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政治家と学歴についてちょっと思ったこと

少し前に、小谷野敦の『天皇制批判の常識』(洋泉社(新書y)、2010)を読んでいたら、こんなことが書いてあって、笑ってしまった。

私はよく「学歴差別」をすると言われるのだが、〔中略〕学歴というのは能力であり、能力によって人が違う扱いを受けるのは当然のことである。そう言えば、東大を出ていたってバカはいるだろう、と言われるだろう。もちろん、いる。現実に何人も知っている。しかし、成蹊大卒の安倍晋三や、学習院大卒の麻生太郎の、ぶざまな総理ぶりを見たら、やはり学歴は目安になる、と思うだろう。
 〔中略〕高度経済成長以前なら、頭がいいのに家が貧しくて大学へ行けなかった、ないしは十分な勉強の余裕がなくて二流大学へ行けなかった〔ママ。二流大学へ「しか」行けなかったの意か〕、というようなこともあるだろうし、それはむろん勘案している。しかし安倍や麻生は、東大卒の政治家の息子や総理大臣の孫であり、そんな家に生まれて成蹊大や学習院大では、そりゃ頭が悪かったんだろうと思うしかないではないか。もちろん二人とも、私のこの予想には見事に応えてくれた。そして東大卒、スタンフォード大博士号の鳩山由紀夫は、国連で英語でちゃんと演説している。(p.180-181)


 そりゃあ確かに学歴はある種の能力の指標だろう。一般論としては、高学歴者はいわゆる頭が良い(頭の回転が早い、飲み込みが早い)ということになるだろう。
 しかし、いくら英語で演説ができたって(できないよりはできるにこしたことはないだろうが)、政治家としてダメなものはダメなのである。
 数年前まで、私は戦後歴代首相のワーストは芦田均だと思っていたが、今は何といっても鳩山由紀夫である。

 本書の奥付に記載されている発行月は2010年2月。原稿はまだ鳩山由起夫内閣の失態がそれほど露呈していない時期に書かれたのだろうし、今となっては小谷野もこんなことは言うまい。
 それにしても、鳩山由紀夫、邦夫兄弟の体たらく(邦夫は東大法学部卒。自民党下野後の2010年3月に、与謝野馨、舛添要一ら自民党離党者の「坂本龍馬をやりたい」として離党したが、彼らの糾合などできないまま無所属で過ごし、自民党が政権を奪回した後の昨年12月に復党を認められた。1990年代にも自民党の下野直前に離党し、新進党を経て由紀夫と共に旧民主党を結成し、現民主党の結成にも加わったが、やがて離党し、2000年に自民党に復党)は、頭が良いからといって必ずしも良い政治家とは限らないことを示しているのではないか。

 そもそも政治家の学歴はそれほど高いのか。また高学歴の政治家が優秀な政治家であったか。
 確かに東大卒の首相はたくさんいるが、あれは官僚出身だからだろう。高級官僚から代議士に転身するコースは戦前からあった。東大は高級官僚を養成するために設けられたのだから、多いのは当然だ。官僚出身でない、党人派の政治家には、東大卒はそれほどいなかったはずだ。
 ちょっと戦後の歴代首相の学歴を確認してみた(皇族の東久邇宮稔彦王は除く。明記しない限り中退は除く。また便宜のため当時と現在とで呼称が異なる場合は現在の大学・学部名で示した)。

 ○幣原喜重郎 東京大学法学部
 ○吉田茂   東京大学法学部
  片山哲   東京大学法学部 弁護士
 ○芦田均   東京大学法学部
■ 鳩山一郎  東京大学法学部 弁護士
  石橋湛山  早稲田大学
 ○岸信介   東京大学法学部
 ○池田勇人  京都大学法学部
 ○佐藤栄作  東京大学法学部
  田中角栄  中央工学校(専門学校)
  三木武夫  明治大学法学部
 ○福田赳夫  東京大学法学部
 ○大平正芳  一橋大学商学部
  鈴木善幸  農林省水産講習所(現東京海洋大学)
 ○中曽根康弘 東京大学法学部
  竹下登   早稲田大学商学部
  宇野宗佑  旧制神戸商業大学(現神戸大学)中退(学徒出陣、シベリア抑留による)
  海部俊樹  早稲田大学第二法学部
 ○宮沢喜一  東京大学法学部
  細川護煕  上智大学法学部 旧大名家
■ 羽田孜   成城大学経済学部
  村山富市  明治大学専門部政治経済科(専門学校に相当)
■ 橋本龍太郎 慶応大学法学部
■ 小渕恵三  早稲田大学第一文学部、同大学院政治学研究科
  森喜朗   早稲田大学第二商学部
■ 小泉純一郎 慶応大学経済学部
■ 安倍晋三  成蹊大学法学部
■ 福田康夫  早稲田大学第一政治経済学部
  麻生太郎  学習院大学政経学部
  鳩山由紀夫 東京大学工学部、スタンフォード大学大学院博士課程
  菅直人   東京工業大学理学部
  野田佳彦  早稲田大学政治経済学部

 ○は官僚出身。■は世襲議員(父から直接地盤を継承)。

 1960年代までは東大法学部出身者が多い。これは、官僚出身者が多いからだろう。当時のトップエリートはそうした層だったのだろう。
 しかし、やがて他大学出身者が増えてゆき、宮沢喜一を最後に東大法学部出身の首相はいない。
 また、東大の出身者も、宮沢の後は鳩山由紀夫だけしかいない。
 そういう点では、「よく「学歴差別」をすると言われる」小谷野にとって、鳩山は、久々に登場した東大卒の首相として、期待を寄せられる存在であったのかもしれない。

 そして、上記の東大卒の首相が、首相として、あるいは政治家として優秀であったか、非東大卒、中でもそうレベルが高くない学校卒の首相が、首相として、あるいは政治家として劣っていたかとなると、そういうわけでもないように思う。

 また、首相経験者や派閥領袖の2世、3世だからといっても、必ずしも派閥領袖や首相になれるというわけでもない。
 それを考えると、安倍晋三や麻生太郎は政治家としてそれなりに有能だったと言えるのではないだろうか。
 小谷野が言う意味で「頭が悪かった」とはそのとおりなのかもしれないが、そういう頭の良さだけで政治をするのではないからな。

 ついでに、最初の本格的な政党内閣とされる原敬内閣以後の戦前・戦中の首相の学歴も参考までに掲げておく(原敬より前は藩閥内閣の時代であり、学歴を云々しても意味がないので省略)。
 ▽は軍人出身。

 ○原敬    司法省法学校(のち東京大学法学部に統合)退校
 ○高橋是清  ヘボン塾(のち明治学院大学に発展)
 ▽加藤友三郎 海軍大学校
 ○山本権兵衛 海軍兵学校
 ○清浦奎吾  咸宜園(広瀬淡窓が現大分県日田市に開いた私塾)
 ○加藤高明  東京大学法学部
 ○若槻礼次郎 東京大学法学部
 ▽田中義一  陸軍大学校 陸軍大将から政党政治家へ転身
 ○浜口雄幸  東京大学法学部
  犬養毅   慶応大学中退
 ▽斎藤実   海軍兵学校
 ▽岡田啓介  海軍兵学校
 ○広田弘毅  東京大学法学部
 ▽林銑十郎  陸軍大学校
 ○平沼騏一郎 東京大学法学部
  近衛文麿  京都大学法学部 五摂家
 ▽阿部信行  陸軍大学校
 ▽米内光政  海軍大学校
 ▽東條英機  陸軍大学校
 ▽小磯國昭  陸軍大学校
 ▽鈴木貫太郎 海軍大学校

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