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プーチンと27回も会談したのに…この重大局面でまったく役に立たない「安倍外交」とは何だったのか

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安倍外交の本質②――国内の支持強化策として外交を利用した側面

小泉純一郎首相が勇退した2006年秋から第二次安倍政権が誕生する2012年末まで日本の首相は毎年目まぐるしく交代し、国際政治の舞台で日本の影は薄かった。安倍氏が憲政史上最長となる7年8カ月政権を維持し、各国首脳の間で「日本の顔」として定着したことは間違いない。

安倍氏は「地球儀を俯瞰する外交」を唱え、世界中を飛び回った。当初は中国に対する強硬外交が目立ったが、途中からは習近平政権と一定の信頼関係を築いたのも、安倍氏が国内権力基盤を固め、右派勢力を抑えることができたからであろう。安定した国内権力基盤こそが首脳外交に取り組む必須条件であることを安倍氏は示したといえる。

しかし、安倍氏が長期政権の恩恵を日本外交の得点に十分につなげることができたかは疑問だ。むしろ偉大な首相として歴史に名を刻む個人的野心や日本国内で内閣支持率を稼ぐためのパフォーマンスとして首脳外交を利用した側面は否めない。プーチン氏との蜜月を深めトップダウンで北方領土解決を目指した対露外交はその最たるものといえるだろう。

マスコミは安倍氏の華やかな首脳外交「安倍外交」と持ち上げる一方、その成果を厳密に検証することはなく、国民には「やってる感」ばかりが伝わった。

安倍首相が権力を私物化していると指摘された森友学園事件や桜を見る会問題などで世論の批判を浴びながらも長期政権を維持した大きな要因のひとつは「安倍外交」の演出に成功したことだろう。

しかしそれが単なる「演出」に過ぎなかったことが今、ロシア軍のウクライナ侵攻で明らかになりつつある。

仲裁ではなく核共有論に言及

安倍政権は2020年秋に退陣した。今井・北村両氏は政権中枢を離れ、岸田政権では外務省主導の外交に立ち返った。安倍氏と地元・山口で長年の政敵である林芳正氏を外相に抜擢したことは、安倍氏の影響力低下を裏付けている。

外務省にとって安倍最側近の今井・北村両氏がロシア外交を牛耳った日々はまさに「悪夢」だった。あの時代には決して戻りたくはない――。林外相をはじめ外務省から安倍氏をロシアへ派遣するという構想がみじんも出てこないのはそうした事情による。

先述の通り、安倍氏は岸田政権で非主流派に転落した菅義偉前首相とも連携し、岸田政権を揺さぶり始めた。ウクライナ情勢の緊迫に乗じ非核三原則見直しを提起したのは、被爆地・広島を地元とし、ハト派宏池会を率いる岸田首相への強烈な牽制だ。

日本が非核三原則を見直して国内に核兵器を配備することは、米ロ英仏中5カ国以外への核兵器拡散を防止する「核拡散防止条約(NPT)」体制を根本から揺るがすものであり、国際社会が認めるはずがない。北朝鮮の核開発を強く批判してきた日本外交の自己否定でもある。安倍氏がそれを承知で議論を提起したのは岸田首相や林外相を揺さぶる政局的思惑の側面が強いだろう。

つまり、ロシアのウクライナ侵攻という国際秩序を揺るがす重大局面において安倍氏が優先しているのは、欧米とロシアを仲裁する「外交」ではない。岸田政権を揺さぶるという極めて内向きな「政局」である。それが「外交の安倍」の実像だ。

外交は、政権基盤を強化するための手段

首相在任中、安倍氏はプーチン大統領と個人的な信頼関係を築いてきたと主張してきたが、現時点で全く役に立っていない。これは「安倍外交」の本質が、国内的動機や国内向けの実績を喧伝する手段に過ぎなかったことの証左といえるだろう。

仲裁を買って出るわけでもなく、国際社会からは隔絶した「核共有」論を声高に主張する元首相の姿は、7年以上に及んだ安倍外交の“真価”を端的に示している。

とはいえ、現政権は外務省主導の対米追従外交で「欧米vsロシア」の軍事対立がエスカレートする世界的な危機を乗り越えられるのか。

岸田政権はロシアへの経済制裁で欧米と歩調をあわせた。さらにウクライナに武器支援する欧米にならって防衛装備品の提供にも踏み切った。安倍政権下で武器輸出を事実上禁じる「武器輸出三原則」は撤廃されており、それに代わる「防衛装備移転三原則」の運用指針を変更して防弾チョッキなどの無償提供を断行したのだ。

人道支援や避難民受け入れとは明らかに次元の違う「軍事支援」である。プーチン氏が経済制裁を「宣戦布告」とみなして核兵器使用をほのめかすなか、ロシアと軍事的にも対立する姿勢を鮮明にしたのだ。

これは北方領土交渉に悪影響が出るというレベルの話ではない。日本の北に広がる軍事大国ロシアの脅威はもはやひとごとではなくなった。ロシアとの対立を深める欧米の背中を追いかけているうちに日本も重大な安全保障上のリスクを抱え込む事態になったのである。岸田政権にその自覚はあるのだろうか。

状況対応型でずるずる追い込まれる岸田政権の姿勢は内政でも同じだ。

ウクライナ危機で露見した「安倍外交」の実像

安倍氏らが提案する「米国との核共有」について、岸田首相は当初「非核三原則を堅持するというわが国の立場から考えて認められない」と明確に否定していた。しかし、自民党内で非核三原則見直しを議論するべきだという声が高まると、岸田首相を支える茂木敏充幹事長からも「議論の余地はある」との声が出始めた。

経済制裁で日本国内でも原油価格は急騰し、消費者物価はじわじわ上昇しはじめ、国民の暮らしを直撃している。コロナ禍に続くウクライナ戦争で安全保障や国内経済の危機は強まっているが、外務省や財務省が主導する従来型の政策決定を進める岸田官邸が事態の打開を主導する気配はほとんど感じられない。すべては状況対応型で後手後手だ。

欧米とロシアは2014年以降、ウクライナを舞台として激しい主導権争いを続けてきた。日本は安倍長期政権の下、ウクライナ情勢にはまったく無頓着で、安倍―プーチンの蜜月外交を繰り広げてきた。ロシア軍のウクライナ侵攻は国際法に反する断じて許されない暴挙だが、そうした事態を招いたのは欧米の対ロシア外交の失敗である。

そうしたなかでプーチン氏と関係強化を目指してきた日本に対して仲介役を求める声が欧米からもロシアからもその他の国際社会からもまったく上がってこないのは、いかに「安倍外交」が国際政治から遊離した頓珍漢な自己満足にすぎなかったかを物語る。

そして「安倍外交」にトラウマを抱く外務省主導の米国追従外交もまた国際社会から見向きもされていないのだ。ウクライナ情勢をめぐる国際政治のなかで日本の存在感の薄さは、この国の国力低下を如実に映し出しているといえるだろう。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部デスク、特別報道部デスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2014年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。2021年5月31日、49歳で新聞社を退社し、独立。SAMEJIMA TIMES主宰。
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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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