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家族で考える高齢者介護の原点(その一) - 外岡立人

 小児科医を約三十年間務めた筆者は今、高齢者医療の場に足を踏み入れている。

 そこでみる光景はあまりにも小児科医療とかけ離れたものである。  多くの疑問がわき起こっているが、その疑問の原点を見いだすべく、高齢者介護の現場に視点をおき、”生きる”高齢者に対する社会の役割と責任について考えてみたい。

 自問すべく多くのことがある。

 なぜ高齢者は介護を受けなければならないのか。  まじめに考えてみたことがあるだろうか。

 さらに介護を受ける高齢者の多くはなぜ施設へ入所、または病院へ入院するのだろうか。  考えてみたことがあるだろうか。

 社会に存在する高齢者の社会的役割は何なのだろうか。  高齢者はすでに社会に対する役割がないのだろうか。  考えてみたことがあるだろうか。

 高齢者を社会の中で隔離してしまう、または隔離してしまわなければならない現代社会。  その社会はいったい誰のために存在するのだろうか。  たぶん、考えたことはあまりない。

 心身の障害が起き出した高齢者が自動的に、介護という社会的保護を受けだし、しかし同時に社会の中から隔離されだす。  この光景に気づいていただろうか。

 高齢者の介護は全て各論からなりたっているように思える。  ”人としての高齢者”を見つめないで、今、高齢者に対してすべきことだけが考えられ、それだけが実行されている。  それが介護の現状のような気がする。

 そこでは高齢者自身の意見や思いを取り込むことなしに、生きるために必要なサポートを、周辺が書き出して機械的に行っているように思われる。

 サポートを受けることで、高齢者が幸せな日々を送れるようになるのかは、誰も考えていない現実があるような気がする。

 高齢者が生きるということは、赤ちゃんが生きるということと、どこか違っているのだろうか。  赤ちゃんの幸せは考える社会。  しかし高齢者に対しては、幸せを考えるよりも、合理的サポートを機械的に行おうとする社会。

 評論家の米沢慧は、赤ちゃんを”往きのいのち”のはじまりに位置すると評し、高齢者は”還りのいのち”の過程に存在するとして、往きと還りの”いのち”を同次元でとらえている。  なぜ今日の社会では”往きのいのち”は歓迎され、”還りのいのち”は差別視されるのだろうか。

 しかしよく考えてみると、我々自身も、ともすると日々各論の中で生きているように感じられる。  生きるということ、命があるということ、社会があるということ…。  その意義を考えることはあまりない。  全て具体化された各論、すなわち日々なすべきことだけを考えている。

 今、私たちの生き方も原点から見つめ直すことで、高齢者の介護の原点も見えてくるような気がする。  現在の高齢者問題は、まさしく原点を見失った各論で埋め尽くされているように思われる。

 本シリーズでは全てが各論で語られている高齢者の介護の視点を、原点からとらえるために、生まれ出てくる”赤ちゃん”から高齢者までの中に存在する、”生きる”ということの意味を考え、家族全体、そして社会全体で高齢の人々の介護について考える場を提供することを目的としたい。

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外岡立人(医学ジャーナリスト、医学博士)

[参考文献] 米沢慧,還りのいのちを支える-老親を介護、看取り、見送るということ,主婦の友社,2002年.

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