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個人情報のトリセツ ―― 震災から見守り活動まで、個人情報「過保護」を乗り越える 岡本正

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その他の注目事例 北杜市・横浜市・渋谷区

そのほかにも先進的な事例はいくつかありますので、おもなものをご紹介させていただきます。

(1)山梨県野北杜市北杜市では高齢者や障害者、地域で孤立する恐れのある方などを、民間事業者との協定で「ゆるやかに」見守ってもらい、自治体窓口へ通報してもらうという仕組みをつくっています。新聞配達や訪問販売の方などの、普段住民の各戸に周るような民間事業者と提携し、気がついたことがあれば通報してもらいます。

(2)神奈川県横浜市横浜市では『ひとり暮らし高齢者地域で見守り推進事業』に取り組んでいます。個人情報保護審議会の審査を得て、民生委員の方や福祉を担う公的なセンターに、ひとり暮らしの高齢者の名簿を提供します。ここでは、平時だけではなく、災害時もカバーできるしくみを目指しています。

報道によると、横浜市では、地震や津波を想定し、自力で避難できない高齢者の方や障害者手帳を持っている方をリストアップしたところ、13万人もの方が避難の際に支援を必要とされていることがわかりました。とても膨大な人数ですから、消防警察組織のみで全員を救助することは不可能です。どうしても地域で助け合う必要が出てきます。そのために、自治会や町内会、自治防災組織の方といった方へ、平時から情報提供をすることが重要です。

(3)渋谷区震災対策総合条例震災対策条例の中に、災害時における要援護者の支援を推進するために行政が保有する個人情報を、本人の同意がなくても、第三者に提供できるという条文があります。災害時だけではなく、平時からの見守り活動への活用も示唆するような内容になっています。



■役に立つガイドライン

次に、参考になる国の通知やガイドラインをいくつか紹介させていただきます。

(1)『災害時要援護者の避難支援ガイドライン』2006年に内閣府、総務省、厚生労働省が策定したガイドラインです。既存の個人情報保護法制化においても、同意なくして情報を共有できる場合があることを明記し、とくに、災害時をその典型的な場面であるとしています。

災害時は、混乱が予想されますので、平時に要支援者を把握していないと、いざというときに支援をすることができません。災害時に向けた準備のために情報を共有することで、平時からの見守り活動にも活用することができます。このガイドラインは災害時でなくても活用できるような知恵の宝庫です。

また、このガイドラインの改訂を目指す『災害時用援助者の避難支援に関する検討会報告書』の素案が、今年の1月29日に発表されました。平時からの情報共有の法制化を述べているなど踏み込んだ内容になっています。

(2)『地域において支援を必要とする者の把握及び適切な支援のための方策等について』2012年の厚生労働省や資源エネルギー庁による一連の通知をまとめた、厚生労働省からのプレスリリースです。ここでは、ライフライン関係者が得た情報を、行政機関と共有しようと提案しています。

水道、電気、ガス、新聞配達といったライフライン関係の事業者は、実際に訪問しているわけですから、「いつも、電気がついているけど、今日はついていない」「洗濯物が取り入れられてない」と、日ごろからつき合っていないとわからない変化に気がつくことができます。

既存の個人情報保護法制下でも、「生命・身体・財産」の保護という目的では、同意なくして個人情報の共有が可能であり、これを再確認するものとして参考になる通知です。

(3)『児童虐待の防止等のための医療機関との連携強化に対する留意事項について』2012年11月の厚生労働省の通知です。医療機関が児童虐待を防ぐ目的で児童相談所や市町村に情報提供することは、患者の同意がない場合でも、基本的に法令違反にならないことを改めて確認したものです。

児童虐待は医療機関の方が気づくケースが多いだろうと思います。しかし、その情報が外部に出なければ救うことはできません。もちろん、医療情報はセンシティブな問題ですので、広く公表するのは控えられるべきです。しかし、人の健康や命がかかっていますので、個人情報保護法や条例の観点からも、例外事由に該当すると考えられます。医療の現場ではプライバシーに敏感な部分がありますので、国が改めて通知を出したものだと思われます。

■個人情報保護法が「壁」だという誤解を越えて

以上のように、地域見守り活動をするために、個人情報保護条例をどう理解すれば良いかについてお話してきました。東南海で予想される大規模な地震に備えるためには、平時からの要支援者の情報共有のしくみが大切になります。被災時における救助や安否確認だけではなく、災害後の生活避難者や広域避難者支援へのネットワークとしても役立つことになります。そして、そのつながりはその後の平時からの取り組みにもつながっていくのです。

ここで、日弁連の『災害時における要援護者の個人情報提供・共有に対するガイドライン』について紹介いたします。災害時のために準備をすることは、平時の取り組みにも活用できます。「災害時における」というのを「孤立防止のため」と読み換えていただければ、活用いただけると考えます。

●災害時における要援護者の個人情報提供・共有に関するガイドライン;http://www.nichibenren.or.jp/activity/human/kourei_shogai/guideline.html

このガイドラインでは、「安否確認」と「避難後支援」というふたつのタームに時間軸を分けております。前者は、緊急度が高く個人情報を提供できる場合に該当します。後者の生活を再建していくフェーズになっても、要援護者は避難後も適切な支援がないかぎりは「緊急状態から脱していない」と考えるのが自然です。長い生活再建のフェーズにおいても、同意なくして情報を共有して、しかるべき機関がアウトリーチできる環境が必要です。

では、実際にどうやって現場で情報を共有し、行政と民間との連携関係を構築しておくのか。その点に関してもガイドラインに記載しております。

まずは第三者機関などと平時のうちから協定を結ぶことが大切です。要援護者は震災のときには孤立し、生命・身体・財産が侵される可能性があるという考えに立ち、個人情報保護条例の例外事由を活用することが求められます。もし災害が起きたときに、事前に協定を結んでいない場合でも、簡単な手続きと審査で提供できるような仕組みにする工夫が必要です。

情報を受け取る側の福祉団体やNPO団体、民間事業者の方も、行政の方が安心して個人情報を託せるような団体でなくてはいけないということです。しっかりとした管理体制なのか、セキュリティーは組まれているのか、もう一度自らを見つめ直すことが必要でしょう。大切なのは、個人情報保護法や条例についての十分な理解と研修、そして管理面での人的・物的安全性確保だと考えます。行政も専門家も民間も助け合いながら支援を行うために、どのような手続きで個人情報を共有すればいいのかについて、ガイドラインを参考にしていただきたいと思います。

以上のとおり、個人情報保護条例の例外事由をどう活用すべきかについてお話させていただきました。個人情報保護法それ自体は、個人情報を活用して、個人そのものの利益を守っていこうという法令です。個人情報を守ることによって、災害時に命が失われる、孤立していた方を発見できないということがあってはならないわけです。この講演が、個人情報の共有と利活用について、皆さまと一緒に考える契機となれば幸いです。



(2013年2月5日 「平成24年度個人情報保護法に関する説明会(消費者庁・神奈川県共催)『孤立死等を防ぐ地域見守り活動と個人情報の取り扱い~「個人情報」の共有で「個人」を守る』」の一部より)


岡本正(おかもと・ただし)1979年生。神奈川県鎌倉市出身。弁護士(田邊・市野澤法律事務所)。2001年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、司法試験合格。2003年から現事務所に所属。2009年10月から2011年10月まで内閣府行政刷新会議事務局に出向し、上席政策調査員として国の行政改革に関与。2011年4月から12月まで日本弁護士連合会災害対策本部嘱託室長を兼務。慶應義塾大学に「災害復興法学」を創設し、2012年4月から講座を受け持つ。福島大学大学院東京サテライトの非常勤講師にも招聘されている。2013年4月からは、慶應義塾大学法学部にて「災害復興と法Ⅰ・Ⅱ」を開講する。中央大学政策文化総合研究所客員研究員、中小企業庁認定経営革新等支援機関、日本組織内弁護士協会理事、実務公法学会理事、日本災害復興学会所属。著書に「3.11大震災 暮らしの再生と法律家の仕事」(共著、日本評論社)など。

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3.11大震災 暮らしの再生と法律家の仕事(新・総合特集シリーズ2 別冊法学セミナー) [ムック]

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