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ここまで改善した薬物問題|薬物情勢の報告書2

昨日発表された『平成24年中の薬物・銃器情勢』を通じて、わが国の薬物問題の現況を考えてみたいと思います。
この資料は、全国の警察で薬物犯罪の取締りにあたっている部門が、年間の活動報告として発表しているもので、薬物問題を犯罪取締りの観点からまとめた報告書です。わが国では、ほかに厚労省が随時まとめる資料や、薬物密輸の取締りに当たる税関(財務省)や海上保安庁などによる報告書も公表されています。
なお、警察で薬物事件の取締りにあたっているのは、主に組織犯罪対策部の銃器薬物対策課ですが、少年による薬物事件は少年課が、また脱法ドラッグ販売などの取締りは生活安全課が担当しています。
[参照]
警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成24年中の薬物・銃器情勢(確定値)』 http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h24_yakujyuu_jousei.pdf

●覚せい剤に下げ止まり現象

覚せい剤、大麻、麻薬などの規制薬物に関して、近年では、安定した状況が続くなかで、検挙人数は緩やかな減少を続けています。2012年に全国の警察が、薬物事犯として検挙したのは13,466 人でした。
・覚せい剤事犯・・11,577人
・大麻事犯・・・・・・ 1,603人
・麻薬事犯・・・・・・  280人
薬物別でみると覚せい剤事犯が全検挙者の86.0%を占め、現在のわが国では、薬物問題は覚せい剤に集約されていると言うことができます。

リンク先を見る
↑薬物事犯検挙人員の推移
『平成24年中の薬物・銃器情勢(確定値)』のデータに基づいて筆者が作成

覚せい剤事犯の検挙数は、緩やかに減少し続けていますが、この数年では「下げ止まり」とも言うべき現象がみられるようになりました。2001年ころから急速に減少してきた検挙者数が、近年では減少ペースが衰えて、ほぼ横ばいの趨勢となっているのです。

そもそも、2001年ころから始まった急速な減少には、明確な理由がありました。1990年代の終わりころから、青少年を中心に覚せい剤乱用が拡大したのが第三次覚せい剤乱用期ですが、その乱用拡大をもたらしたのは、北朝鮮や中国などから大量に流入した安価な覚せい剤でした。しかし、最大の流入ルートとなっていた洋上取引で大型摘発が続き、また北朝鮮ルートへの警戒を強化するなど密輸ルートの遮断が功を奏して、2001(平成13)年ころから急速にわが国に流入する覚せい剤が減少し、末端での密売価格の高騰と品薄によって、覚せい剤乱用者が減り始めたのです。第三次乱用期のピーク1997(平成9)年では、覚せい剤事犯の検挙者がほぼ2万人に達していたものが、2004(平成16)年には約12,000人にまで減少しました。
ところが、その後の状況は「下げ止まり」の壁に阻まれて、一進一退を繰り返しています。年間12,000人前後の検挙者と、その背後にいる数倍の暗数・・・、高値にもかかわらず覚せい剤を買い続けるコアな乱用者を減らすのが、次の目標です。
コアな乱用者とはどんな人たちか、次回でさらに考えてみたいと思います。

●改善のめざましい少年の薬物問題

さて、この辺で少し明るい話題にも触れておきましょう。わが国の薬物乱用状況は、近年では全体的に安定していますが、とくに若年層での検挙者の減少ぶりにはめざましいものが感じられます。
下のグラフは、最近10年の薬物乱用少年の検挙数の推移を表したものですが、その鮮やかな減少ぶりには、思わず元気が湧いてくるようです。かつて多くの少年をむしばんでいたシンナー乱用問題が大きく改善したことで、こんなに急カーブで事態が好転しています。
2012年では、薬物乱用少年として検挙・補導されたのは、
・覚せい剤乱用少年・・148人
・大麻乱用少年・・・・・・ 66人
・麻薬乱用少年・・・・・・ 7人
・シンナー乱用少年・・・74人

リンク先を見る
↑薬物乱用少年の推移
『平成24年中の薬物・銃器情勢(確定値)』のデータに基づいて筆者が作成

とはいえ、少年たちが薬物問題から完全に卒業してくれたと安心するのは、まだ早いかもしれません。最近、少年の身辺に脱法ドラッグが忍び寄っている事例に、しばしば出会います。そういえば、2012年中に東京都内で脱法ドラッグとみられる薬物を吸引して救急搬送された219人中に、26人の少年が含まれていたといいます(毎日新聞 3月5日(火)15時1分配信)。少年たちの覚せい剤・シンナー離れの裏で、密かに脱法ドラッグへの接近が進んでいることが危惧されます。

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