹介します。

 

リンク先を見る12年世界のブロックバスター 売上トップに抗体医薬の抗リウマチ薬ヒュミラ ミクス調べリンク先を見る

 ミクス編集部は、2月7日までに発表された欧米のグローバル製薬企業の2012年通期業績から、世界の製品売上トップ10製品をまとめた。売上トップは抗リウマチ薬ヒュミラ(アボット、現アッヴィ)で、低分子医薬品に代わって初めて抗体医薬品がトップとなった。抗体医薬はランキングトップ10製品中に5製品がランクインしており、抗体医薬が企業業績に大きく寄与し、存在感が増していることも確認された。


低分子医薬品(低分子薬)とは、有機合成によってつくられる化合物を主成分とした薬です。また、抗体医薬品とは、体外からの異物を選択的に認識する働きをもつタンパク質「抗体」を主成分とする薬です。遺伝子組み換え技術を用いてつくられることから「生物学的製剤」ともよばれています。

 

20世紀においては、医薬品売上高の上位を示す薬のほとんどは低分子医薬品でした。ところが、21世紀になり、抗体医薬品が続々と市場に登場し、売上高が増加し続けています。そして、ついに売上高トップの座が低分子医薬品から抗体医薬品に交代するところまで来たというわけです。

そして、おととしまで売上高トップを維持してきた薬はどうなったかというと、、

前年まで世界売上トップだった高脂血症治療薬リピトール(ファイザー)は、11年11月の特許切れによって12年売上が前年から約56億ドル消滅して39億4800万ドルまで縮小し、売上ランキングでも10位圏外となった。


トップの座から、10位圏外へと滑り落ちてしまいました。リピトール(主成分 アドルバスタチン)は、血液中のコレステロール量を減らす作用を持つ薬で、「スタチン」と呼ばれる種類の化合物です。スタチンは、コレステロール低下による心疾患・脳血管障害の発生リスク低下が期待され、世界中で広く使用されています。

 

記事中に、特許切れによる売上が縮小、とありますが、これは特許が切れたことでより安価なジェネリック医薬品が登場し、(特にアメリカにおいて)リピトールからジェネリックへの乗り換えが起こった、ということを意味しています。海外、特に米国では、保険制度の関係上、ジェネリック医薬品が発売されると、ジェネリック医薬品への処方の移行がすみやかに起こります。

リピトールの売上高は劇的に減少しましたが、アドルバスタチンとしての処方数(リピトールと、そのジェネリック医薬品の処方数の合計)は、おそらく変化していないと思われます。もしかすると、ジェネリック医薬品の登場により、アドルバスタチンとしての処方数は、却って増えているかもしれません。これは、同じような効果を持つ薬剤(ジェネリックが出ていない他のスタチン)からの乗り換えも起こる可能性があるからです。リピトールがこれまで売上高トップの座を維持できた理由の一つは、非常に多くの患者で効果と安全性が実証されてきたという事実です。リピトールのジェネリック医薬品は、高い性能かつ低薬価という医療経済的にも非常に優れた薬であり、今後も広く使われると考えられます。

 

一方、抗体医薬品の躍進についてはこんな感じです。売上高トップ10中、半分の5製品が抗体医薬品で占められるという状況となっています。

 

ランキングトップ10製品のうち低分子薬はアドエア、第6位の高脂血症治療薬クレストール(アストラゼネカ)、第9位の2型糖尿病治療薬ジャヌビア/ジャヌメット(メルク)、第10位の抗うつ薬サインバルタ(イーライリリー)――の4製品。(中略) 一方、バイオ医薬品6製品中に抗体医薬は、ヒュミラ、リツキサン、第5位の抗がん剤ハーセプチン(ロシュ)、第7位の抗がん剤アバスチン(ロシュ)、第8位の抗リウマチ薬レミケード(J&J)――の5製品がランクインした。


 

抗体医薬品には、高い売上高を得やすい要因が幾つかあります。

 

まず、非常に薬価が高いという特性です。抗体医薬品は、効果を1ヶ月から2ヶ月間維持させるために、遺伝子組み換えタンパク質を大量に使用します。そのため、大量のタンパク質製造のために非常に高額のコストがかかり、抗体医薬品の高薬価、ひいては高い売上高につながります。

 

また、抗体医薬品には新規ターゲット分子を狙う「画期的新薬」が作りやすい、という特徴もあります。これまでにないメカニズムを有する医薬品は、市場からの期待・評価が高く、発売と同時に多くの処方が得られ、高い売上高につながります。

 

この「画期的新薬」が作りやすい、という特徴について、もう少し述べてみます。

 

低分子医薬品では、有機化学の技術をフルに使って数多くの化合物を合成し、生物学の知識と技術を活かして、効率よくかつ隠れた毒性も見逃さないように化合物の生物活性を評価し、分析化学の技術を用いて、薬の体内動態を把握し使いやすい薬を目指します。これらの過程では、最終的な化合物を得るために数千化合物の合成が必要で、しかも、最終的な化合物にたどり着く確率は高くはありません。

 

一方、抗体医薬品は、病気に関連するタンパク質(ただし血液内もしくは細胞表面に存在する必要がありますが)がわかっていれば、そのタンパク質に対する抗体を作成すればよい、という点で、非常に作りやすい方法論といえます。これは、特定のタンパク質の働きだけを抑える作用を持つ「抗体」を使うからこそ可能な方法論です。

 

例えば、リウマチなどの免疫関連疾患では、サイトカインとよばれる複数のタンパク質が関与するのですが、それぞれのサイトカインについて抗体を作成し、医薬品を作成することが可能です。今回紹介した売上げトップ10に含まれるヒュミラ、リツキサン、レミケードは、TNFαやIL-6と呼ばれるサイトカイン(またはその受容体)に対する抗体です。この方法論では、新しいサイトカインが発見されれば、「まずはそれに対する抗体を作ってみよう」という素早いアプローチが可能です。

 

また、抗体医薬品では、大量の抗体を注射によって体内に投与することで、1ヶ月から2ヶ月に1度の注射で十分効果を示す薬を作ることが可能です。リウマチなどの慢性疾患では、長期間に渡る薬剤の服用が必要になるので、「1ヶ月から2ヶ月に1度の注射」という選択肢は、使い勝手がよい場合が多いのです。

 

というわけで、医薬品開発の世界では「面白い分子が見つかったら、まずは作りやすく、売上高も期待できる抗体医薬で開発したい」という考え方が台頭しそうな状況です。製薬会社の開発品リストを見ると、抗体医薬品がズラリと並んでいます。これから市場に出る新薬では、抗体医薬品の比率がどんどん増えていきそうです。

 

もちろん、低分子医薬品でないと開発が難しいタイプの薬もあります。例えば、飲み薬(抗体はタンパク質なので消化管で吸収される)、短時間だけ作用させる薬(抗体は体内から消えにくい)、即効性が望まれる薬(「飲んですぐ効く」は難しい)、脳に作用する薬(抗体はタンパク質なので脳に入りにくい)、抗ウイルス剤(標的が細胞内にある)のような薬です。また、複数の抗体医薬品を併用することは難しい(注射薬)ので、抗体医薬品と併用する薬剤としては、低分子医薬品の存在が必要です。

 

「低分子医薬品と抗体医薬品のどちらがいい?」という見方ではなく、それぞれの得意な分野をきちんと把握し、患者さんが望んでいる薬を開発していくことが大事だと思います。

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