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  • 2022年03月14日 08:19 (配信日時 03月14日 08:19)

台湾侵攻は当分様子見?それでも習近平は諦めないはず - 斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)

ロシアのウクライナ侵略以来、米専門家の間で、中国が台湾政策の再考を余儀なくされてきたとの見方が出始めている。その背景として、世界が、同じ専制国家である中国による台湾侵攻に対しても、一段と警戒を強めて来たことがある。

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これまで、ロシアとの「戦略的パートナーシップ」を強めてきた中国は、今回、ロシアのウクライナ侵攻を受けて緊急招集された国連総会で、世界141カ国が賛成票を投じたロシア非難決議に対し、賛成でもなく反対でもない「棄権」に回った。

中国習近平国家主席は、そのひと月前に、北京を訪れた露プーチン大統領との首脳会談で、「双方にとって核心的かつ共通の利益を支持し合い、守っていく」との決意を表明したばかりだった。

にもかかわらず、中国が、プーチン大統領にとって明らかに「核心的利益」であるはずのウクライナ侵略を国連の場で支持しなかったこと自体、世界の目が早晩、台湾問題に飛び火し、中国をロシア同様の〝悪の枢軸〟扱いにすることを警戒したからに他ならない。

中国の予想に反した自由主義諸国の対応

実際、ウクライナ侵略以来、欧州、日豪などのアジア諸国含め多くの自由主義諸国が米国との緊密な連携の下に、ロシアの「蛮行と非道」を一斉に非難、驚くべきスピードで広範囲にわたる経済、金融制裁措置を打ち出し始めた結果、ロシア経済は今や、破綻寸前の状況に直面しつつある。

また今後、ロシア軍がウクライナ全土を制圧したとしても、1979年アフガニスタン侵攻時と同様、占領は長期化を強いられることは必至であり、最後はロシア国自体が、反露国際包囲網の締め付けで解体の危機に直面するシナリオもあり得る。

もちろん、世界第2位の経済軍事大国である今日の中国を、国内総生産(GDP)世界11位(1人当たりGDPは57位)、人口1億5000万人にしか過ぎないロシアの国力と同列には論じられない。

しかし、もし、中国が、台湾武力侵攻に踏み切った場合、専制主義国家ロシアの暴挙で目覚めた自由主義世界が、さらに結束を強め、結果としてごうごうたる非難と制裁に直面した中国の国際的孤立化を招くことにもなりかねない。

中国が今、台湾政策に関し、再考を迫られてきた背景には、こうした事情がある。

台湾政策再考を余儀なくされた3つの側面

米有力シンクタンクの一つとして知られるワシントンの「戦略国際問題研究所」(CSIS)は今月2日、急遽、専門家を招き「ウクライナ危機とアジア―その影響と対応」と題したパネル・ディスカッションを開催した。焦点は、ウクライナ戦争が今後の中国の台湾政策にどう影響するかに集まった。

パネリストの一人、中国問題に精通したボニー・リンCSIS「中国パワー・プロジェクト」担当部長は席上、中国は今後、武力侵攻を含めた台湾政策の再考を余儀なくされたとして、具体的に以下の点を指摘した:

「ウクライナ危機が問題化した当初、ロシアとの関係を深めつつある中国に自信を与え、今後台湾に対する圧力を一層高めるとか、米欧同盟諸国がウクライナ対応に追われ、インド太平洋警戒が手薄になるといった見方が一時、広がった。しかし、目下のところ、パワー・ダイナミックスはそのように動いておらず、米欧がウクライナ危機対応にかかりきりになったからと言って、台湾問題に対する関心が薄らいでいるわけでは決してない。

それどころか、ロシアのウクライナ侵略直後に、マイケル・グリーン元米国家安全保障会議(NSC)アジア部長ら米側代表団が訪台した例にもみられる通り、今や、ウクライナと台湾とのリンケージ論議が盛り上がってきており、人民解放軍の台湾作戦に対する警戒もこれまで以上に高まってきた」

「この結果、中国側はこれまでの台湾政策を再考せざるを得なくなってきた。そこには3つの側面がある。まず第一点は、ロシア制裁のための西側結束ぶりだ。この点に関連し、当初、中国側のアナリストたちさえも、(もし、台湾侵攻の場合でも)世界の多くの国が中国経済に依存しているがゆえに、(対ロシア制裁とは異なり」米国主導の制裁に同調しないとみていた。

ところが、実際は、対露エネルギー依存度の高いドイツを含め、予想もしない多くの国が、ある程度の犠牲をもいとわず結束を固め、対露制裁に乗り出した。このことは、関係各国が平時の場合と、危機に直面した場合とで、いかに態度が変わるかを暗示しており、それ自体が、中国側が台湾政策を立案する際の不確定要因となることを裏付けている」

「第二点は、インテリジェンス情報の役割だ。今回、ロシア軍のウクライナ侵略に先立ち、米英仏などによる莫大な量のインテリジェンス情報が事前に公開され、ロシア軍部隊の動き、クレムリン内部の政策決定などが白日の下にさらされた。その結果、米国は欧州同盟諸国とともに早い段階でウクライナに対し、各種近代兵器、軍事物資を送り込むことができた。自由主義世界全体としても、インテリジェンス情報が共有され、ロシアに対する結束と厳しい対露制裁が可能になった。

これに対し、中国では専門家も含め当初、ロシアのウクライナ侵略はあり得ないとの見方が多かった。中国当局としては今後、中国の動きに関する米側インテリジェンスが果たしてどの程度のものか、もし台湾侵攻の場合、事前に察知されず、世界にそれが知れ渡る前に、作戦遂行が可能かどうか、これから時間をかけ、慎重に検討せざるを得なくなった」

「第三点として、侵攻のスピードについての問題がある。ロシアにとって陸続きの隣国であるウクライナに対する侵攻は、多くの点で障害も少なく、かつ素早く遂行できる環境にある(現実にはそうなっていないが)。この点、百数十キロメートルも離れ、しかも海峡を渡っての台湾侵攻とは全く異なる。

ロシア軍は過去、多くの戦争を通じ、経験と実績がある。人民解放軍はこれまで、国外に大規模部隊を投入したことや、実戦経験を積んだことがない。目下のところ、ロシア軍は兵站面も含め、多くの困難に直面している。民間被害を最小限にとどめ、短期間で占領完了するという当初の目論見は外れた。

今後、首都キエフ陥落にこぎつけたとしても、ウクライナ軍側のゲリラ戦は長期に及ぶことが予想される。まして、戦争経験のない人民解放軍がすみやかに台湾侵攻作戦を遂行できるかどうか、中国政府としても立ち止まって熟考を迫られることになる」

「自由主義陣営の結束」については、パネル・ディスカッションに参加した別の参加者からも、欧州諸国のみならず、これまでロシアと比較的安定した関係を維持してきた日本、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などアジア諸国も一斉に、対露制裁に踏み切ったことが指摘され、中国による台湾侵攻に際しても「国際法違反」などを理由として、米欧諸国との協調姿勢をとるだろうとの発言があった。

中国は当面「様子見」続く見込み

米保守系シンクタンクの「ヘリテージ財団」のニュースレターも去る8日、アジア問題専門家、ウォルター・ローマン氏の見解として「北京政府は本来、西側陣営が弱体化し、短期間で決定的な勝利が得られると確信した時にのみ、台湾侵攻に踏み切ることを旨としてきた」とまず指摘した。

その上で、今回のロシアによるウクライナ侵略を受け①これまで存在意義そのものへの疑念を持たれていた北大西洋条約機構(NATO)が再び本来のNATOとして蘇りつつある、②欧州各国が軒並み防衛費増額に踏み切り始めた、③米議会では、通常戦力、核戦力強化を求める声が高まってきた、④ウクライナ国民がロシア軍相手に必死に戦う姿が世界に伝えられ、「自由、安全、繁栄」防衛の大切さが広く認識された――などの点にも言及した。

結論としてローマン氏は「中国が学んだ今回の教訓は、台湾侵攻に関しては『当分様子見』ということになる。すなわち、ウクライナ戦争後、時間の経過とともに、西側世界は地政学的な〝休眠〟状態に戻るのか、あるいはその逆に『自由世界防衛』がポスト・モダン世界の現実となるのかのどちらかということであり、習近平としてはもちろん、前者に賭けたい心境だろう」と論じている。

このほか、軍事専門家の間でも、①台湾は平たんなウクライナと異なり、山岳地帯が多く、短期間での占領は困難を伴う、②台湾に対するサイバー攻撃による通信遮断は容易ではない、③民間被害をもたらす無差別攻撃は逆効果になり、かえって住民の怒りと抵抗を煽り立てる、④台湾は今後防衛体制をより一段と強化させていく――などの見方が出ている。

ウクライナ情勢下での西側結束が最大の抑止

もちろん、こうした指摘や観測がある程度的を射たものであったとしても、中国側が「台湾統一」という究極目標を断念することは決してあり得ない。むしろ、今回、ロシアによるウクライナ侵攻と自由主義陣営の対応ぶりを貴重な教訓として、いずれ台湾侵攻に踏み切る場合でも、より慎重で洗練された軍事戦略を練り上げていく公算が大きい。

また、「ヘリテージ財団」のニュースレターも述べている通り、ウクライナ戦争が延々と泥沼化していった場合、中国としては、西側陣営の側で、対露〝制裁疲れ〟から結束に乱れが生じてくることを期待し、機の熟すのを見届けた上で強硬策に打って出るという判断もあり得る。

それだけに日本を含む西側諸国としても、今後、台湾危機を回避するために、いかに長期にわたり警戒を強め、結束を固めていくことができるかが、まさに問われてくることになる。またそれこそが、中国の台湾侵攻に対する最大の抑止力になるのである。

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