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なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

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3月9日に投票が行われた韓国大統領選挙で、尹錫悦氏が当選し5月に次期大統領に就任する。近年、歴史認識問題や元徴用工の訴訟問題などで溝があった日韓関係は今度どうなっていくのか。韓国政治の専門家であり、2022年に入り『韓国愛憎』と『誤解しないための日韓関係講義』の2冊の書籍を発表した神戸大学大学院教授の木村幹氏に話を聞いた。

昔の韓国はこうじゃなかったと思いたい感情

ー1月に『韓国愛憎』、3月に『誤解しないための日韓関係講義』が発行されました。前者は個人史として木村先生が見てきた韓国について、後者はデータを用い日韓関係について平易に解説されています。

『韓国愛憎』は版元の中央公論が提案してくれたアイデアで、僕本人としては55歳の人間の自叙伝に需要があるわけがないと考えていたんですけど、僕が見たこと感じたことを中心に書かれています。だから「間違えました」ということも多く出てきますよね。

もう一冊の『誤解しないための日韓関係講義』はデータやグラフを使って日韓関係について解説した内容で、講義の形でわかりやすくまとめました。この二冊に共通しているのは、できるだけわかりやすく書くこと、特に若い人にわかってほしいと考えながら書いたことです。

ーわかりやすく書く。

そう。日本社会はほとんど変わらないから、実感としてわかりにくいかもしれないけど、韓国にしろ他の国にしろ、どんどん変わっているんですよ、ということを伝えたいと思って。「僕らが若い頃は社会がどんどん変わっていた」と年配の人には説明するんですが、韓国の人たちはまだその段階にいると思うと日本人にとっても、わかりやすいですよね。

『韓国愛憎』は、僕が生まれた頃のことから書いています。高度成長期って今の日本の若い人には全く分からないと思うんですけど、そういう時代の話を書くことで、日本にもこんな風に生活がどんどん良くなっていく時代があったことが伝わります。あと、直接は書いてませんが、「これが今の中国や韓国の現実ですよ」という説明の材料になるようにしています。時代をずらして日本社会にもそういう時代があったと示すことで、韓国は変な社会ではなく、彼らは彼らなりの理屈がある、ということを当たり前に説明しようという工夫はありました。

ーこれまで、メディアなどで色々なコメントを求められてきたと思いますが、日本人の見たい韓国の姿というのは変わってきたと思いますか?

基本的にはあまり変わってないかな。家族じゃないけど、韓国には日本と同じようであってほしい、というのはすごく強いですよね。「韓国の裁判所はおかしい」「あの判断はおかしい」、と言う人は多いですけど、同じことを中国やサウジアラビア、ロシアに対しては言わないでしょう。

でも韓国に対してはおかしいと思う。日本と韓国は国が違うんですから、当然違う。だけど、韓国に対しては、何かしら同じであるはずだっていう思い込みとか期待とかがあるっていうのは、あまり変わってない。親子の比喩で僕がよく言うのは、親が「昔はこうじゃなかった」「お前は変わってしまった」っていうのは、昔親の言うことを聞いていたイメージがあるから、本来こうだって思ってるわけですよね。

でも自分が大きくなって、親は年だから「しっかりしてくれ」と思うこともある。それを伝えると親からするとかつて自分の言うことを聞いていた記憶があって、それが本来の姿だと思ってるから、「お前はこんなやつじゃなかった」みたいに言う。こういう距離感が日韓関係なんだろうなと思います。

ー親子の例えは『誤解しないための日韓関係講義』にも出てきますね。

韓国も変わることによってチャレンジできる国になっている。それをうまいこと日本側が受け止められていないのかなと。一方、『誤解しないための日韓関係講義』の最後は韓国の高齢化の話で締めているのは「この後同じ時代がくるよ」というメッセージなんです。

ステレオタイプが見えにくくする韓国のリアルな姿

ー『関係講義』では、繰り返し、ステレオタイプにとらわれていると今の韓国の正しい姿が見えないと繰り返し言われていますが、一方で韓国に対する日本人の見方が変わってきたと感じることはありますか?

基準をどこに取るかによるんですけど、コロナ禍以降で感じた変化があります。輸出管理措置の発動の頃までは、多くの人がどこかで「日本の力で韓国を変えさせることができる」と思っていたようでしたが、この認識が見事になくなったと思います。「韓国はほっとけばいいじゃないか」という声が目立つようになりましたが、これは自分たちでは韓国が変えられないということの裏返しとも言えます。

ステレオタイプであることは同じなんだけど、自分の力で変えようとすることに失敗した、というか。

ー同書では、現在では日本より韓国の方が一人当たりGDPといった指標で上にいる点にも触れられています。こうした事実は、韓国の人に自信を与えているのでしょうか。

数字にこだわるのは日本人ですよね。『誤解しないための日韓関係講義』でも説明していますが、韓国が平均賃金や一人当たりGDPで日本を抜いたのは去年の話じゃない。2015年〜18年に起きた話です。でも、その時点では日本人は反応していなかったし、一方の韓国では賃金が上がりすぎたから競争で日本に負けるという議論をしていた。

日本は去年ごろからにわかに反応しだしました。それはコロナの閉塞感や、日本はこんなにダメだったということの比較として韓国が使われるようになった。少し前まではサムソンの製品がすごい、といった話だったけど、今回は誰もそういうことを言ってませんよね。「日本はこのままじゃ大変だ」みたいな。

ーなるほど、そうかもしれません。

これは日本の議論ですよね。野球で例えるなら、日本人にとって韓国というのはAクラスとBクラスの境目にいるチームで、韓国に負けるとAクラスから落ちていく、そんなイメージなんでしょう。韓国からすると、昔はAクラスにいる日本を抜こうと思っていたけど、いつの間にか自分たちはAクラスだって思うようになって、日本の位置はあまり気にしなくなった。だから韓国の変化というより、日本の焦りの話です。少し前の中国論、中国に抜かれる、という話と同じで日本側の話なんですよ。

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