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子どもへの性犯罪を防げ 政界を動かし日本版DBS導入検討に向かわせた2人- 今、子育て世代が社会を変えている③(髙崎順子)

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「罰」「無理ゲー」と表現されるほど、ハードな日本の子育て環境。今そこで、改善のためのダイナミックな変化が起きている。それを牽引するのは30〜40代、まさに子育て世代の人々だ。過酷な状況に異議を申し立て、地道に確実に、社会と制度を動かしている。

「DBS」という言葉を知っているだろうか。保育や教育の現場など、子どもと大人が関わる場所で、有償無償に関わらず働く際に性犯罪歴等についての証明を求めるイギリスの制度だ。

同様の制度は各国で運用されており、日本でも2020年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」により、『日本版DBS』の導入に向けて検討が進められることになった。

写真はイメージ(Getty Images)

長年保育・教育業界で求められてきたこの制度の導入が、大きく前進した節目は2019年〜2020年。ベビーシッターの大手仲介サイト「キッズライン」に登録していた男性2人が、シッター業務中に複数回、子どもへ性的加害を行った事件が発覚したのだ。しかもこのサイトは、東京都のベビーシッター利用支援事業にも認定されていた。これをきっかけに、児童関係職への性犯罪者の就業を防ぐ仕組みが日本に“ない”ことが周知され、制度化を求める声が一層高まった。

その中でも、強力なタッグを組んで世論を喚起し政界の動きに寄与した、二人の人物がいる。前衆議院議員・木村やよい氏と、認定NPO法人フローレンス代表室長の前田晃平氏である。

行革推進本部縦割り行政打破プロジェクトチームで話す前田氏と図を示す木村氏(写真提供:木村氏)

前田氏にとって2020年はちょうど、娘さんが保育園に入るタイミングだった。

「一人の親として、この状況は『冗談ではない』と怒りを覚えましたね。そして私自身、以前にこの問題に関心を持つ機会がなく、この時まで"DBS"という単語すら知らなかったんです」

もう一人の木村氏が制度化に向けて動き出したのは、前田氏より数年早い、2016年頃だった。

「2014年に衆議院議員として初当選したのち、待機児童問題の集会に招かれて、児童領域で性犯罪者の就業を防ぐ制度がないことを知りました。しかもそれまで、国会でこの制度について発言した議員もいなかった。子どもを守るために、今、自分が取り組まねばと決意したんです」

父親としての怒りと、政治家としての決意。その二つがどのように繋がって反応し、国政を動かす力となっていったのか。子どもを守る新しい防犯制度が作られる、現在進行形の変革を追う。

「過去の犯罪履歴がない」ことを証明するイギリスのDBS

「児童関係職への、性犯罪者の就業を防ぐ」。文字に書くのはたやすいが、実際に制度化するには、個人情報の保護や職業選択の自由、犯罪加害者の更生支援など、考慮すべき要点がいくつもある。また運用を複雑にしては、制度そのものが形骸化するリスクもある。それらの論点に一定の折り合いをつける先進事例として、制度化を目指す人々が参照しているのが、イギリスのDBSだ。

Getty Images

DBSはイギリス司法省管轄の犯歴証明管理及び発行システムで、正式名称はDisclosure and Barring Serviceという。日本語では「前歴開示および前歴者就業制限機構」と訳され、2012年12月に設立された(出典:イギリス政府公式プレスリリース)。

イギリスでは個人の犯罪履歴をデータベース化しており、子どもや高齢者、障害者など要支援者(大人含む)と関わる仕事に就く人は、「過去に犯罪履歴がない」との証明書を入手・提出する必要がある。その証明書を作成をし、申請受付と交付を担うのがDBSだ。DBS証明書の確認なく、所定の職業で雇用・勤労するのは違法であり、その際は雇用主も働き手も処罰を受ける。

イギリスでは給与を得て従事する有償労働のほか、無償で子どもに関わるボランティアを募集・志願する際にも、DBS発行の無犯罪証明の提出が必要だ。

DBSはイギリスの中でもイングランドとウェールズで施行されており、対象人口約6千万人のうち約6万4千人が、子どもや高齢者、障害者などの業務で就業不適切者となっている(2017年3月31日時点)。

性犯罪歴の確認ができない日本の仕組みに恐怖

イギリスのDBSに近い制度は、スウェーデン、ドイツ、フィンランド、フランスのヨーロッパ諸国をはじめ、ニュージーランドでも運用されている。この制度が「ない」ことによる弊害を各国の社会が認識し、制度が必要と判断されたためだ。

日本でもDBS制度が「ない」ことの弊害は、現実に存在する。たとえば現状では、国家資格のないベビーシッターとしては、2019年・2020年のキッズライン事件のような小児わいせつの逮捕歴を持つ人物がいつでも勤務できてしまう。

写真はイメージ

またわいせつ行為は教員や保育士の欠格事由であり、逮捕によって資格を剥奪されるが、数年経てば資格を再申請できる(教育業界については2021年の法改正で各都道府県の教育委員会による再申請拒否が可能になった)。そして資格剥奪の記録が残る同業界内では再雇用を防げても、シッターや学童保育など職種を変えてしまえば、雇用者側にはその犯罪歴を確認する術はない。

実際、首都圏のある小学校では、生徒への性加害で懲戒免職になった教諭が、子どもと関わる別の施設で教員として働いたことがあった。

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